グッド・ウィル・ハンティング／旅立ち（１９９７年アメリカ）
Good Will Hunting
マット・デイモンがハーバード大学時代に執筆していた戯曲を基に、
盟友のベン・アフレックと共に製作したハーバード大学で清掃員のアルバイトをする素行不良の青年が、
実は天才的な頭脳の持ち主で、そんな彼を更生させるために面談する、心理学者との交流を描いたドラマ。
監督は『ドラッグストア・カウボーイ』で名を上げたガス・ヴァン・サントで、
なかなか素直になり切れない精神的な難しさと、心を閉ざした心理学者のやり取りを繊細に描き出していきます。
映画の設定としては、マサチューセッツ工科大学（ＭＩＴ）の学生や教授でも解けないような問題を
いとも簡単に解けるという天才青年が、実は清掃員のアルバイトだったというのは、ありがちな感じがしますけど、
この映画が評価されたところは、なんとかして青年を立ち直らせようとする教員にスポットライトを当てたところだろう。
そういう意味では、映画賞レースで高く評価されたロビン・ウィリアムスもそうだが、
最初に主人公ウィルの能力に気付いたハーバード大学のランボー教授を演じたステラン・スカルスゲールドも同様で、
この２人の過去の因縁を含めて、天才というキーワードに傾倒し過ぎないように描いたのは、特徴的ではあると思う。
２人はかつてのルームメイトでありながらも、学者としてもＭＩＴの教授になって、
フィールズ賞を受賞するなど成功者としての道を歩んだランボー教授に対して、最愛の妻を失って精神的に落ち込み、
心理学者としても斜陽の道を歩んできたショーン講師の対照的な２人の精神的な葛藤がクローズアップされます。
ウィルをめぐって、２人の意見は対立しますが、ウィルの自立を焦ることを恐れたショーンはウィルの能力を
還元しなければならないとウィルに企業との面談に行かせるように主張するランボーに反発し、激しく衝突します。
「勝者」と「敗者」という観点から語るランボーに対して、あくまでウィルの自立を促したいショーン。
この２人の衝突は映画に一つのアクセントをつけることになり、ウィルという一人の青年の人生を左右する
重大な局面に揺れる２人の男の意見の対立が、なんとも熱い（笑）。これは本作の大きな特長になっています。
これを学生時代のマット・デイモンが実際にシナリオとして書いていたというのが、驚きでもありました。
僕は本作がアカデミー賞にノミネートされた年の授賞式を、当時ＮＨＫ−ＢＳで観ていた記憶があって、
特にオリジナル脚本賞でマット・デイモンとベン・アフレックが、若々しく微笑ましいスピーチをしていたのは新鮮でした。
（あの時は、２人とも日本ではほぼ無名の役者であっただけに、若い勢力の台頭を象徴していたと思う）
僕は、主人公ウィルが幼い頃から心に大きな傷を受けて、それを背負って生きてきたという
大前提があるのは分かりますが、それが彼の人生にどれだけの影響を与え、何度も繰り返し暴行などの
素行不良という前科を付けていたのか、その関係性がよく分かりませんでした。勿論、こういうことは現実にあるだろう。
ただ、シビアに言ってしまうと、自分がやられる痛みが分かっているのに、多少の理不尽さも含めて他人に暴力を
向けるというのが、結局、ウィルという青年の人間性を肯定する要素になっていないような気がして、どうにもノレない。
映画の中でも、裁判で理屈をこねまくって反省の色が見えないなど、
これは「ヤンチャしてた過去がある」というレヴェルを超えているでしょう。この辺は賛否が分かれるところ。
個人的にはあそこまでウィルの素行不良なところを強調して描く必要はなかったのではないかと思うんですよね。
ガス・ヴァン・サントからすれば、脚本を書いた新人俳優を起用したので、
逆にアレンジしにくかったかもしれませんが、もっとウィルの描き方については考えて欲しかったなぁ。
しかし、それでも演じ切ったマット・デイモンは立派。自分で書いたシナリオなだけに思い入れも強かっただろう。
何故に大学構内の廊下に書かれた生徒に向けた難問を見て、答えを書きたくなったのかは分からないが、
それだけウィルが知的好奇心旺盛で、それでいて自分を上手く表現できないことの裏返しなのでしょう。
そんな複雑な感情を抱えたウィルを、実に巧みに表現している。彼が注目を浴びたのは、当然の結果でしょう。
そして、ミニー・ドライバー演じるＭＩＴの女学生スカイラーとウィルのロマンスは惹かれるものがある。
このロマンスに関しては、素直になり切れないウィルのおかげで破綻を迎えたように描かれますが、
それでも考え直すウィルを描くことで、現在進行形のようなポジティヴさをもって映画が終わることになります。
エンド・クレジットで流れるエリオット・スミスの主題歌が心地良く、なんとも言えないドライヴ感も良い感じだ。
（エリオット・スミスは残念ながら０３年に自ら命を絶ってしまいましたが・・・）
「終わり良ければ、全て良し」とまでは言わないけど、この終わり方は正解だったと思う。
