ゴースト/ニューヨークの幻(1990年アメリカ)

Ghost

恋人の目の前で強盗に殺害されたニューヨーカーの銀行マンが、
実は単なる強盗殺人ではなく、計画的な犯行であったことを知り、恋人に危険を知らせようと
霊媒師を使って、なんとかして恋人にアクセスしようと試みる姿をファンタジックに描いたラブ・ストーリー。

日本をはじめ、世界的に大ヒットした作品ではありますが、
ストーリー自体は、89年にスピルバーグが撮った『オールウェイズ』と似た部分があるし、
単純に恋愛映画として考えたら、僕は『オールウェイズ』の方に分があるなぁと感じている。

ただ、この内容は当時、メガヒット級の興行収入を得た理由は、なんとなく分かる気がします。

あまりコテコテに恋愛にフォーカスし過ぎずに、サスペンスの要素を上手く入れて、
映画全体のバランスを整えて、恋愛映画が苦手という人でもそこそこ楽しめるように配慮した感じはある。

でも、僕の中ではここが逆にネック。主人公カップルの恋愛の描き方が、どこか中途半端に映った。
もっとラストシーンは丁寧に描いて欲しいし、2人の永遠に続くであろう愛を強く訴求するものが欲しかった。
これは『オールウェイズ』の方がしっかりしていたような印象で、本作はどこか散漫な印象を受けてしまいましたね。

とは言え、おりしも日本はバブル経済の終わりの頃でしたが、この時代の空気感をよく吹き込めている。
懐かしい初期のパソコンを使って取引を行う姿が描かれたり、ヒロインが自宅で陶芸をやっていたり、
何かとオシャレな主人公カップルのアパートの描写など、当時のトレンドを上手く映画のスタイルに取り込んでいる。
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撮影当時のデミ・ムーアはハリウッドでもトップ女優として人気を博していた頃で、
それまでの出演作よりも、更に大胆なショートカット姿でして、これがまたスゴく似合っている。
彼女が静かに涙を流すシーンが何度か出てくるのですが、これが印象的で世の男心がくすぐられたことでしょう(笑)。

本作で再度スポットライトが当たったのが、
ライチャス・ブラザーズ≠フ Unchained Melody(アンチェインド・メロディ)で、これは確かに名曲ですね。
この曲をバックにヒロインが陶芸をやっているところを、後ろから彼氏が手を重ねてきてメチャクチャになるシーンが
本作では有名なシーンになりますが、Unchained Melody(アンチェインド・メロディ)を選曲したおかげでもあると思う。

しかし、デミ・ムーアはすっかりハリウッドでも目立たない存在になってしまったし、
主演のパトリック・スウェイジは09年に残念ながら、すい臓がんで他界してしまったのが、なんとも残念ですね。

これだけのメガヒットした映画のカップルを演じたのですから、もっと活躍して欲しかったですね。

本作で特筆すべきは、やはり霊媒師オダ・メイを演じたウーピー・ゴールドバーグでしょう。
彼女はオスカーを獲得したこともありますが、本作での仕事が認められたことで90年代、一気にブレイクしました。
やはり映画の終盤にある、シスターに400万ドルの小切手を渡すのに、大きな葛藤があるシーンは面白かった。
本作は彼女をキャスティングできたことで映画に良いアクセントがついて、より魅力的な作品になったと思います。

やっぱり、ゴーストと会話しながら大金をゲットできるのは、彼女くらいにしかできないですよね。

ただ、僕には監督のジェリー・ザッカーがどこまでシリアスにこの映画を撮っていたのかが分からなかった。
と言うのも、映画の冒頭はまるでホラー映画のような出だしで、音楽の使い方がどうなのかと感じたし、
色々なジャンルを“つまみ食い”したせいか、地獄の使者が捕らえに来る描写はどこかギャグっぽく見える。

監督のジェリー・ザッカーは80年の『フライングハイ』などの監督作から分かる通り、
コメディ映画をほぼ専門的に手掛けてディレクターであり、本作で大成功を収めてからは、
シリアスな映画も手掛けるようにはなりましたが、本作も所々にギャグっぽいところもあるせいか、
どうにも僕には、当初はコメディ映画として撮る予定だったのではないかと、ずっと疑って観てましたから・・・。

まぁ・・・それでも、ジェリー・ザッカーの演出は決して悪くはないと思います。
前述したように、もっと主人公カップルの恋愛を描くことに注力はして欲しかったけれども、
それでも映画のクライマックスで、別れを告げるシーンにはグッと来るものはあるし、何より映画の収まりが良い。

