ゴスフォード・パーク(2001年アメリカ)

Gosford Park

1932年の冬、ロンドン郊外に暮らす大富豪がホーム・パーティーを催し、
そこに集まった富裕層の数名の男女。彼らに仕えるため、従者たちは大忙し。
メイン・イベントの雉狩りが終わった2日目の夜、トンデモない大事件が起こってしまう・・・。

アメリカの巨匠ロバート・アルトマンが描くイギリス上流階級を徹底的に皮肉ったブラック・コメディで、
一見するとミステリー調に映画全体を装わせているという、二重構造がユニークな作品だ。

ただ...個人的には、こういうロバート・アルトマンは苦手だなぁ。。。
映画が始まって1時間20分経って、ようやっと事件が起こるのですが、色々と意味ありげに見せながら、
ずっと何も起こらないという、観客を牽制し続けている内容であるかのようで、ヤキモキさせられます。

劇中、様々な人間模様が描かれるのですが、
物語のメイン舞台では上流階級の人々が優雅なひと時を楽しみ、
その部屋のすぐ隣では、従者やメイドたちがせっせと上流階級の人々のゴシップに花を咲かせます。
これも言わば二重構造となっており、確かに上手くクロスオーヴァーさせながら描けていると思いますね。
群像劇に関して言えば、ロバート・アルトマンの手腕は定評がありますから、さすがの出来と言えますね。

ケリー・マクドナルド演じるメアリーを中心に映画を構成しているのですが、
彼女が実質的な探偵として機能し、劇中で発生する事件の真相を暴くのですが、
ハッキリ言って、本作にとって事件の真相とはどうでもいい話し。

むしろ自らの保身や利益のために右往左往する上流階級の人々の行動や発言を、
少し斜めな視線からシニカルに描いており、相変わらずのロバート・アルトマンのスタイルであります。

事件の真相や真犯人がどうでもいいことを端的に象徴させているのは、
映画の途中から屋敷に加わるロンドン市警の刑事に強く反映されております。
まるで『ピンク・パンサー』シリーズのクルーゾー警部のようにボケを連発しており、
本気で事件を解決させようとしているのか否か、観客にはまるで分からないというぐらい的外れな行動ばかり。

しかも半ば消化不良のように、事件のカラクリが明かされ、映画は終焉を迎えます。

つまり、ロバート・アルトマンはミステリーとしての側面を放棄しているのですよね。
言ってしまえば、アガサ・クリスティの小説ばりのミステリーの土台は、あくまで借り物にしかすぎない。
この映画の本性は、クライマックスでそそくさと屋敷から出て行く富裕層の人々と、
薄暗い部屋で耐え切れずに泣き崩れるベテランのメイドを対比させるシークエンス。正にここにあると思うのです。

ロバート・アルトマンはカメラの前で、意地悪い笑顔を浮かべながら、
「金持ちは何があっても変わらん。裏方がいつもこうやって泣かされるのさ」と言わんばかりです。

個人的にはマギー・スミス演じるトレンサム伯爵夫人が最高に面白かった。
「若く経験の浅いメイドは、安く仕えるからいいものよ」と公言し、どんなに強い雨だろうが、
携帯ポットのフタが開かない程度で車を止めさせ、メイドに降りさせてフタを開けさせ、
挙句、「寒くて凍えそう。早くドアを閉めなさい」と冷淡に言い放つワガママっぷり。

自分には家事をこなす能力も、稼ぐこともできないものの、
ウィリアムから言われた「一生、面倒を看てやる」との言葉を信じ、彼の援助にすがる有り様。
同席した若い夫人は徹底的にいびり倒し、メイドにも悪口の連発と、ある意味でやりたい放題。

同席した映画俳優には、
「あなたの最新作は最低だったわね。ああいうのに出演した後の気持ちってどうなの?」と
質問された相手を思いっきり不快にさせる質問を、堂々とぶつけられる傲慢さ。

