モネ・ゲーム(2012年アメリカ)
Gambit
66年の『泥棒貴族』のリメークで、コーエン兄弟がシナリオを書いている。
まぁ、如何にもコーエン兄弟の映画っぽい雰囲気ではあるのですが、監督はマイケル・ホフマン。
91年に『ソープディッシュ』などコメディ映画やドラマ系の作品を中心に手掛けてきていますが、どうもパッとしない印象。
主演は『英国王のスピーチ』でオスカー俳優となったコリン・ファースで、
確かに『泥棒貴族』で主演を務めていたマイケル・ケインと、雰囲気がよく似ている絶妙なキャスティングではある。
ただ、彼が思いっ切りコメディ演技を強いられるような展開はツラいなぁ。周りに乗せられて、一緒になるくらいでないと。
やはりコリン・ファースは、どこか“お堅い”イメージがある役者さんなので尚更のこと、
彼が中心となってドタバタをやっても、映画は盛り上がらない。その“お堅い”イメージとのギャップを生かせば
きっと面白い内容になるのだけど、あまりそんな感じではないせいか、そのギャップを楽しむ感じにはならないのです。
例えば、映画の中盤にあるホテルの外壁を伝って逃げるシーンなんて、
本作最大の見せ場であって、一番笑いをとりきているシーンなんだろうけど、どうにもそこまで笑えない感じだ。
リメーク企画となった本作は、どうやら以前から製作の話しがあって進んでいた時期もあったようですが、
途中で頓挫したりして、なかなか撮影までは至っていなかったようです。コーエン兄弟が脚本を担当することも、
最初に企画が立ち上がってから、相当年数経過してから決まったようで、映画化まではかなり難航したようですね。
個人的には決してつまらない映画ではないとは思いますが、もっと面白く出来ただろうなぁとは思った。
前述したようにコリン・ファース自身は実力ある役者さんだとは思うけど、もっとコメディ映画の経験があった方が
この役をもっと上手く演じられたような気がするし、相棒役のトム・コートニーもイイ味出せる人なだけに、
もっと表立って活躍するシーンを作って欲しかった。これではかなり物足りないし、映画をかき乱す存在であって欲しい。
テキサスの田舎娘というステレオタイプなイメージで登場してきたキャメロン・ディアスは、
変わらぬ美貌でいながらも、しっかりとしたコメディに徹した存在感で、良い意味で安心感があっただけに
彼女の頑張りに応えられる相手役が欲しかったところだ。この辺のバランスがどうしても本作の場合は良くないですね。
とは言え、映画の長尺化が進む時代の中で、上映時間が90分切るというのは実にコンパクト。
それでいて、ヴォリューム的な物足りなさがあるわけでもないし、物語を十分に語り切ることができている。
この辺はコーエン兄弟の上手さもあったのかもしれませんが、マイケル・ホフマンのまとめ方も良かったのだろう。
こういう経済的な時間で、描くべきことを全て盛り込んで、それでいて物足りなさを感じさせないってのは難しいことだ。
なので、もう少しのところでボタンのかけ違いを修正できていれば、映画の印象はもっと良くなるだろう。
これだけのキャストを集めたのですから、映画はもっと魅力的に磨き上げることができたと思うんですよねぇ・・・。
この映画を観ていて、チョット注目したいなぁと思ったのは、トム・コートニー演じる相棒が作り上げる、
贋作作りということ。これは以前、映画『迷宮のレンブラント』でも似たようなことが描かれていたのですが、
鑑定士の目も欺けるほどの贋作は勿論のことですが、絵画作品として成立している贋作を書けるってことは、
実はそもそも相当な絵画の腕前の持ち主なのではないかと思え、ましてやモネの贋作にトライするって、普通にスゴい。
なので、大富豪から金を巻き上げるために結託するのもいいのですが、それ以上にオリジナリティある
絵画を描く勉強をすれば、実は独立して歩んでいくことができるくらいの腕前なのではないかと思える。
自分は中学生時代に美術でホントに「1」という成績がついたことがあるので、間違っても真似しようとは思いませんが、
絵が得意であるとか、イラストを書いて楽しめるという人のことは、普通に羨ましいですけどね。僕には無い能力です。
下手なりにも、絵を描いて説明する必要がでてきたら、頑張って絵を描きはしますけど、
誰にも分かってもらえないし、そもそものデッサン力も無いから、他人に見せることも恥ずかしいレヴェルなんですね。
映画はイギリスでメディア王と言われるシャバンターの会社で側近の一人として働いていた、
