007/ゴールドフィンガー(1964年イギリス)

Goldfinger

すっかりジェームズ・ボンドの姿が板に付いたショーン・コネリーは出演したシリーズ第3作。

前作まで監督したテレンス・ヤングに代わり、今回はフランス出身のガイ・ハミルトンがメガホンを取り、
テンポの良いアクション・シーンの連続で、シリーズ屈指の人気作として今尚、多くの人々に愛されています。

まぁ・・・細部を指摘すれば、確かに色々とツッコミどころはいっぱい出てくる作品だ。
映画の冒頭でいきなりバケーションを楽しむボンドが楽しむマイアミの同じホテルに、
今回の悪役ゴ−ルドフィンガーがたまたま滞在していたという設定の時点で無理を感じるのですが、
その後もゴールドフィンガーがカードゲームでイカサマをしているという、そのイカサマのカラクリも、
トンデモない距離から双眼鏡で相手のカードを読むという、現実的に考えて無茶な設定がある。

それだけでなく、肝心かなめな本作の見せ場である、ボンドの情事の相手が金粉を全身に塗られ、
皮膚呼吸ができずに死んでしまうというシーンにしても、ベッドシーツに一切、金粉を飛散させずに、
驚くほどキレイに金粉を塗ったくるという技術にしても、チョット驚きを禁じ得ない(笑)。

でも、当時の映画界の暗黙のルールを考慮すると、
映画の中で女性のヌードを撮影することは一般映画ではできなかったはずなので、
全身を金粉でコーティングすることにより、ベッドに横たわる女性を撮影することがきたのでしょうね。

ちなみに皮膚呼吸ができないと死んでしまうというのは、全くの都市伝説であり、
それは本作で大々的に取り上げられたことから広まった都市伝説だと考えられているのですが、
皮膚呼吸は人間の呼吸全体の約1%しか無く、全身に金粉を塗られても、窒息死することはないそうだ。
しかし、撮影当時は信じられないことに医療スタッフが実際に立ち会っていたそうだ・・・。

とまぁ・・・小姑のように、色々と指摘させて頂きましたが、
僕も気になるシーンがあるとは言え、それでもこの映画は腐らない。十分に面白い作品です。

シャーリー・バッシーの有名な主題歌にしても、映画の雰囲気を見事に彩り、
本作の後に、“007シリーズ”で3本にわたって、主題歌を担当しておりますが、
あまりに見事な絶唱のため、思わず作り手が彼女に主題歌をお願いしたくなる気持ちがよく分かりますね。

今回は悪役のゴールドフィンガーが意外にセコいキャラクターであることが目立ちますが、
クライマックスのゴールドフィンガーを追い詰めるシーンでの往生際の悪さは、この映画の大きなポイントだろう。

そんなゴールドフィンガーが狙ったのは、自身が収集している金の価値を上げるために、
フォートノックスに保管されている金塊の強奪をターゲットに、保管されている金塊を放射能で汚染させようとする。
そのために航空隊を訓練して、毒ガスを空から散布して、町の人々を眠らせてから襲うという用意周到な計画だ。

が、それは世界征服といったような壮大な野望ではなくって、
結局は自分の金儲けのためという動機が、あまりにセコくって、他の007シリーズに登場してきた、
他の悪役キャラクターと比較してしまうと、決して大物な存在だったとは言えないかなぁ(笑)。

それだけでなく、せっかくボンドを抹殺できそうなチャンスがあったにも関わらず、
金までも切断してしまうレーザー光線を使ってボンドを張り付けて脅迫するシーンでも尻込みしてしまう情けなさ。
(でも、このシーンでの張りつめた緊張感は出色の演出だろう)

まぁその代わりにボンドがゴールドフィンガーに吹っ掛ける陳腐な脅し文句も酷くって、
「008が派遣されてくるぞ」や「オレは“グランドスラム計画”を知ってるぞ」という程度で、何も調べもせずに、
ボンドを抹殺しようとする気が揺らいでしまうというゴールドフィンガーの気の弱さも問題なのですがねぇ。。。

テレンス・ヤングの頃との大きな違いは一見すると、見当たらないが、
テレンス・ヤングのアプローチとの違いを敢えて指摘するならば、ボンドガールの存在が弱いことだろう。
正直言って、本作はもう少しボンドガールの描写をしっかり徹底しても良かったのではないかと思う。
例えば、ゴールドフィンガーと組む、航空隊のボスである“プッシー・ガロア”なんかは、もっとしっかり描いて欲しい。
ガイ・ハミルトンは決して悪い映像作家ではないだろうと思うのですが、女にだらしないボンドを描くにあたっては、
どちらかと言うとドライな感じになってしまい、このシリーズの大きな特徴であるセクシーな魅力は欠けているかな。

その辺はテレンス・ヤングの方が上手くバランスを取りながら、できていたと思いますね。
一つ一つのアクション・シーンの見せ方なんかは、ガイ・ハミルトンの方が上手い部分はあるのですが。。。

キャラクターという意味では、何と言ってもゴールドフィンガーの腹心とも言えるオッドショブだろう。
演じたのはハロルド 坂田で日系アメリカ人らしい。人間の首を吹っ飛ばすことができるという、
ツバの部分が刃物でできている帽子を投げて攻撃するという凶器と、恐ろしいほど体が強く、
格闘になるとまず勝つことができないという屈強なキャラクターで、シリーズ屈指の傑出したキャラクターだろう。

ちなみにゴールドフィンガーを演じたゲルト・フレーベは、かつてナチス党員だった過去があるらしく、
第二次世界大戦後、ナチスを脱退して俳優活動に勤しんでいたところ、たまたまドイツ映画での彼を観た、
ガイ・ハミルトンが本作のゴールドフィンガー役に彼を抜擢したらしいのですが、英語が喋られなかったらしく、
本作では彼の台詞を違う役者が英語で吹き替えている。結果として、彼はドイツの国民的英雄として扱われ、
他界した今尚、彼の活躍は語り継がれているとのことで、そういう意味では価値ある作品なんですね。
(しかし、ナチス党員だったことを隠れ蓑にして、ユダヤ人を匿い、国外逃亡の援助をしていたらしい)

まぁ・・・僕は“007シリーズ”って、ロジャー・ムーアが演じるようになってから、
ある種の混迷を極めるようになり、最近は“何でもアリ”みたいなエンターテイメントになっているように
思えてならないのですが、その行く末を本作あたりから予見している部分はあるように思いますね。

常に変化し続けるシリーズですから、これで良かったのでしょうが、
前作までのテレンス・ヤングの作風をイメージすると、若干の違和感を感じるかもしれません。

しかしながら、僕はこの変化を好意的に受け止めたい。
テレンス・ヤングのカラーを少しずつ変えたかったプロダクションの意図は、シリーズのマンネリ化を防ぐ意味でも、
決して間違った判断ではなかったと思うし、上手く前作の良い部分は残せたシリーズの礎を築いた作品だと思う。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ガイ・ハミルトン
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・グレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    ポール・デーン
撮影 テッド・ムーア
音楽 ジョン・バリー
出演 ショーン・コネリー
    ゲルト・フレーベ
    オナー・ブラックマン
    シャーリー・イートン
    セク・リンダー
    タニア・マレット
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    ハロルド 坂田
    デスモンド・リュウェリン

1964年度アカデミー音響効果賞 受賞