結局、ウィルにとっては他人に敷かれたレールの通りに生きていく人生を歩むことは、本望ではないということだ。
どうやら本作での共演がキッカケでマット・デイモンとミニー・ドライバーは交際していたようですが、
失礼ながらもミニー・ドライバーはどこか庶民的な雰囲気で、オーラがプンプン漂っている女優さんという
感じではないのが逆に良い。それもあってか、スカイラーというサバサバした性格の女性が魅力的に映る。
彼女をキャスティングできたことも良かったと思いますが、彼女自身もよく頑張っていると思いましたね。
２人のロマンスは初々しくも、どこかもどかしさを感じさせる恋愛で繊細な部分がある。
カフェで食事をしている最中にアッサリとキスして交際スタートとなるものの、ウィルは自分の素性をスカイラーに
素直に言うことができず、孤児であることを隠し続け、最終的にはスカイラーと衝突して彼女の突き放してしまう。
まぁ・・・ウィルの生い立ちには同情的になる部分もあるけど、
スカイラーを思いっ切り突き放してしまうあたりには、ウィルの精神的な難しさと同時に、スカイラーには酷に見える。
おのずとウィルの不幸な生い立ちを悟っていた彼女なりに、ウィルに寄り添う意思を見せていただけに。
もう少しマイルドに描いても良かったかなぁ。ウィルの若さゆえというところもありますが、少々気難し過ぎるかも。
普通に考えたら、あそこまで突き放してしまうと、もう“修復”できないですよね。
ここまで突き放してしまうと、さすがにウィルの行動が独りよがりな感じにも見えてしまって、どうもダメでしたね。
（映画はポジティヴな感じで爽やかに描いてはいるのですが、「ホントにそれでいいのかよ・・・」と思ってしまった）
個人的には、ベン・アフレック演じるチャッキーが映画の“オイシイ”ところを持って行った感じに観えた。
悪友の存在を際立たせる映画というのは、他にもあったと思いますが、本人が脚本書いてるというのも珍しい（笑）。
日本でも古くからの悪友とか、親友関係ってありますけど、
この映画のチャッキーはウィルと昔から悪さばかりしていたものの、ウィルの能力の高さには気付いていて、
「自分たちといつまでも一緒にいるとウィルがダメになる」と思っていて、ずっとウィルの背中を押そうとしているという
友人を想う気持ちが強い親友なのですが、ウィルの旅立ちを悟る姿が本作のハイライトだったと思う。
マット・デイモンが本作のオリジナルを書いていたということで、
その時点でチャッキーはいたと思うのですが、そんなチャッキーを自分で演じてしまうなんて、
この頃からベン・アフレックもしっかりしていましたね（笑）。本作が彼の出世作となり、スターダムを駆け上がりました。
オスカーを受賞したロビン・ウィリアムスが評価されたのは良かったし、
マット・デイモンもベン・アフレックもスターになったことだけでも価値はあるのでしょう。
しかし、僕にはどうにもガス・ヴァン・サントが全体のバランスを整えて撮ったという印象を受けないことと、
製作会社のミラマックスのビジネスライクなところが反映されている作品のような気がして、賛同できない部分がある。
（まぁ・・・映画産業というだけあって、映画はビジネスでもありますから全否定はできないですけどね．．．）
実際、この頃はミラマックスの露骨な映画賞狙いのマーケティングがエスカレートしていましたからね。
本作も少しずつ過剰に映るのが気になったのですが、それがマイルドになっていれば凄く良い作品です。
（上映時間１２６分）
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜７点
監督 ガス・ヴァン・サント
製作 ローレンス・ベンダー
脚本 ベン・アフレック
マット・デイモン
撮影 ジャン＝イブ・エスコフィエ
美術 メリッサ・スチュワート
編集 ピエトロ・スカリア
音楽 ダニー・エルフマン
出演 マット・デイモン
ロビン・ウィリアムス
ベン・アフレック
ミニー・ドライバー
ケイシー・アフレック
ステラン・スカルスゲールド
コール・ハウザー
１９９７年度アカデミー作品賞 ノミネート
１９９７年度アカデミー主演男優賞（マット・デイモン） ノミネート
１９９７年度アカデミー助演男優賞（ロビン・ウィリアムス） 受賞
１９９７年度アカデミー助演女優賞（ミニー・ドライバー） ノミネート
１９９７年度アカデミー監督賞（ガス・ヴァン・サント） ノミネート
１９９７年度アカデミーオリジナル脚本賞（ベン・アフレック、マット・デイモン） 受賞
１９９７年度アカデミー主題歌賞（エリオット・スミス） ノミネート
１９９７年度アカデミー音楽賞＜オリジナル・ドラマ部門＞（ダニー・エルフマン） ノミネート
１９９７年度全米俳優組合賞助演男優賞（ロビン・ウィリアムス） 受賞
１９９７年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞（ベン・アフレック、マット・デイモン） 受賞