Go!(2001年日本)

99年のサンダンス国際映画祭でサンダンス・NHK国際映像作家賞日本部門グランプリに輝いた脚本を基に、
支援金を受けて映像化した新鮮味たっぷりの瑞々しい青春映画。

まぁ映画の作り自体が、まだまだ凄く荒削りなものなので、ハッキリ言って完成度は高くない。

サンダンス・インスティテュートで評価されたシナリオ自体も、
なんか『こちら葛飾区亀有公園派出所』の中のエピソード、“両さんの長崎旅行の巻”と似ているし、
まだ映画の完成度が高くないせいか、全体的なバランス感覚にも欠けていたように思う。
つまり、各エピソードが行き当たりばったりなのです。

が、僕は敢えてこの映画を高く評価してあげて欲しいと思います。
それは何故かよく分かりませんが、この映画を応援してあげたいと思わせるだけの熱意があるんです。

まぁサンダンス・インスティテュートは俳優のロバート・レッドフォードが主宰しておりますが、
本作のシナリオをロバート・レッドフォードが直接、評価したのかどうかは不明だ。
しかし、このシナリオの素晴らしさ、そして映像としての魅力を評価し、映画製作費を補助することに決めた、
当時のサンダンス・インスティテュートとNHKの審査員は先見の明があったと思いますね。

僕はこの映画が今後、日本映画界がどのような方向性を目指していくべきなのか...という
極めて重要な課題を指し示していると思うのですよね。それも、ハッキリと。

90年代後半、僕は「もう、ひょっとしたら日本映画はダメかも。。。」と根拠のない想いを抱いていました。
それはめっきり新作映画として、良い作品に出逢えなかったからです(...まぁ全部観たわけじゃないけど)。
それが“何か”とは断言できないけれども、“何か”が完全に変わってしまったかのように、
完成するもの全てに、作家性や作り手の信念・情熱といったものが欠けているような気がして、
なんだか好きになれない風潮が強かったんですよね。

しかし本作からは「とにかく映画が撮りたいんだ」とする作り手の強い信念が伝わってくると思うんですよね。
それだけ映像に力があったというか、多少、支離滅裂な内容であったとしても、
その難点を力で押し切ってしまうだけの勢いがこの映画にはあると思うんです。
これは最近の日本映画に欠けている、ひじょうに大切な信念だと思います。

どんな凄い映像作家であっても、こういう気持ちが無ければ映画は活きないと思うし、
どんなにビジネス・ライクな映画であっても、こういう気持ちが無ければ映画は良くならないと思うんですよね。
更にその「撮りたい」とする気持ちが、画面に息づかなければなりません。

前述したように支離滅裂な内容で、タイアップしたと思われる某大手ピザ宅配チェーンのCMが気になりますが、
それでも「撮りたい」とする気持ちが、(奇跡的にも...)画面に息づいて定着しているのです。

不意の事故と、自らの反省なき態度のおかげで相手に嫌な思いをさせたと感じ、更に相手の女性に好意を抱く。
そんな女性に自分の作ったピザを食べてもらおうと、わざわざ長崎までバイクを走らせるという、
どう考えても無謀な旅路を、実にエネルギッシュに描き切っている。
そんな気持ち良さが、ひじょうに清々しい映画なんですよね。

確かに主人公は完璧な人間ではないし、ましてや高校2年生。様々な不順な感情がある。
映画の中では、それもキチッと描かれているが決して暴走はしない。だから映画も破綻しないのです。

中には「突飛なコトを描いてナンボ」、「平凡なストーリーでは面白い映画は撮れない」と
本気で思っている映画監督もいるのでしょうから、こういうストレートな内容の映画は否定されたりしますが、
僕はやはり、こういうストレートな青春映画に代表されるような人間的なエネルギーを感じさせる映画ってのが、
これからドンドン評価されるべきだと思うし、そこに映像作家としての力量がハッキリと出ると思うんですよね。

まぁキャスティングもキチッと為されているし、援助金を得て本作を製作できたので、
ディレクターの矢崎 充彦にとっては、ある意味では幸運なデビュー作と言えるだろう。
決して悪くないデビュー作なのだから、どうしてもっと映画を撮らないのだろうか?

この映画の主人公は長崎までの旅路の中で、様々な人々との出会いを経験します。
「出会いは別れの始まり」とはよく言ったもので、彼が出会った多くの人々はもう二度と会うことはないだろう。
主人公の意識には無かっただろうが、そんな一期一会の繰り返しこそが心の成長につながるのだろう。
それは山口県のバイク屋に一泊させてもらうというエピソードに象徴されていますね。

ただ個人的には何度か主人公を助ける山崎 努演じるアメリカン・ライダー気取りの爺さんの描写がイマイチ。
そもそも何故に登場させるのかよく分からないし、チョット狙い過ぎなキャラではないだろうか。
主人公との直接的な絡みがあるのなら納得できますが、ほとんど台詞がありません。
クセ者のバイプレイヤーを目指したのでしょうが、もうチョット工夫が欲しかったですねぇ。

まぁ正直、完璧な映画ではないし、熟練したディレクターが撮った作品というわけでもないので、
こうやって工夫の足りないシーンは多々あると感じます。しかしながら、荒削りながらも突き進んでいくパワー、
ここから「何が何でも、このシナリオを映像化するんだ!」という気概が感じられるんですよね。
そこにこの映画最大の強みがあると、僕は思うんですよね。

まぁとは言え、これは十分に一見の価値ある素晴らしい作品です。
青春映画が好きな人には、そこそこオススメできる作品の一つ。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 矢崎 充彦
製作 酒井 治盛
原案 矢崎 充彦
    まつざわ なおと
脚本 矢崎 充彦
撮影 栗山 修司
美術 山田 好男
編集 普島 信一
音楽 中尾 淳
出演 高田 宏太郎
    山崎 努
    椋木 美羽
    美保 純
    伊集院 光
    松重 豊
    山崎 裕太
    寺田 農
    大河内 奈々子
    渡辺 裕之