グラディエーター(2000年アメリカ)

Gladiator

2000年度アカデミー賞で作品賞含む主要5部門を獲得した歴史大作。

監督は名匠リドリー・スコットで、エンターテイメント性の高い独特な作風の作品で
根強い人気を誇っていたリドリー・スコットですが、思えば77年の『デュエリスト/決闘者』という歴史劇で
デビューしただけに、ある意味では原点を生かした作品で評価されたということになるかと思います。

本作は劇場公開当時、超速で大ヒットとなり、アッという間に製作費を回収し、
世界的な大ヒットとなった記憶があって、当時は大きな話題となった作品でしたね。

物語は帝政ローマ時代、ゲルマニア遠征で苦境を迎えていたマキシマス率いる部隊が、
アウレリウス皇帝が見守る中で、マキシマスのリーダーシップにて苦境を克服した結果、
年老いたアウレリウス皇帝は、息子コモドゥスに帝位継承せず、マキシマスに継承することを本人に伝える。

それを知ったコモドゥスは怒りにふるえ、自らの父であるはずのアウレリウス皇帝を手にかけ、
帝位を継承すると宣言する。アウレリウス皇帝の死と、コモデゥスが帝位継承することを知ったマキシマスは、
コモドゥス本人から忠誠を誓うよう言われたものの無視し、コモドゥスの部下の囚われの身となってしまう。

やがてコモドゥスの手下によって故郷の妻子を惨殺され、絶望したマキシマスは倒れ、
人身売買の対象となる奴隷と同様の扱いに堕ちる。巨大コロシアムでまるで公開処刑のように
闘い合って殺し合いをさせられるグラディエーター(剣闘士)として闘うことになったマキシマスですが、
コロシアムでの競技の中、生き抜く術を身につけた結果、大衆は無敵のマキシマスを応援し始める。

やがて英雄視されるようになったマキシマスは、コロシアムで目の前に現れたコモドゥスに正体を明かし、
動揺したコモデゥスですが、コモドゥスの失政を目論む元老院の一部のメンバーも、マキシマスに接近します。

この映画でヒーローのようなマキシマスを演じたラッセル・クロウは言うまでもなく、
とても陰湿な感じで危険な香りを漂わせるコモドゥスを演じたホアキン・フェニックスが出色の出来だ。
個人的には、この芝居でオスカーもノミネートに留まったのが、首を傾げるくらいで、素晴らしい仕事ぶりだ。

時にコニー・ニールセン演じるコモドゥス自身の姉ルッシラとの、近親相姦を匂わせる、
屈折した求愛表現もただただ気色悪い感じでしたが、これはこれで現実にあったのだろうと思わせる。
おそらく本作は、若き日のホアキン・フェニックスの代表作であることは間違いないでしょうね。

ラッセル・クロウも腕っぷしは一流で、寡黙で孤高な存在だからこそ、大衆の支持を受ける実力者。
アウレリウス皇帝への忠誠心は強く、民衆のことを常に憂う政治を目指して、人望は絶大なもの。
しかし、マキシマス自身にサラサラそんな気はなく、彼は故郷で妻子を共に平穏に暮らすことが本望でした。
そうなだけに、妻子を政治的思惑のために犠牲としてしまったことは、彼の復讐心に火をつけることになるのです。

この映画のラッセル・クロウは典型的なマッチョなシルエットを強調した役作りしていますが、
念願のアカデミー主演男優賞を獲得だったんですよね。なんせ、受賞が確実視されていた前年の『インサイダー』で、
オスカーを逃していただけに、思いは強かったのでしょう。ただ、個人的には『インサイダー』の方が良かったけど・・・。

劇中、何度かマキシマスがコロシアムで闘うシーンの演出がありましたが、
CGなど当時の最新技術をふんだんに使った映像が圧巻の出来で、そもそものコロシアムの外観もフルCGですし、
虎が飛び掛かってくる中、相手の剣士と闘うのが見事な臨場感で、同時に双方と闘う緊張感が実に見事だ。

そういう意味では、リドリー・スコットの緻密な演出に、CGの技術を融合させながら、
新旧融合な作品なのかもしれません。そこにキャスティングの上手さも見事にマッチしています。

そして映画の冒頭も含めて、リドリー・スコットが如何にも好みそうな幻想的な映像表現で、
上手い具合に回顧録な雰囲気になっていて、彼の監督作品のファンにはたまらない作品でしょう。
そして、それとは相反するように、“痛み”を伴う表現もしっかり入っているあたりも、彼らしいと言える。
パックリ割れた傷口に、ジャイモン・ハンスウ演じる奴隷が、謎の詰め物をして傷を治そうとしますが、
この傷口があまりに生々しく、実に痛そうだ。それ以外にも、相変わらず矢などが刺さる描写も生々しい。

そういう意味では、映画は冒頭の合戦シーンから見どころ満載だ。
この映画の始まり方は、どことなく『プライベート・ライアン』を思い起こさせるが、
いきなり相手方から宣戦布告を受けて、マキシマスが味方を鼓舞して激しい交戦に至る姿を描いています。

