グッドナイト&グッドラック(2005年アメリカ)

Good Night, And Good Luck

1950年代アメリカ、米ソ冷戦下で吹き荒れた共産主義者排除活動“赤狩り”に揺れる、
報道番組のキャストやスタッフたちの苦悩と、マッカーサー上院議員との対決を描くノンフィクション・ドラマ。

人気俳優ジョージ・クルーニーの第2回監督作なのですが、
僕は彼の初監督作『コンフェッション』にはあまり入り込めなかったのですが、
本作の出来には感心しましたね。あとチョットで傑作と呼んでもいい完成度の高さだと思います。

多くのファンが予想している以上に、
言葉悪くすれば「クソ真面目」な映画になっているのですが、この一貫性は凄いと思う。

アメリカCBSが抱える人気報道番組『See It Now』のホスト、
エド・マローはジャーナリストとしてマッカーシズムと対決することを決意します。
しかし“赤狩り”を脅威に感じていたマスメディアはエドの姿勢を敬遠し、タカ派は彼の存在を批判します。
当然、CBS内でも賛否両論。会長からの圧力もかけられ、エドは苦悩の日々を繰り返します。

この映画はエドの内面までは掘り下げていませんが、
さり気ない描写によって、エドの人間臭い一面を見事にフォローしております。
特にエドが決め台詞「Good night, and good luck」と言い、カメラから目線を放し、照明も落ちます。
しかし映画はそこでフェードアウトさせるのではなく、本番が終わる瞬間のエドの表情を映します。
たぶんにエドが恐れていたのは、政治的圧力を利用した彼らの報道に対する報復行為だ。
そしてその報復の対象がエドだけならともかく、スタッフに及ぶことを強く恐れていたはずなのです。

エドは報道する内容、そしてジャーナリストとしての姿勢には自信をみなぎらせていたものの、
本番が終わる瞬間の表情は何とも苦悩の表情を浮かべる。それは常に圧力との闘いを強いられているからだ。

普段もタバコを常に持って、エドは日常生活からジャーナリストとしてのイメージを崩しません。
それでいながら彼は常に不安や圧力の脅威と闘い、自信がみなぎる表情と不安な表情を交互に見せます。
それだけ当時のマッカーシズムとの闘いは困難を極めたわけで、危険な行為だったのです。

僕はこういう見せ方に感心しましたね。
映画監督としては実に堅実な見せ方をすると同時に、実に細かいところまで気を配って演出している。
その成果か、この映画でエド・マローは実にカッコ良く、そしてスマートに描かれている。

勘違いして欲しくはない。確かに本作は伝記映画でノンフィクションだが、
エドが決して過剰なまでにヒーロー面して描かれているわけではない。
あくまで静かで地味なヒーローなのです。どこか知性を感じさせ、苦悩の表情を浮かべながらも、
ジャーナリストとしては何処か強い芯の通った、他の追従を許さない緊張感が漂っています。
そういう感覚全てを考慮して、ジョージ・クルーニーはエドというジャーナリストを上手く描けていると思う。

また、エドを演じたデビッド・ストラザーンが素晴らしかったですね。
かつて『ザ・ファーム/法律事務所』や『L.A.コンフィデンシャル』なんかに出ていましたけど、
すっかり忘れていましたよ(笑)。久しぶりの大役で、申し分の無い素晴らしい芝居だったと思いますね。

いつも脇役なのに、今回はほとんど出ずっぱりの役どころでしたけど、
ダンディズムとも言える、男の色気をほのかに漂わせる名演と言っても過言ではないと思います。

おそらく、もっといろんなエピソードを詰め込んだり、
もっと長期間かつ多岐にわたるエドの闘いを描いても良かったとは思うのですが、
欲張らずにピンポイントにエドがマッカーシズムに闘いを挑む姿を捉えたかったのでしょうね。
確かに物足りなさを感じるかもしれませんが、一方でこの映画には一切、無駄がありません。
僕はこれはこれでジョージ・クルーニーのクレバーな選択だったと思い、この選択を尊重します。

モノクロ撮影に関しては、その必要性も含めて賛否が分かれるだろうが、
気ダルいジャズのテーマと相まって、僕は映画の雰囲気を作り出すものとしては悪くないと思う。
特にエドがカメラ目線で視聴者に語りかけるシーンのためには、全編、モノクロにする意味があったと思いますね。

この映画、タバコを一つアクセントとして敢えて映していることは否めないのですが、
どうせならラスト、CBS会長の部屋で2人っきりで話すフレッドを待つエドの撮り方を工夫して欲しかった。
この映画はあくまでエドを主体にして全てのシーンを構成しているので仕方ないのかもしれませんが、
どうせなら壁越しにフレッドが部屋から出てくるエドを映すのではなくって、
部屋の出口からエドが待っている壁側を映して、壁越しにタバコの煙が漂っているという撮り方をして欲しかった。
(あくまで主観だが...)そうすれば、最高にカッコいい映画のラストシーンになったのに・・・。

まぁおそらく、ジョージ・クルーニーは今後も映画監督としてのキャリアを伸ばしていくでしょうし、
私生活では熱烈な民主党支持者ですから、本作のような政治的ニュアンスを含む映画を手がけるでしょう。
『コンフェッション』と比べると、格段に映画のレベルがアップしているので、今後が楽しみですね。

それにしても21世紀となった今は報道のあり方も様変わりしていますが、
エドは「偏りのない報道はありえない」と公言しながらも、自分の意見のみを述べる報道は避けた人です。
そういう意味では今はどのニュース番組を観ても、キャスターが主観的な意見ばかりを述べ、
その存在意義もよく分からない解説員が横にいたりします。

あくまで僕個人の意見なんだけど、報道番組って事実のみを伝えて欲しいと思うんですよね。
それが恣意的であったり、偏向的になってしまっては、視聴者の感情が誘導されがちです。
世の中の不条理を訴えるのも結構だけど、極論、それは一般市民の役割だと僕は思うんですけどね。。。

なんか毎夜、ニュース番組を観るたびに気になる今日この頃だったりします。。。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョージ・クルーニー
製作 グラント・ヘスロヴ
脚本 ジョージ・クルーニー
    グラント・ヘスロヴ
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 スティーブ・ミリオン
出演 デビッド・ストラザーン
    ジョージ・クルーニー
    ロバート・ダウニーJr
    パトリシア・クラークソン
    レイ・ワイズ
    フランク・ランジェラ
    ジェフ・ダニエルズ
    テイト・ドノヴァン
    トーマス・マッカーシー
    ロバート・ジョン・バーク

2005年度アカデミー作品賞 ノミネート
2005年度アカデミー主演男優賞(デビッド・ストラザーン) ノミネート
2005年度アカデミー監督賞(ジョージ・クルーニー) ノミネート
2005年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ) ノミネート
2005年度アカデミー撮影賞(ロバート・エルスウィット) ノミネート
2005年度アカデミー美術賞 ノミネート
2005年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
2005年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・エルスウィット) 受賞
2005年度ボストン映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・エルスウィット) 受賞
2005年度サンフランシスコ映画批評家協会賞脚本賞(ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ) 受賞
2005年度フェニックス映画批評家協会賞監督賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2005年度カンザスシティ映画批評家協会賞脚本賞(ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ) 受賞
2005年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(ロバート・エルスウィット) 受賞
2005年度ヴェネチア国際映画祭主演男優賞(デビッド・ストラザーン) 受賞
2005年度ヴェネチア国際映画祭脚本賞(ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ) 受賞