60セカンズ(2000年アメリカ)

Gone In 60 Seconds

かつて名うての車泥棒だったメンフィスが、
弟が巻き込まれたトラブル解決のため、6年ぶりに故郷へ戻り、再び車泥棒を行う姿を描いたアクション映画。

90年代後半は特に絶好調だったジェリー・ブラッカイマーのプロダクションが、
巨額の製作費を投じ、次から次へとド派手なスタント撮影を敢行したカー・アクションで、
ある意味では良くも悪くもハリウッドを象徴した作品であり、00年代に入ると急速に衰えた勢力だ。

決して、つまらないわけではないのですが、例えば同じニコラス・ケイジ主演作と比べるなら、
『ザ・ロック』や『コン・エアー』と比べると、幾分か落ちる出来の作品だと思う。

それはメガホンを取ったディレクターの違いが大きいとは思うのですが、
本作はとにかくノンストップで流れる音楽に、完全に内容が負けている感じですね。
半ば無理矢理、映画を盛り上げようと音楽を流しているのですが、これが明らかに逆効果なのが残念。
ドミニク・セナには、もっと落ち着いて映画を撮って欲しいと思いますね。さすがにこれでは騒がし過ぎます。

このドミニク・セナ、結構、企画自体に恵まれたディレクターなのですが、
本作の後に撮った『ソードフィッシュ』といい、せっかくの企画を活かし切れませんね。
できることなら、改めて映画に対するアプローチを考え直して欲しいと思います。このままでは良くなりません。

24時間のタイムリミットで、車50台の窃盗を強いられるなんてスリリングな条件だし、
あくまでエンターテイメントとして考えれば、この程度のストーリーでも十分に楽しめると思う。
しかし、今一つ音楽が騒がしい割りに、アクション的な側面で盛り上がり切れず、不発なままで終わります。

が、ただ、とにかくテンポが良いことが功を奏してか、
映画にダルい感覚が一切なく、勢いにノッたままノンストップで進行するのは良かったですね。
大迫力の市街地でのカー・チェイスに加えて、窃盗団を追う警察との微妙な関係なども悪くない。
そして紅一点的な存在として登場した、まだ当時、ブレイクして間もない頃のアンジェリーナ・ジョリーも良い。
(強いて言えば、彼女はお色気担当かと思いきや、最後の最後まで何も無かったのが...だが)

さりとて、無理難題とも思える課題を、何とかしてチームで解決する姿を描いたのも上手い展開だ。

まるで兄貴の愛情に応えていない弟の存在も、終盤までイライラさせられるが、
映画のクライマックスではしっかり、それなりの帰結に収まるのも、如何にもハリウッド(笑)。

ただ、もう少し窃盗を実行するにあたって、オペレートする感覚があった方が良かったですね。
おそらく本作ならば、ロバート・デュバル演じる年老いた自動車修理工がその役割を果たすべきなんだけれども、
何処となく中途半端で、それぞれの登場人物が半ば行き当たりばったり的に計画を遂行しているような感じで、
今一つ彼らの用意周到さや、賢さが伝わってこないのは、映画にとってマイナスだったと思う。

映画のクライマックスのアクション・シーンが不発だったのも残念ですね。
強いんだか、弱いんだかよく分からない悪役のおかげで、クライマックスの達成感に欠けますね。
この辺は映画の作り込みが甘かったのではないかと指摘されても、仕方がないような気がしますねぇ。

そういう意味では良いところと、悪いところがハッキリしてしまった作品です。
ジェリー・ブラッカイマーのプロダクションの映画としても、これが最高水準の作品だとは思えませんし。
特に本作はH・B・ハリッキーが74年に撮った『バニシング IN 60”』のリメークなだけに、
あの伝説的なカー・チェイスをフィルムに収めたと称賛される『バニシング IN 60”』と比べると、
ひょっとしたら大きく見劣りする結果と言っても、過言ではないような気すらしてしまいます。
(スミマセン...実は僕、『バニシング IN 60”』はまだ観たことがないので、完全に推測で言ってます。。。)

主演のニコラス・ケイジは、今になって思えばピークだった頃の出演作かもしれません。
この頃の彼の出演作の多くは、商業的にも成功を収めており、スター俳優としての地位を確立した頃ですね。

但し、その割りには、これから大仕事に行くってときに、
テンション上げるために音楽を聴いて行くのですが、このときの仕草が何とも情けなかったけど・・・(苦笑)。

まぁ・・・あまり過度に大きな期待をしなければ、それなりに楽しめる内容ではあると思います。
映画のヴォリューム的にも丁度良く、映画の最初の勢いを維持したまま最後まで突っ走ってくれます。
アンジェリーナ・ジョリーが好きで好きで堪らないという人も、そこそこ満足できる内容でしょうし(笑)。

こういう映画が次第に減ってきていることは残念でなりませんが、
時代のニーズが変わってしまったこと以上に、この手のエンターテイメントをしっかり作れるディレクターが
今のハリウッドにほとんどいなくなってしまったことが、ひじょうに大きな痛手となっているような気がしますねぇ。
本作でのドミニク・セナにしても、もっと落ち着いた映画を撮れておれば、また変わっていたはずです。

やっぱり、派手な映像処理でしかスピード感を演出できなくなってきた枯渇感は否めないですね。
もっとアイデアや工夫を活かして、動きを表現するテクニックを身に付けて欲しいと思います。

そう、それがかつて出来ていたディレクターと言えば...ウィリアム・フリードキン、彼しかいないのです!
最近はすっかり創作ペースが落ちて、ハリウッドでも「過去の人」扱いされていますが、
もう一度だけでいいから、彼にカー・アクションを撮らせる機会を与えて欲しいですね。
(まぁ・・・おそらく同意してくれる人は、皆無だろうけど・・・)

と、なんだかネガティヴな嘆きが出てしまう今日この頃でした(苦笑)。。。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ドミニク・セナ
製作 ジェリー・ブラッカイマー
    マイク・ステンソン
脚本 スコット・ローゼンバーグ
撮影 ポール・キャメロン
編集 ロジャー・バートン
    トム・マルドゥーン
    クリス・レベンソン
音楽 トレバー・ラビン
    イアン・ボール
出演 ニコラス・ケイジ
    アンジェリーナ・ジョリー
    ジョヴァンニ・リビシ
    ロバート・デュバル
    ウィル・パットン
    デルロイ・リンド
    チ・マクブライト
    ヴィニー・ジョーンズ
    ウィリアム・リー・スコット
    スコット・カーン
    ジェームズ・デュバル
    ティモシー・オリファント
    クリストファー・エクルストン
    T・J・クロス
    ボーディ・エルフマン