なんせ、リドリー・スコットは伐採される予定の森を、撮影で燃やす許可を取って、
実際に木々を燃やして合戦のシーンを撮影したのですから、スケールが桁違いにスゴい。

この冒頭の激しい交戦シーンの迫力からいって、リドリー・スコットならではの演出ですね。
少々、リドリー・スコットにしてはドラマ性に傾き過ぎた向きはあると思いますが、
これが仮に弟のトニー・スコットが撮っていたら、もっとエンターテイメントに寄っていたでしょうね。
それはそれで僕は好きなのですが(笑)、でも、そうなっていたら、ここまで評価されていなかったでしょうね。

ただ、最近の研究で明らかになってきましたが、
コロシアムで剣闘するのは、奴隷や犯罪者が行うことというわけではなく、実際にはエンターテイメントの要素が強く、
感覚的には現代のプロスポーツのように、剣闘を専業として従事していた剣士(競技者)がいたようです。

そういう意味では、本作は史実に基づいたストーリーではなく、あくまでフィクションです。
実際、マキシマスもスパルタカスなどモデルにした人物はいるそうですが、あくまで架空の人物です。
(当然、マルクス・アウレリウスやコモドゥスは実在の人物ではあるが・・・)

ちなみにマキシマスをコロシアムに送り出すプローモーター的存在を演じたプロキシモを演じた、
名優オリバー・リードは残念ながら本作が遺作となってしまいました。本作の撮影も約3週間ほど残して、
どうやらホントはまだ彼の出演シーンが残っていたようですが、脚本の変更などで“なんとかした”そうだ。
実際、オリバー・リードは本作のロケで滞在していたマルタ島で、酒場で心臓発作のため亡くなったので、
まるで彼が演じたプロキシモの最期のようですが、当時の撮影スタッフもそうとうに動揺したことでしょう。

正直言って、この映画はストーリーを楽しむものでも史実を知るためのものでもないでしょう。
僕の中では、冒頭の合戦シーンの迫力と、CGも交えて表現したコロシアムの圧倒感を楽しむためのものであって、
対外的な評価の高さはオマケみたいなものであって、あくまでリドリー・スコットの実現力を観る映画だと思っています。

何故なら、通常であればなかなかこのスケールは無いと思うし、
史実に忠実でもなければ、別に泣けるようなほど心揺さぶる力のある物語というわけでもないと思う。

それでも、リドリー・スコットは自分の手で、彼らのビジョンにある剣闘士の世界観を
実際の映像として表現しようとする意気込みが原動力となった映画で、彼の実現力を示した作品だと思うのです。
これまではリドリー・スコットらしさを全面に押し出して、彼の個性にファンをつけるような作品が多かったのですが、
本作の大成功から1ランク上がって、ハリウッドでも重鎮的存在になっていった印象がありますね。

少々、上映時間が長いのがネックですが、見応えのある作品として評価に値する一作だ。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 リドリー・スコット
製作 デビッド・H・フランゾーニ
   ブランコ・ラスティグ
   ダグラス・ウィック
原案 デビッド・フランゾーニ
脚本 デビッド・フランゾーニ
   ジョン・ローガン
   ウィリアム・ニコルソン
撮影 ジョン・マシソン
美術 アーサー・マックス
編集 ピエトロ・スカリア
音楽 ハンス・ジマー
出演 ラッセル・クロウ
   ホアキン・フェニックス
   コニー・ニールセン
   オリバー・リード
   リチャード・ハリス
   デレク・ジャコビ
   ジャイモン・ハンスウ
   デビッド・ヘミングス

2000年度アカデミー作品賞 受賞
2000年度アカデミー主演男優賞(ラッセル・クロウ) 受賞
2000年度アカデミー助演男優賞(ホアキン・フェニックス) ノミネート
2000年度アカデミー監督賞(リドリー・スコット) ノミネート
2000年度アカデミーオリジナル脚本賞(デビッド・フランゾーニ、ジョン・ローガン、ウィリアム・ニコルソン) ノミネート
2000年度アカデミー撮影賞(ジョン・マシソン) ノミネート
2000年度アカデミー作曲賞(ハンス・ジマー) ノミネート
2000年度アカデミー美術賞 ノミネート
2000年度アカデミー衣裳デザイン賞 受賞
2000年度アカデミー視覚効果賞 受賞
2000年度アカデミー音響賞 受賞
2000年度アカデミー編集賞 ノミネート
2000年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(ジョン・マシソン) 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(ホアキン・フェニックス) 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞セット・デザイン賞 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞衣裳デザイン賞 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞作曲賞(ハンス・ジマー) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞(ラッセル・クロウ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞撮影賞(ジョン・マシソン) 受賞
2000年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演男優賞(ラッセル・クロウ) 受賞
2000年度ロンドン映画批評家協会賞主演男優賞(ラッセル・クロウ) 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>作品賞 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ハンス・ジマー) 受賞