ギャング・オブ・ニューヨーク(2002年アメリカ)

Gangs Of New York

構想30年、ローマ郊外の大スタジオである「チネチッタ」に
巨大な19世紀前半のニューヨークを再現したセットを組んで、描いた一大スペクタクル・ドラマ。

映画はタイトルの通り、ニューヨークで現代で言うギャング組織とでも言うべき、
マンハッタンの一角である地域ファイヴ・ポインツで繰り広げられる抗争の歴史を描いています。

監督は名匠マーチン・スコセッシ。僕が知る限りでは、
90年代の映画雑誌では、ず〜っと本作の企画に関する噂話が出回っていて、
その間にマーチン・スコセッシも『カジノ』など他の作品を監督として手掛けていたことから、
おそらくプロダクション含めて、なかなか企画が前に進まず、頓挫しかけていたのではないかと推察します。

ずっと噂ベースで「製作スタートかも!?」みたいな記事が出ていたので、
いつまで経っても撮影が始まらない、幻の企画なのかと勝手に思っていたのですが、
いざ当時の若手俳優を代表するスター、レオナルド・ディカプリオとキャメロン・ディアスという、
夢のキャスティングが実現することが決まってからは、トントン拍子で撮影が進んだようで、
意外にアッサリと映画が完成し、劇場公開になりました。それでも、撮影期間は約9ヵ月だったようですが・・・。

それだけ当時の映画ファンを待たせた、待望の作品だったのですが、
結論から申し上げると、映画の出来としては「傑作」というほどではなく、「まずまず」という感じでした。

いや、さすがにニューヨークで湧き上がったギャングの前身と思われる組織同士の抗争、
そこに絡み合うアイルランドからの移民たちとの軋轢、黒人に対する人種差別意識など、
ありとあらゆる抗争の要素を、ピンポイントで描いており、映画も適度な重厚感があって見応えがある。

特に常に観客にとって、大きなストレスとなる存在であろう、
ダニエル・デイ=ルイス演じるブッチャー≠アと、カッティングは強烈なまでの存在感だ。
完全にレオナルド・ディカプリオ演じる主人公を“喰ってしまう”熱演であったと言ってもいいくらいです。
と言うか、ディカプリオにとっては「生きる教科書」状態だったのかもしれませんが、ダニエル・デイ=ルイスは
彼が出演する映画のほとんどで、こういった強烈な存在感を放つので、共演者が少し可哀想ですね(苦笑)。
(どうやら、スコセッシとディカプリオが2人で、ダニエル・デイ=ルイスに出演を口説いたらしいですが)

なんせ、ダニエル・デイ=ルイスは当時、靴屋になるためにイタリアで修行していて、
実質的に俳優業は休業状態であったため、久しぶりの映画出演で燃えるものがあったのだろうと思います(笑)。

ダニエル・デイ=ルイスはどちらかと言えば、華奢に見える体つきをしていますが、
ブッチャー≠ニ呼ばれるだけあって、豚の半丸(枝肉)に解体し、部分肉に下ろす技術があるようで、
これは凄い体力を必要とする仕事ですから、こうして鍛えられた、底知れぬパワーとスタミナで、
若さいっぱいに勇敢に戦う主人公をも、凌駕するかの如く、次から次へと悪事を尽くす狂気が凄まじい。
特に映画のクライマックスでの、煙の中の決闘では、見えないところから襲い掛かる緊張感が印象深い。

これが映画復帰作とは、やはり強烈なまでにスゴい役者ですねぇ〜。

が、あくまで映画として言わせてもらうと、やはり主人公はヴァロンであり、
物語はヴァロンの目線で進んでいく。そうであるならば尚更、もっとヴァロンを目立たせるべきだった。
ホントはブッチャー≠ノ喰われている場合ではなかったはずで、誰が主人公なのか分からないぐらい、
映画のインパクトがカッティングにいってしまったのは、僕は映画としては失敗だったと思いますね。

それからヒロインのキャメロン・ディアスも、今一つ見せ場を与えられず残念。
エピソードが盛りだくさんになり過ぎて、この程度の主人公の恋愛なら描く必要性が示せていないと思います。
半ば無理矢理、彼女を登場させたようで、この辺はもっと練って欲しかったところですねぇ。

とは言え、「チネチッタ」の利点を最大限に利用した、ニューヨークのセット撮影は見事で、
特に映画の冒頭から登場してくる、“デッド・ラビッツ”のアジトの造詣が素晴らしく、のっけから圧倒される。

