モネ・ゲーム(2012年アメリカ)

Gambit

66年の犯罪コメディ映画『泥棒貴族』のリメーク。

『泥棒貴族』では、シャーリー・マクレーンとマイケル・ケインのコンビでしたが、
本作は昨今、イギリス出身俳優として名を上げたコリン・ファースに、キャメロン・ディアスが共演。
本作でのコリン・ファースはオリジナルのマイケル・ケインをかなり意識した芝居だったように思います。

実は『泥棒貴族』は観ていないのですが、
イギリス英語の使い手ということを差し引いても、本作のコリン・ファースはマイケル・ケインによく似ている。

仕事では金儲け至上主義で、絵画を何一つ理解していないクセに絵画収集癖がある、
メディア王シャバンダーの傲慢さに嫌気が差し、復讐を思いついた、シャバンダー専属の鑑定士ハリー。
彼は腕利きの贋作作家ネルソン少佐とタッグを組んで、モネの贋作を書いてシャバンダーに真作と偽って買わせ、
多額の資金を頂こうと目論み、テキサスのカウガール娘PJを利用して、計画を遂行しようとします。

しかし、計画はハリーの思い通りにいきません。
その思い通りにいかない大きな要因は、何と言ってもハリーの“超”が付くほどドジな性格。

そんなハリーの姿にシャバンダーも嫌気が差し、ハリーを邪険に扱って遠ざけるだけでなく、
鑑定士としての契約も打ち切ろうと考えますが、破産崖っぷちのハリーはなんとかしてPJを動かそうとします。
映画はそんなハリーの窮地と、対照的に天真爛漫なPJがシャバンダーに接近する姿を描いているのですが、
上映時間の短さにも助けられて、映画のテンポは悪くなく、規模は小さいながらもそこそこ見せてくれる作品だ。

まぁキャメロン・ディアスが出演している映画というだけで、
ある程度のヒットが見込めるという時代ではないので当然の扱いと言えばそれまでだが、
それにしても、あまりにヒッソリと劇場公開され、存在感薄くレンタル屋に並んでいたことが不思議でたまらなかった。

いざ本編を観ると、映画の出来は良いのですが、その扱いもなんとなく理解できます。
ストーリー的な問題というわけではなく、これは確かにヒットが見込めない地味な作りをしているんですね。
もう少し上手く撮れば、注目を集められそうなのに・・・と思えることを、ことごとく回避しているのです(笑)。
それが作り手が意図して施しているのであればいいのですが、それは本編を観る限り、なんとも言えません。

監督のマイケル・ホフマンはキャリアはそこそこあるディレクターなのですが、
今一つハリウッドでも大成し切れず、最近はヨーロッパで創作活動をしているそうなのですが、
いつも、どことなくポイントがズレたところがあるんですよねぇ〜。それがいつも勿体なく思えて仕方がありません。

後でクレジットを見て驚いたのですが、この映画の脚本はコーエン兄弟だったんですね。
そう言われて見れば、コーエン兄弟の映画のような感覚もあって、彼らの映画のファンは気に入るかも。

なかなかストーリーが進まないジレったさがある割りに、
それぞれのエピソードをテンポ良く見せられるように、かなり配慮された脚本ではあるのだろう。
ハリーの何から何までドジな部分が、ことごとく足を引っ張るというのは定番な発想ながらも、しっかり面白い。
オマケに自分の座る椅子もまともに扱えず、会話が終わる頃にようやっと座るなど、どうでもいいことに
やたらと神経を尖らす主人公の姿をスラップスティックに描くあたりは、とてもイギリス的な発想だ。

ある意味で、コーエン兄弟はイーリング・コメディ(50年代のイギリス製コメディ映画)への
オマージュを本作を通じてやりたかったのかもしれず、そう思って観ると、なかなか見どころのある作品だ。

おそらく、ロンドンの高級ホテル、サヴォイのフロアにハリーが侵入して、
清掃係の目を盗んで、高価な壺を盗もうと目論むときに、清掃準備室に閉じ込められて、
なんとかして脱出するというエピソードに時間を費やし過ぎた印象は残るので、この辺は賛否両論でしょうけど、
総じてコリン・ファースがコメディ演技に徹しようと必死で、その頑張りがよく反映された内容にはなっていますね。

僕はこれぐらい必死に演じた方が、ハリーの不器用さとシンクロするせいか、
本作のよく合っているというか、映画の印象を良くすることにも貢献したのではないかと思いますね。

そういう意味で、やはりキャスティングは絶妙だったとは思うのですが、
どうしてもマイケル・ホフマンの演出に物足りない部分が残ってしまっていて、
ハリーのサヴォイからの脱出劇は、もっと起伏を付けて盛り上げて欲しかったですね。

ハリーが突如として、大きなリスクを冒してでも、付帯的にできた壺の強奪という、
話しのメインとは一切関係ない目的を果たしに行くという暴挙に出るという発想は実に面白いのですが、
そんな話しのメインとは一切関係ないエピソードで観客を楽しませるというシュールさが魅力なはずなのに、
これは起伏少なく、ただ漫然と描いてしまったがために、ほとんど盛り上がらずシーンを終わらせてしまう。
これではせっかくセッティングした舞台を、ほとんど活かさずに台無しにしたに近いですね。凄く勿体ない。

せっかくイギリスを舞台にした映画なのですから、こういうシュールな部分で楽しませて欲しい。

そのせいか、コメディ映画だというのに、「いったい、どこで笑えばいいの・・・」と思う意見は消えないだろうし、
どちらかと言えば、“映画の方から観客を選ぶ映画”になってしまっているように見受けられるんですよね。
そうなってしまうと、本作のような特徴が弱い映画はとても苦しい。何を見せたいのかが、明瞭にならないから。

軽妙なコメディ映画が好きな人には、そこそこオススメできるが、
ゲラゲラと笑わせられると言うよりも、思わずニヤリとさせられる、そんな感覚のある映画です。

欲を言えば、スタンリー・トゥッチ演じる絵画鑑定士マーティンがチョイ役扱いだったのは残念。
彼はもっと存在感を発揮できる役者なので、この程度の扱いで終わらせてしまうのは実に勿体ないと思う。
もっとハリーがシャバンダーへ罠を仕掛けるにあたっての障害となる存在として、もっと動かして欲しかった。

それと、幾度となくシャバンダーの商談相手として、ケーブルテレビ局を経営する日本人が登場してきて、
この経営者の通訳がやたらとインパクト残る英語を喋るのですが、あまりにステレオタイプな日本人像に
快く思わない人もいるかもしれませんが、個人的にはこれは不問にしないと成り立たない映画かなぁと思う。
言ってしまえば、オープニングのアニメーションから、日本人の存在まで、往年の名作『ピンクパンサー』への
オマージュと言える描写でもあり、これはこれでマイケル・ホフマンの遊び心だと解釈するしかありません。

ただ、あまり意味のある遊び心ではなかったように思うけど・・・(苦笑)。

(上映時間89分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マイケル・ホフマン
製作 マイク・ロベル
    ロブ・パリス
    アダム・リップ
原案 シドニー・キャロル
脚本 ジョエル・コーエン
    イーサン・コーエン
撮影 フロリアン・バルハウス
編集 ポール・トシル
音楽 ロルフ・ケント
出演 コリン・ファース
    キャメロン・ディアス
    アラン・リックマン
    トム・コートニー
    スタンリー・トゥッチ
    アンナ・スケラーン
    伊川 東吾
    ジェラード・ホラン