グロリア(1999年アメリカ)

Gloria

80年にジョン・カサベテスが撮った同名アクション映画のリメーク。

何故に唐突にリメークしようと思ったのか、何故に名匠シドニー・ルメットが
70歳を超えてから尚、チャレンジする企画として本作を選んだのか、よく分からないのだけれども、
まぁ・・・最悪のリメークにはなっていないのは確か。だけど、これは良くも悪くも無難なリメーク。

やはりヒロインをオリジナルのジーナ・ローランズと、本作のシャロン・ストーンを
まともに比較するのはシャロン・ストーンには酷な感じもするし、ジョン・カサベテスの少々粗削りながらも
独特な世界観を醸し出す演出と比較すると、シドニー・ルメットはドッシリと構えた感じでどこか表層的。

それは数多くの映画で経験を積み、定評を得たシドニー・ルメットに
今更60年代〜70年代の頃のようなアクティヴな映画を撮れという方が、無理な話しなわけですよ。

物語はオリジナルとほぼ一緒で、マフィアと関わりのある恋人の仲間が
不正を働いた大黒柱の父親をはじめ、一家を皆殺しにしようとしたものの、マフィアにとって重要なフロッピーを
持ち逃げした末っ子を捉えて、マフィアがこの末っ子を殺害しようとしていることを悟ったヒロインが
子供を連れて、組織から逃げ出す姿を緊迫感を持って描きながらも、暖かく仕上げた作品なのですが、
突如としてセンチメンタルな感じになったオリジナルのラストの演出とは、チョット違う感じなのが印象的だ。

いずれにしても、巷で言われる通り、オリジナルは94年の『レオン』のモデルになった作品でしょうし、
マフィアに近い存在である女性が、母性を感じさせる逃避行に出るという設定が、なんとも心を揺さぶるところだろう。

これまでのシャロン・ストーンであれば、ファム・ファタールのような存在か悪女かといった、
セクシーな魅力を兼ね備えた役柄が多かったのですが、その中で本作ほど母性を感じさせるキャラクターは
かつて無かったように思いますし、彼女にとっても大きなチャレンジだったように思いますね。

そういう中では、新境地開拓と言ってもいいくらい、悪くはなかったですね。
ジーナ・ローランズよりも、腕っぷしが強いのではないかと思わせる迫力を感じるオーラがある。

オリジナルとの相違点は細かいところを挙げると色々ありますが、
最も大きな部分は、ヒロインの恋人がオリジナルではマフィアのボスという設定でしたが、
本作では作り手がどういう考えでそうしたのか、よく理由は分かりませんが、ヒロインの恋人がマフィアに
雇われた会計士という設定に変更になっています。この設定の変更の意味はよく分かりませんが、
マフィアのボスを演じたジョージ・C・スコットの遺作となっただけに、こういう設定で良かったのかもしれません。
(一応、ヒロインがマフィアのボスの情婦でもあるようですが、さすがに恋人同士とするには無理があったかと・・・)

ジョージ・C・スコットは強面の悪役キャラクターを演じることが多かっただけに、
本作でも重鎮的な存在で、真の悪党としての存在感を期待していたのですが、意外にも柔和な物腰で
最終的には温情的な対応をするというキャラクターだったのは、映画ファンからすれば予想外だったかもしれません。

物足りないという見方もあるかもしれませんが、
個人的には競馬場でヒロインが直接交渉するシーンでのジョージ・C・スコットを観て、
これが最後の映画出演と思って観ると、妙に「最後の最後まで、悪役である必要はないのかも」と思ってしまいました。

但し、良くも悪くも無難なリメークと前述したのは、
本作にオリジナルにあったような、カリスマ性が感じられずに、ただただ落ち着いた映画になってしまったからだ。

少しでも判断を間違えると、子供の命を助けられないかもしれないという
極限に近い緊張感は吹き込まれていないし、マフィアの手がヒロインに襲いかかるのも、なんか弱い(笑)。
これは映画全体が落ち着いたタッチに終始していることで、観ていても一向に危機感を煽られないからでしょう。
シドニー・ルメットはそんなことを意識していたかは分からないけど、この緊張感の無さが決定的なものだったと思う。