どこまでも続き、複雑に入り組んだ洞窟に見え、
更に人々が生活する空間の高さを描き、まるで階層別に生活を形成しているかのように見せる。
この空間的な奥行きを表現した映像は、20年近くに及ぶヴァロンとカッティングの物語のスケールを象徴している。

マーチン・スコセッシもポイントはしっかりと押さえた映画に仕上げていて、
特に主人公を幼い時から知り、父の形見を渡し、打倒カッティングに立ち上がるアイルランド移民の
重鎮的存在であるマクギンを演じたブレンダン・グリーソンが脇役キャラクターとしては良かったですね。

彼もまた、カッティングと対決することを選ぶのですが、
マクギンのいる理髪店へカッティングがやって来るシーンから、クライマックスへと一気に持って行く、
スコセッシの演出力が際立ち、「傑作」には至らずとも、さすがの仕事ぶりで唸らせられる。

欲を言えば、せっかく主人公ヴァロンが父親をカッティングに殺されたときからの恨みで、
16年間も少年院に投獄されながらも、その復讐心を絶えず燃やし続けていたのだからこそ、
ヴァロンとカッティングの対決は、ニューヨーク徴兵暴動にかき消されるかのような描き方はせず、
真向から対決する姿を観たかったと思うのですが、スコセッシの狙いはまた別なところにあったのかもしれませんね。

この映画の良さはアメリカに在住する人にダイレクトに伝わるものがあるのかもしれません。
言えば、本作はルーツを辿るということで、音楽(洋楽)の分野でも、60〜70年代から生き残る
ミュージシャンたちで、何人かがルーツ・ミュージックを追求するというアプローチをしていて、
まるでそれがブームであるかのようになった頃もありましたが、本作は映画でアメリカのルーツを探るというところ。

まぁ・・・ギャングのルーツを描くことに賛否はあるかもしれませんが、
言えば、過去の歴史の重要なポイントには、多く人々の軋轢があり、戦争に発展したこともありました。
ネイティヴを原理的に尊うということは、どこでもよくある話しであり、移民の受け入れは拒否をする。

今のトランプ大統領の理屈は正にこれに近いもので、自国民を守るためには、
必ずしもナショナリズムが正義ではないということで、何事にも「取引」であるというのが、彼の主張である。

「過去に学び、未来を創る」ことの必要性は強く感じますが、
自分たちで切り取った“過去”からしか学ばなければ、良い未来など築けないでしょう。
こういう事情を鑑みると、尚一層のこと何事に於いても、優れたバランス感覚というのはとても大切なことと思う。

(上映時間166分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マーチン・スコセッシ
製作 アルベルト・グリマルディ
   マーチン・スコセッシ
原作 ハーバート・アズバリー
脚本 ジェイ・コックス
   ケネス・ロナーガン
   スティーブン・ザイリアン
撮影 ミヒャエル・バルハウス
美術 ダンテ・フェレッティ
衣装 サンディ・パウエル
編集 セルマ・スクーンメイカー
音楽 エルマー・バーンスタイン
   ハワード・ショア
出演 レオナルド・ディカプリオ
   ダニエル・デイ=ルイス
   キャメロン・ディアス
   ジム・ブロードベント
   リーアム・ニーソン
   ブレンダン・グリーソン
   ジョン・C・ライリー
   ヘンリー・トーマス
   ゲイリー・ルイス

2002年度アカデミー作品賞 ノミネート
2002年度アカデミー主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) ノミネート
2002年度アカデミー監督賞(マーチン・スコセッシ) ノミネート
2002年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジェイ・コックス、ケネス・ロナーガン、スティーブン・ザイリアン) ノミネート
2002年度アカデミー撮影賞(ミヒャエル・バルハウス) ノミネート
2002年度アカデミー歌曲賞(U2) ノミネート
2002年度アカデミー美術賞(ダンテ・フェレッティ) ノミネート
2002年度アカデミー衣装デザイン賞(サンディ・パウエル) ノミネート
2002年度アカデミー音響賞 ノミネート
2002年度アカデミー編集賞(セルマ・スクーンメイカー) ノミネート
2002年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度全米映画俳優組合賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ロサンゼルス映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2002年度シカゴ映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ラスベガス映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ラスベガス映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・C・ライリー) 受賞
2002年度シアトル映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度シアトル映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2002年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度サウス・イースタン映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度サウス・イースタン映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2002年度カンザス・シティ映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度バンクーバー映画批評家協会賞主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス) 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞(U2) 受賞