どれも人間の嫌な部分のみを凝縮したような振る舞いだが、
そんなキャラクター造詣に見事に応え、徹底的に嫌味に演じ切ったマギー・スミスはお見事でしたね。

ただ、それでも僕はどうしてもこの映画は好きになれないと思う。
まぁ元々、ロバート・アルトマンの映画が苦手だから宿命なのかもしれませんが、
核となるべき突出して魅力的なエピソードが見当たらないのは、いただけません。

唯一、映画の序盤から魅力的と感じていたエミリー・ワトソン演じるエルシーのエピソードが
性急な処理をされてしまったことに、失望してしまったことが大きかったかもしれません。

どうせなら彼女もヒステリックにディナーの席からドロップアウトするより、
ウィリアムの妻の“口撃”に耐え切れず、逃げ出してしまうという展開の方がずっと良かったと思う。
確かにエルシーの描き方は序盤から一貫して強気な女性として通してはいましたが、
少なくとも長年、エルシーはウィリアムの屋敷でメイドとして仕えていたわけで、
いとも簡単にヒステリックを起こしてしまうというのは、いささか説得力に欠ける性急な処理だったと思う。

とは言え、06年にロバート・アルトマンは他界してしまったため、
もう彼が監督する映画は新しく出てくることはありません。そう考えれば、本作は晩年の一作に当たります。

数多い登場人物の会話の数々を絶妙なアンサンブルをもって構成し、ひどく混乱した内容には
ならなかったのは流石と言わざるをえず、これは力のある人が撮った映画であることは確かだ。

まぁこれだけ出来ていたということは、ディレクターとしての腕は衰えていなかった...とは解釈できますがね。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロバート・アルトマン
製作 ロバート・アルトマン
    ボブ・バラバン
    デビッド・レヴィ
原案 ロバート・アルトマン
    ボブ・バラバン
脚本 ジュリアン・フェローズ
撮影 アンドリュー・ダン
音楽 パトリック・ドイル
出演 マイケル・ガンボン
    マギー・スミス
    クリスティン・スコット・トーマス
    ケリー・マクドナルド
    ボブ・バラバン
    カミーラ・ラザフォード
    チャールズ・ダンス
    ジェラルディン・ソマーヴィル
    ライアン・フィリップ
    ヘレン・ミレン
    エミリー・ワトソン
    アイリーン・アトキンス
    トム・ホランダー
    スティーブン・フライ
    ジェームズ・ウィルビー
    アラン・ベイツ
    デレク・ジャコビ
    ジェレミー・ノーサム
    クローディー・ブレイクリー
    トレント・フォード
    クライブ・オーウェン
    リチャード・E・グラント

2001年度アカデミー作品賞 ノミネート
2001年度アカデミー助演女優賞(マギー・スミス) ノミネート
2001年度アカデミー助演女優賞(ヘレン・ミレン) ノミネート
2001年度アカデミー監督賞(ロバート・アルトマン) ノミネート
2001年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジュリアン・フェローズ) 受賞
2001年度アカデミー美術賞 ノミネート
2001年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2001年度全米俳優組合賞助演女優賞(ヘレン・ミレン) 受賞
2001年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞(ジュリアン・フェローズ) 受賞
2001年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ヘレン・ミレン) 受賞
2001年度全米映画批評家協会賞監督賞(ロバート・アルトマン) 受賞
2001年度全米映画批評家協会賞脚本賞(ジュリアン・フェローズ) 受賞
2001年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞 受賞
2001年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ヘレン・ミレン) 受賞
2001年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ロバート・アルトマン) 受賞
2001年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(ジュリアン・フェローズ) 受賞
2001年度ロンドン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2001年度ロンドン映画批評家協会賞助演女優賞(ヘレン・ミレン) 受賞
2001年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(マギー・スミス) 受賞
2001年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(マギー・スミス) 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ロバート・アルトマン) 受賞