ゼロ・グラビティ(2013年アメリカ)

Gravity

いやはや、「90分一本勝負!」という感じでの映画で、これは面白かったぁ!

まぁ・・・決して完璧な傑作というわけではなく、それなりに難点もあると感じはしましたが、
それでも十分に映画としての醍醐味が詰め込まれた90分で、ドキドキ・ハラハラの連続で素晴らしい。
ほぼ全編が宇宙空間を舞台にした作品で、終始、死と隣り合わせであるという緊張感に満ちているのがスゴい。

ジョージ・クルーニーが早々に退場してしまうような扱いで、チョットだけビックリしましたが、
しっかりと途中で存在感を出してくるあたりが、なんとも心ニクい部分で全てが機能的に配列されている。
(しかも、この映画のキャストはサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーのみの2人芝居)

監督はメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロンで、98年に『大いなる遺産』をリメークした監督ですが、
あまり積極的に映画を撮る人ではないのか、どうやら本作も7年ぶりの監督作品ということだったらしい。
これだけ出来るなら、なんとも勿体ないなぁと素人的には思えてしまうのですが、これくらいが良いペースなのでしょう。

上映時間の約90分間、ほぼノンストップのサバイバル感がものスゴい。
しかも孤立無援で自由の利かない宇宙空間でのサバイバルという、緊張感が半端ない恐ろしい条件だ。

僕はあまりの臨場感に、観終わってから凄まじい没入感のある映画だなと実感させられた。
かつて、宇宙を舞台にした映画は数多くありましたし、無重力空間を表現した映画も数多くありますが、
本作ほどの臨場感と緊迫感、それらが生み出した映像への没入感を演出できた作品って、他に無かったと思います。
少々言葉が軽過ぎるかもしれないけど、これは昨今のSF映画としては突出した出来の傑作と言っていいと思います。

宇宙遊泳自体がそうだと聞くけど、無重力空間で動くこと自体が訓練を受けてないと無理だし、
漂流状態になってから「位置を教えろ!」としきりに言われますが、何も目印がない状況でクルクルと回れば、
誰だって平衡感覚や方向感覚を見失うし、そういう意味でGPSがないと位置情報など判断できないでしょうね。

そもそも訓練受けてないからエラそうなことは言えませんが...
僕なら、宇宙空間で漂流し始めた時点で何もできないでしょうね。もうアウトです。それくらいの絶望感が伝わる。
人類が宇宙工学を研究し始め、宇宙旅行までもが実現し、それなりに歴史を積み重ねてきているけど、
誰でも気軽に宇宙旅行するなんて時代がホントに来るのでしょうか? 普通に考えて、相当な訓練が必要でしょう。

この映画を観ると、ロマン溢れる宇宙遊泳がとてつもない恐怖とも解釈できるくらいのものとして描かれ、
何にしてもゼロリスクということはありませんが、自由の利かない状況での絶体絶命のピンチとは、もの凄く怖い。

未知の空間でもある宇宙空間をロマンの対象として描いた映画が多い中で、
本作のように恐怖の空間として描いたというのも数少なく、余計な感動エピソードがあるわけでもなく、
ただただ危機的状況から如何に抜け出すか、という1つのテーマだけで映画を構成したことを僕は支持したい。
感覚的には1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』とかが好きな人なら、楽しめる作品かと思いますがね。

漂流しだすと戻れない、宇宙ゴミとなった宇宙船の破片がとてつもないスピードで飛んでくる、
酸素がドンドン無くなっていくなど、いろいろと不利な要素が集まりまくっていて、ハッキリ言って絶望的な状況ですが、
それでも諦めずに生き残りをかけるサンドラ・ブロック演じる女性宇宙飛行士の葛藤が実に凄まじい緊迫感だ。