「終わり良ければ、全て良し」ではないけど、この収まりの良さはグッドポイント。
この辺は本作の編集が良かったことの裏返しでもあると思うし、総合力の高い映画ではあると思うんですよね。
それをジェリー・ザッカーがまとめたからこそ、本作は成功したと言っても過言ではないと思います。

ただ...ただね、やっぱり映画の冒頭のトーンなどは「どうして、こんな出だしなんだろ・・・」とは思いますがねぇ。。。

日本でも本作が舞台劇化されたり、韓国で映画自体がリメークされたりと、
未だに根強い人気がある作品でもあります。こういう映画を観る度に、思わず「死後の世界はあるのかな?」なんて
考えちゃいますが、自分が子供の頃は臨死体験を語るテレビ番組って、数多くありましたねぇ。

仏教的な解釈をすると、主人公のサムは成仏されない“狭間の世界”にいる存在ですからね。
まぁ、成仏されない霊が残された家族へ、何らかのメッセージを送るなんて、ありがちな話しではありますがね。
(僕はあんまり前世や死後の世界を真剣に考えると怖くなっちゃうので、今はあまり考えないようにしています・・・)

まぁ、恋人という設定じゃなくとも家族を失った場合でも、同じようなストーリーは考えられそうですね。
霊を信じるか否かとかそういうことではなく、霊の存在とは、生きる人の心のよりどころになる存在だと思う。
時に心霊現象のように恐怖を持って表現されることもあるけど、本作のように心強い存在として表現されることもある。
この辺は実に仏教的な発想というか、僕は本作自体が仏教のニュアンスがある内容だなぁと感じましたね。
(ウーピー・ゴールドバーグ演じるオダ・メイも、織田 無道から名前をとったらしいし・・・)

本作はジェリー・ザッカーの大きなチャレンジであったのだろうと思います。
95年の『トゥルー・ナイト』では、ホントにシリアスな歴史劇を撮っていますので、本作の成功は大きな転機でしょう。

そういう意味では、元々、コメディ映画を得意分野としてやってきたせいか、
本作ではとにかくいろんな“武器”を駆使しようとしていて、その塩梅が上手く機能したのは事実だと思う。
前述したようなホラー映画のような雰囲気があったと思いきや、主人公カップルの恋愛がベースにあったり、
オダ・メイのコミカルさで笑わせたり、思えば主人公サムが強盗殺人の裏側を知って怒りに震えて、
その復讐に転じる映画の終盤はサスペンス映画のようだ。こうして、あらゆる表情を映画の中で見せている。

こうした、いろんなジャンルの要素を内包した映画が好きな人には、たまらない作品でしょうし、
また、本作が劇場公開された頃も社会のいろんなことがマルチ化していた時代ですから、
こういうマルチな表情を持つ映画が受け入れられ易い環境にはあったのではないかと思いますね。

個人的には、当時、社会現象にまでなった理由はよく分からないというか、
恋愛映画としても光るものがあったとは言えないので、映画の出来としてはそこまでのものではないと思う。
やはりベースであるはずの主人公カップルの恋愛が、強く訴求するものでなければ、映画は輝かないでしょう。

ただ、映画製作に於けるマーケティングの勝利というか、当時の社会情勢と上手くマッチし、
クローズアップされやすい内容であったのは確か。デミ・ムーアのキャスティングの影響も大きいでしょうし。

当時、いろんなバラエティ番組のコントとかで、あの陶芸のシーンをパロディしていたのが懐かしい・・・。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジェリー・ザッカー
製作 リサ・ウェインスタイン
脚本 ブルース・ジョエル・ルービン
撮影 アダム・グリーンバーグ
特撮 リチャード・エドランド
   TLM
音楽 モーリス・ジャール
出演 パトリック・スウェイジ
   デミ・ムーア
   トニー・ゴールドウィン
   ウーピー・ゴールドバーグ
   スーザン・ブレスロウ
   ビンセント・スキャヴェリ
   リック・エイヴィルス^

1990年度アカデミー作品賞 ノミネート
1990年度アカデミー助演女優賞(ウーピー・ゴールドバーグ) 受賞
1990年度アカデミーオリジナル脚本賞(ブルース・ジョエル・ルービン) 受賞
1990年度アカデミー作曲賞(モーリス・ジャール) ノミネート
1990年度アカデミー編集賞 ノミネート
1990年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ウーピー・ゴールドバーグ) 受賞
1990年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ウーピー・ゴールドバーグ) 受賞