ゴーン・ガール(2014年アメリカ)

Gone Girl

そんなに単純にまとめられるほど、簡単な映画ではないけど...
要するに、これは「女を怒らせると怖い」ということがテーマになっているわけですね。

まぁ、単純に面白い映画だとは思う。映画の出来も悪いとは思わない。
あくまでミステリー映画としての体裁を持っている映画ではありますが、本編を観てみれば分かりますが、
謎解きありきの映画かと言われると、一概にそうとは言い切れない内容ですので、他の映画と比較すると、
今まであまり無かったような視点から描いたミステリー映画という感じで、とてもユニークに映ると思う。

ただ、いつものデビッド・フィンチャーの監督作品の調子を期待すると、やや肩透かしかも。

一見すると、雰囲気だけは満点なんだけれどお、どこかパンチが足りないというか、
彼らしい視覚的なトリックが映画に隠されていない。正攻法で撮ったというなら、もっと違う語り方をすべきだろうし。

そういう意味で、いくらでもデビッド・フィンチャーらしい映画にしようと思えばできた企画だったのですが、
どこか中途半端というか、どこか彼らしい演出が吹き込まれなかったという物足りなさが残りましたね。

唯一、良かったのは、ベン・アフレック演じる夫ニックが精神的、そして社会的にも追い込まれていく様子、
そして急転直下するように、妻エイミーが精神的に追い込まれていく状況を、様々なアプローチで表現し、
特に心理面での緊張感を煽っていく演出があったことで、特に映画の後半の展開は見どころとなっている。

劇場公開当時、大きな話題となった妻エイミーを演じたロザムンド・パイクは、
確かに凄まじいまでの怪演と言ってもよく、特に彼女の目的が明確になってきてからの芝居は素晴らしい。
あくまでストーリー面で言えば、あまりにエイミーの行動が上手くいき過ぎる点ではどうかと思うが、
それが本作にとって致命的なミステイクになることなく、映画の最後の最後まで乗り切ってしまったのは、
やはり彼女の凄まじいまでの怪演のおかげと言っても過言ではないだろう。これはホントに価値ある仕事です。

あまり現実的な流れを汲んでおらず、全体的にドラスティックに展開する映画なだけに、
それらを演じる役者たちの人選はとても重要であったはずで、このキャスティングの成功が本作にとって大きかった。

とある年の7月5日の朝に突然、自宅から失踪した妻エイミー。
まるで何か事件があったかのように荒れ果てた自宅に驚き、いるはずの妻を探しても見つからず、
警察に通報した夫ニック。しかし、この2人の夫婦は様々な問題を抱えていて、作家であったエイミーが失踪した
この事件の裏側には、実にセンセーショナルな真実が隠されていたというわけで、事件の様相も二転三転します。

本作の面白い要素としては、事件を報道するマスコミの無責任さもしっかり描いている点で、
事件を断片的に報道し、「コイツが犯人である!」と一方的な報道を続け、真相が違っていても、
あたかも開き直るかのように、“報道の自由”という一言で片づけられてしまう。

言ってしまえば、ニュース番組のキャスターに言わせれば、「世論を代表した報道だったのよ」とのことだったが、
その世論を誘導するかのように報道していたわけで、報道に現実にミスリードされてしまう世論の恐ろしさ。

デビッド・フィンチャーがそこまで深く考えていたかは、正直言って謎ですが(笑)、
ただのワイドショー的なサスペンス劇を映画化するということに留まらず、失踪事件を首謀するにあたって、
これら報道も利用するという、情報化社会が更に進んだ現代社会の特徴的な部分を描写したのは評価に値する。
実際、“報道の自由”が制約されるということに、日本のマスコミも強い危機感を抱いていることは事実ですが、
現実によく調べもせずに取り上げて結果的に誤報となってしまったことや、誤った情報を盛り込んでしまうことが、
まるで単純ミスであるかのように簡単に片付けられてしまう現実があることを鑑みると、こういうことって大事ですよね。