なんせ、宇宙空間に放り出されて漂流をし始めたら、ほぼ間違いなく酸素が無くなり死亡するでしょうが、
死亡後も宇宙ゴミに衝突したりしない限り、そのまま漂流し続けて、おそらく永遠に遺体は回収されないでしょう。
人類が宇宙飛行を始めてから、そんな事故が起きたという話しは聞いたことがありませんが、ありえないことでもない。
海の散骨と似た要素があるような気もするので、そのうち宇宙空間に散骨というのもできるかもしれませんね。

映画の途中からサンドラ・ブロックの一人芝居と化するのですが、時折、ジョージ・クルーニーが
刺さり込んでくる感じなのが、うっとおしい感じがしますけど、やっぱりサンドラ・ブロックが素晴らしいと思う。
ラストシーンですぐに立ち上がるのは、あまりに出来過ぎというか、現実離れし過ぎているとは思いましたが、
それでも実に堂々と清々しく演じ切っていて、ある種のカタルシスを感じるラストだったと言っていいと思いますね。
(そういう意味では、サンドラ・ブロックはもっと評価されても良かった気はするのですがねぇ・・・)

ただ、状況的に酸素の残量が減り、次々と危機的状況に見舞われて残り時間も明らかになっていると、
さすがにかなりの焦りがあって、心拍数が高まり、呼吸数も増え、酸素消費量が通常より増えると思うので、
さすがにこの女性飛行士の対処方法では、現実的にはかなり速く酸素が無くなってしまったかもしれません。

それから、国際宇宙ステーション(ISS)が燃えて粉々になってしまったがために、
中国の宇宙船を頼って、地球への帰還を試みますが、「ソユーズと一緒だから大丈夫だ」と言ってましたけど、
全く違う国の宇宙船って、そんなに簡単に操縦できるものなのか?という疑問はどうしても残ってしまいます。

そういう細かなツッコミは受けやすい部分はあるけれども、
やっぱり本作の凄みは、思わず「これはどうやって撮影したんだろうか?」と思わせる圧倒的な映像美だろう。

無重力空間をどうやって再現したのかも不思議だし、時折、カメラの端に映り込むように見える、
地球は実に美しく、登場人物は勿論のこと、観客にとっても唯一の希望であるかのように描かれている。
地球の衛星軌道上なので、宇宙空間から見れば、とても近くに見える地球への帰還がこれほどまでに尊く、
困難なものに描けるなんて、個人的には奇跡とも思えるのですが、本作のカメラはこの距離感も上手く生かしている。

得てして、こういう映画を製作するときは地球で指示を出すヒューストンのメンバーを登場させて、
無理矢理にでもドラマ性を持たせようとするのが一般的だし、今回のミッションも2人でやっていたわけではなく、
他にもメンバーがいたので、それぞれがトラブルで命を落とすエピソードを描いて、映画に厚みを持たせるものだが、
本作はそういった余計なところを一切手を付けずに、上映時間90分に絞って構成した挑戦意識が素晴らしい。

そういう意味では、女性飛行士を演じたサンドラ・ブロックが一連の危機を乗り越えようとすることで、
人類が宇宙から降り立って、まるで生誕したかのようなエピソードを、全て比喩的に描いているように見える。

僕はメニエール病を発症したことがあるので、無重力空間は全くダメだと思う(苦笑)。
ただでさえ平衡感覚、方向感覚を失うと聞くし、あれだけクルクル回り続けて、自由が利かない宇宙服となれば、
宇宙遊泳などもってのほかだろう。宇宙ステーション内での生活も難しそうで、やはり重力は有難いものだと思う(笑)。

確かに宇宙から見た地球は美しい惑星であり、感動するだろう。肉眼で見た感動は、凄まじいものでしょう。
しかし、「宇宙空間では生物は生きられない」と言われている通り、やはり宇宙空間は生命体が生きるには
適さない環境であることは明白で、だからこそ宇宙空間で様々な実験が行われ、データ取りされているのでしょう。
少なくとも重力のある、地球とは同じ条件で生きることはできないのは明白であり、それは様々な訓練を積んだ、
宇宙飛行士が地球に帰還した直後は、身体が忘れた重力を受けたり、無重力空間で疲弊する影響もあって、
上手く立ち上がれず、介助がなければ歩行がままならないことを見れば、そのギャップの大きさは明らかである。