マフィアの追撃もあまりに弱過ぎる。本気で“消さなければならない”とは思っていないように見えて、
ナンダカンダで、常にヒロインが主導権を握っているような感覚が、映画のどこかに隠れている。

終いには、屈強なマフィアの連中がヒロインに銃で脅されて、
何故か「全部脱げ!」と言われて、大人しく全裸になるしまつで、アッサリ降参してしまう。
その後も、ヒロインを追撃するも、甘く軽く表層的で全然、観客にとってスリルも無く、ストレスにもならない。

僕がこの映画に期待することは、そんなことではないのですよね。
やはりヒロインはいつ、マフィアの追撃が襲いかかってくるかも分からず、
子供共々、いつ殺されるか分からない緊張感に、ある種の恐怖心が画面いっぱい支配している最中、
それでも堂々と真正面から、なんとか抵抗して命を救おうと懸命に奮闘する姿を、フィルムに収めて欲しかった。

でも、返す返すも...おそらくシドニー・ルメットはそんなことを考えていないでしょうし、
そもそもプロダクションがシドニー・ルメットに監督させたこと自体が、僕には疑問に思えるんですよね。
やっぱりシドニー・ルメットの持ち味と、本作の目指すベクトルというのは、微妙にマッチしないですよ。

だから、ジョン・カサベテスのオリジナルも抜群の出来というほどはないにしろ、
強い映画だなぁと感じたものです。それに対して、このリメーク版は全く強くない。どこか真に迫っていないのです。

それは物語を進めるキー・パーソンとしてマフィア連中が追撃する姿を、
言葉は悪いが適当に描いている感じで、結局、映画の主導権をヒロインが握っているのが良くないですね。
それでも、映画をボロボロにせず、無難な仕上がりをしたシドニー・ルメットも見事なもんではありますが。。。

ちなみに本作ではオリジナルと比較しても、ヒロインが助けたいと保護する子供は、
ホントに子供だ(笑)。多少、大人に背伸びしたことを言ってはいるけど、姿はまだまだ子供。
性別を意識させるほどの年齢には至っていないという感じで、オリジナルでは如何にも男の子という感じだったが、
本作で描かれるのは、まったくの子供でこれは、おそらくグロリアの母性の目覚めを象徴させているのでしょう。

クライマックス近くになって、少年に恵まれた教育を与えてあげようとしたり、
モーテルのベッドで隣に横になって会話をするシーンなんかは、まんま母親のような愛情のかけ方だ。
グロリアが母親代わりになっていることは明白で、本作はグロリアの母性を描きたかったのでしょう。

そういう意味でも、やはり本作はシャロン・ストーンなりに大きな挑戦だったのでしょう。
ここまでハッキリと、強い母性をはたらかせて行動する役柄は、ほぼ演じてこなかったのですから。

総じてジョン・カサベテスのオリジナルには及ばぬ出来だとは思うけれども、
映画の“終わらせ方”は、このリメークの方が良いかな。あまり過剰に作り込むことなく、
ごく自然体で終わらせようとする姿勢には共感が持てた。それまでの真に迫っていないと感じていた展開から、
この映画のラストの在り方の良さで、一気に映画全体の印象が良くなったような気すらしましたね。

やっぱり、それくらい映画も“終わらせ方”って、凄く大事だと思うんだなぁ。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 シドニー・ルメット
製作 ゲーリー・フォスター
   リー・リッチ
脚本 スティーブン・アンティン
撮影 デビッド・ワトキン
音楽 ハワード・ショア
出演 シャロン・ストーン
   ジェレミー・ノーサム
   ジーン・ルーク・フィゲロア
   キャシー・モリアーティ
   マイク・スター
   ジョージ・C・スコット
   ボニー・ベデリア
   バリー・マケヴォイ

1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(シャロン・ストーン) ノミネート