追撃者(2000年アメリカ)

Get Carter

殺害された弟の復讐をするために立ち上がった借金の取立て屋が、
久しぶりに戻った故郷で弟を殺害したグループを追い詰めるまでを描いたバイオレンス・サスペンス。

確かに本作はいつものスタローン映画とは一線を画するものがある。
凝りに凝った編集を駆使して、何とかして映画に特徴を持たせようとしているし、
何かもアクションに集約してしまおうとする、いつものスタローン映画とは明らかに異なる。

71年にマイケル・ケイン主演で映画化された『狙撃者』のリメークにあたるのですが、
そのマイケル・ケインが主人公の弟が経営するバーの共同経営者として登場してきます。

最初に敢えて肯定的な意見を言わせてもらうと、
本作は酷評するほど酷い出来の映画だとは思わない。楽しめる要素はあると思います。
この徹底したバイオレンスが、いろんな意味で映画全体を支配しているのですが、
さすがこれだけ徹底して暴力描写が続くと、映画自体に一貫性を持たせることができていますね。
誰もスタローン演じるジャックに太刀打ちできていない強さが映画のネックと言えばネックなのですが(笑)、
それでも「何事も暴力で解決してみせる」とするジャックの姿勢には一貫性が感じられる。
(この姿勢が正しいかどうかはともかく、主人公の強さを象徴しているというわけです)

この映画最大の見せ場は何と言っても、スタローンとミッキー・ロークの殴り合いのケンカ。
ムキムキのミッキー・ロークが年甲斐もなく(笑)、タンクトップ着てスタローンにケンカを仕掛けますが、
そんな挑発に結果的にノッてしまうスタローンも、マッチョな体格を活かして暴れまくります。

まぁ悲しいかな、この映画最大の見せ場って、このケンカなんですよね(苦笑)。。。

ハードボイルド映画としては、あくまで及第点レベルの出来。
ハードボイルドな世界観は、映画の空気として上手く表現できているような気もするけど、
その反面、この映画の作り手がカメラの向こう側で「な、これってカッコいいだろ?」と
自信満々な態度でいるような気がして、この一連の無意味な映像感覚や配列を全ては受け入れられない。

編集はジェリー・グリーンバーグなので、かなり強力なブレーンがいるのですが、
一方でこの強力なブレーンの個性を、演出が超えられなかったイメージが強いですね。

それを「な、これってカッコいいだろ?」みたいな撮り方をされても、イマイチ好きになれない。
どうせこれだけの土台があるのなら、何か一つでもいいから、この演出家にしかできない特徴が欲しかったなぁ。
そう、この映画、映像感覚以外における特徴がなくて、ただ漫然と映像が流れるだけという感じですね。

スタローン主演は勿論のこと、
脇を支える役者もミッキー・ローク、ミランダ・リチャードソン、アラン・カミングと実力者が揃い、
ジャックの義理の娘を演じたレイチェル・リー・クックなんて、本作公開当時はアイドルでしたからねぇ。
更にオリジナルのマイケル・ケインも出演しているわけで、この映画は結構、恵まれているんですよね。
だからこそ勿体ないんですよねぇ、なんでこんなに中途半端な映画になっちゃったんだろ。

この映画の大きなミステイクと言えば、ジャックの人間性に迫ろうとしてしまったところですね。
「ハードボイルド映画の主人公が善人であってはいけない」なんて定説は何処にもありませんが、
この映画の中盤でジャックが義理の娘との交流の中で、親心に目覚めるようなニュアンスを盛り込んだのは、
ハードボイルド映画という枠組みの中ではNGですね。このシーンが異様に浮いてしまっている。

かつて幾多のハードボイルド映画がありましたが、いずれも映画の主義主張に一貫性がありました。
ところが孤独な主人公の決して誇れない仕事の中に、何とも言えない味わいを浮き彫りにさせる映画が、
主人公の人間性に肉薄しようとすると、映画の目的がブレてしまうんですよね。

だからこそ、この映画が芯の通った部分を残せなかった理由には、
ジャックの部屋に彼の義理の娘が訪れたり、彼女を励ましたり慰めたりするシーンを、
具体的な映像として表現してしまったことにあると思いますね。これでは映画の空気が変わってしまいます。

ひじょうに勿体ないのは、こういった一連の交流のシーンによって、
映画の空気が一変してしまい、作り手の主張に一貫性が欠けていた点ですね。

ジャックが「物事は何でも暴力で解決してやる」とする主義に一貫性を持たせられても、
映画の作り手の主義主張に一貫性が持たせられないというのは、ハッキリ言って映画にとって致命的である。

とは言え、酷評するほど見どころの少ない映画という感じではない。
むしろスタローンの意気込み自体は伝わってくる作品だし、映画の企画自体は悪くないと思う。
映画を撮る上での土台は揃っていたし、贅沢に撮れる環境も整っていたはずだ。
演出が何かしら変わっていれば、映画自体への評価も一変していたかもしれませんね。

ミッキー・ロークはもとより、スタローンも完全に低迷してしまっていますが、
本作のようなアグレッシヴな挑戦が感じられる俳優活動がもっと顕著になれば、
ひょっとしたら第二のピークがやってくるかもしれませんね。

いずれにしても素養はある役者なのですから、そろそろアクション・スターから卒業してもいい頃だろう。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 スティーブン・ケイ
製作 マーク・キャントン
    ニール・キャントン
    エリー・サマハ
原作 テッド・ルイス
脚本 デビッド・マッケンナ
撮影 マウロ・フィオーレ
音楽 タイラー・ベイツ
出演 シルベスター・スタローン
    レイチェル・リー・クック
    ミッキー・ローク
    ミランダ・リチャードソン
    マイケル・ケイン
    アラン・カミング
    ジョン・C・マッギンレー
    ローラ・ミトラ
    グレッチェン・モル

2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(シルベスター・スタローン) ノミネート
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメーク・続編賞 ノミネート