その困難さを、ある種の恐怖体験に集中的に投影した本作のアプローチは僕は素晴らしいと思った。
そして、それを見事なまでに映像として具現化させたアルフォンソ・キュアロンの手腕の高さにもビックリだ。

これは本来は映画館で鑑賞すべき作品なのだろうが、小さな画面で観ても、十分な没入感は得られる。
賛否はあるだろうが、個人的には2013年度のアカデミー賞で7部門を獲得したというのは納得の出来であると思う。
欲を言えば、サンドラ・ブロックの頑張りがもっと報われていれば良かったとは思うけど、まぁ・・・それは仕方ない。

昨今では宇宙ゴミの増加が大きな問題となっていて、大きなものや小さなものだと回避可能らしいけど、
その中間サイズの宇宙ゴミの回避は難しいケースがあるようだ。また、巨大なまま宇宙ゴミ化したものは
ごく稀に地球の大気圏に突入しても燃え尽きたり空中分解せず、そのままの形で地球上に落下することがある。

それは隕石も同様ではありますが、地球の約70%を占める海に落下することを願うしかないですね。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 アルフォンソ・キュアロン
製作 アルフォンソ・キュアロン
   デビッド・ハイマン
脚本 アルフォンソ・キュアロン
   ホナス・キュアロン
撮影 エマニュエル・ルベッキ
編集 アルフォンソ・キュアロン
   マーク・サンガー
音楽 スティーブン・プライス
出演 サンドラ・ブロック
   ジョージ・クルーニー

2013年度アカデミー作品賞 ノミネート
2013年度アカデミー主演女優賞(サンドラ・ブロック) ノミネート
2013年度アカデミー監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度アカデミー撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度アカデミー作曲賞(スティーブン・プライス) 受賞
2013年度アカデミー美術賞 ノミネート
2013年度アカデミー視覚効果賞 受賞
2013年度アカデミー音響編集賞 受賞
2013年度アカデミー音響調整賞 受賞
2013年度アカデミー編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度全米監督組合賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(スティーブン・プライス) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞
2013年度ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞 受賞
2013年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ロサンゼルス映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度ボストン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度シカゴ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度シカゴ映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度シカゴ映画批評家協会賞美術賞 受賞
2013年度ラスベガス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度ラスベガス映画批評家協会賞美術賞 受賞
2013年度ワシントンDC映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ワシントンDC映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度ヒューストン映画批評家協会賞主演女優賞(サンドラ・ブロック) 受賞
2013年度ヒューストン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ヒューストン映画批評家協会賞作曲賞(スティーブン・プライス) 受賞
2013年度ヒューストン映画批評家協会賞技術賞 受賞
2013年度カンザス・シティ映画批評家協会賞主演女優賞(サンドラ・ブロック) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞美術賞 受賞
2013年度サウス・イースタン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度セントルイス映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2013年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞作曲賞(スティーブン・プライス) 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞編集賞(アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー) 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞美術賞 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2013年度オースティン映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度オースティン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度フロリダ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度フロリダ映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2013年度ユタ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度ユタ映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ユタ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ネバダ映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ネバダ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ノース・テキサス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度ノース・テキサス映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ノース・テキサス映画批評家協会賞主演女優賞(サンドラ・ブロック) 受賞
2013年度ノース・テキサス映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度オクラホマ映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ジョージア映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ジョージア映画批評家協会賞美術賞 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度トロント映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ロンドン映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ロンドン映画批評家協会賞技術賞 受賞
2013年度ダブリン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度ダブリン映画批評家協会賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞
2013年度ダブリン映画批評家協会賞撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(アルフォンソ・キュアロン) 受賞