よく言われていることですが...これからは、氾濫する情報を選択する力が問われる時代だと思います。

やはり冷静に考えると、報道の持つ力って大きくて、スクープが大きな功績となることもあれば、
トンデモないミスリードで世論が作られてしまい、作られた世論の犠牲になってしまうことも無くはないですしね。

やはり、これからは情報リテラシーの問題は大きいと思います。
今の時代、情報は簡単に多く取れます。かつては自分で足を動かして、実際に見聞きしなければ
取れなかった情報も、現代は携帯電話やパソコンでジッとしていても取れる時代になっていますし、
インターネットを使えば、正しい情報も間違った情報も、短時間で簡単に多くの情報を得ることができます。
だからこそ、何が正しくて、何が間違っているのか、的確に選択できる力が重要になってくるわけで、
過剰な報道にミスリードされないように、主体性を失わないという世論の意思もとても重要になってきます。

まぁ・・・こういった報道の過熱化は、ニーズがあってこそという面もあるだろう。
最近は、報道が世論を煽るかのように画一的に報道されているような気がする番組も多いのですが、
これも良くも悪くも分かり易い報道を求める、現代の世論がそうさせていることは否めないだろう。

だからこそ、本作が成り立っていると言っても、僕はいいと思う。
本作でのデビッド・フィンチャーは明らかに、そういったワイドショー的な“覗き見精神”であったり、
一つの主義を主張するためであれば、偏向報道も躊躇しないという中立性の欠如を、本作は明らかに利用している。

思えば、主人公ニックが依頼した敏腕弁護士にしても、事件の真実はどうでもいいのだろう。
むしろ、ニックに「これからは、気を付けろよ」と茶化す余裕があるぐらいで、真実よりも利益が目的。

勿論、弁護士稼業として利益があれば・・・ということは否定しないが、
結局は依頼内容が終了して、ニックから今後の不安を聞いても、すぐに逃げ出してしまう。
まるでデビッド・フィンチャーは「世の中、こんなもんだろ?」と開き直るかのように、サラッと描いてしまいます。

どうやら、本作はリース・ウィザースプーンが真っ先に原作の映画化の権利を買い取り、
プロダクションに話しを持ち込んだらしいのですが、監督を引き受けたデビッド・フィンチャーは、
エイミー役をやりたがっていたリース・ウィザースプーンはどこか違うと感じていたらしく、彼女を説得して、
ロザムンド・パイクを配役して、リース・ウィザースプーンは製作側に回ってもらったこと自体は、正解でしたね。
(まぁ・・・こういう言い方するのも、リース・ウィザースプーンには悪いけどね。。。)

いずれにしても、最近は悪女系映画は少なくなっていましたから、そのカンフル剤となった作品になるかも。

(上映時間149分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15]

監督 デビッド・フィンチャー
製作 アーノン・ミルチャン
    ジョシュア・ドーネン
    リース・ウィザースプーン
    セアン・チャフィン
原作 ギリアン・フリン
脚本 ギリアン・フリン
撮影 ジェフ・クローネンウェス
編集 カーク・バクスター
音楽 トレント・レズナー
    アッティカス・ロス
出演 ベン・アフレック
    ロザムンド・パイク
    ニール・パトリック・ハリス
    タイラー・ペリー
    キム・ディケンズ
    キャリー・クーン
    パトリック・フュギット
    セーラ・ウォード
    デビッド・クレノン

2014年度アカデミー主演女優賞(ロザムンド・パイク) ノミネート
2014年度シカゴ映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度カンザス・シティ映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度デトロイト映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度セントルイス映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度セントルイス映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度フェニックス映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度フェニックス映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度オースティン映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度オースティン映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度ユタ映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度フロリダ映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度ネバダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2014年度ネバダ映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度オクラホマ映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞
2014年度オクラホマ映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度ジョージア映画批評家協会賞脚色賞(ギリアン・フリン) 受賞
2014年度デンバー映画批評家協会賞主演女優賞(ロザムンド・パイク) 受賞