ハリー・ディーンが長年のシャバンターの横暴な振る舞いにストレスを抱え、彼への復讐を敢行する姿を描きます。
彼はシャバンターが印象派絵画のコレクターであることに目を付けて、友人のネルソン大佐の特技でもある、
絵画の技術を使って、モネの著名な作品の贋作を書かせて、それを真作だと信じ込ませて売りつけようと画策します。
しかし、スマートさとは程遠いハリーのドジなところが災いして、計画は全く上手くいきません。
それどころか、アメリカのテキサスから連れてきたカウガールであるPJはシャバンターが手配した、
ロンドンの高級ホテルや豪華なパーティーに連れて行かれてしまい、ハリーは必死に計画を修正しようとします。
映画はクライマックスに近づき、シャバンターの別荘で開かれた仮面舞踏会でPJが持って来た絵の鑑定を行います。
長年に渡って、ハリーのことをイジメてきたシャバンターが海外の鑑定についてはハリーを罷免して、
別な鑑定士であるマーティンを呼びます。このマーティンを演じたスタンリー・トゥッチだったのですが、
個人的にはスタンリー・トゥッチはもっと出番を与えて欲しかったなぁ。この程度にして登場させないのは物足りない。
もっと映画をかき乱すような存在に出来たと思うし、それがコメディ映画として磨き上げることにつながったはずでした。
ところが、ハリーと実質的に敵対する関係なのに、あまりに中途半端にしか出番が与えられず、存在感が弱い。
もっと口八丁手八丁でスラップスティックなハリーとの攻防を描いても良かったと思うんだけど、あまりに勿体ない。
劇中、シャバンターが買収しようと画策している日本のテレビ局の重役連中が登場してくるのですが、
これが作り手はワザとこういう風に描いたのでしょうが、「今どきこんなヤツらいるかよ!」とツッコミの一つでも
入れたくなるようなほど時代錯誤な日本人の描き方で、どこまで真面目に映画を撮っているのか判断に困る(笑)。
あんな大袈裟にまるで道化のように喋る日本人通訳というのも、さすがに今の時代ありえない描き方だろう。
しかし、それでもギャグのつもりなのか、そのまんま描いている。この辺の微妙なギャグも賛否が分かれるところかな。
(“コンニチワTV”って、「なんだよそれ!?」と思わずにはいられないほどのテキトーなネーミングだ・・・)
ちなみに映画のクライマックスで、絵画に工作活動をしていた主人公がシャバンターの罠にハマったかのように
警備の役割を果たすライオンが彼に立ちはだかるのですが、そのライオンをPJがスゴ腕のカウガールであるという
設定を生かして、見事な腕前でライオンをおとなしくさせるというシーンがあるのですが、これはさすがに無理矢理だ。
どうしても彼女が捕えたように描くなら、具体的な映像として見せてくれないと、チョット説得力が無いですよね。
なので、無理に縄で捕えたようなエピソードにしなくても良かったと思う。コメディ映画なので、ある邸は寛容的に
観ていかなければ成り立たないのは分かりますが、もう少し細部に気を配った描き方をして欲しかったというのが本音。
そして、ラストには地味にドンデン返しが待っている。このラストはまずまず自然な感じで良いと思った。
散々、ハリーが工作活動しておきながらも、実はそれ以上に考えていることがあったというオチは悪くない。
しかも、往々にしてドンデン返しをする映画は、ここで間違ってしまって映画全体を崩してしまうことが多いですから。
しかし、本作のマイケル・ホフマンはこのラストはまぁまぁ上手いことやったと思いますよ。
「終わり良ければ、すべて良し」とはよく言ったもので、やっぱり人間の印象って、そんなもので最後を上手くまとめると、
映画全体の印象はそう悪くならないですね(苦笑)。しかも、シャバンターがヌーディストになってるのも面白い。
まぁ、絵画って億万長者の趣味って感じですからね。相当な目利きがブレーンにいないと成り立たない趣味でしょう。
実際に古くから、贋作を専門に書いていた“画家”が存在していたって話しですし、
ここから派生して古銭や古札、掛け軸など価値が上がり易いものには必ずと言っていいほど、贋作が流通してます。
それだけ金に糸目をつけないコレクターが多いということなのでしょうが、恐ろしくて素人は手を出せないですね。
だからこそ、“お宝鑑定師”といった職業が成り立つのでしょうけど、その鑑定が正しいのかも確かめようがない。
鑑定士も多くいる世の中ですから、そういった不正や質の悪い鑑定士が生まれることを防ぐ仕組みが
あるのかもしれませんが、それでも贋作だと気付かないでかなりの投資を伴って、収集してしまった人もいるでしょう。
そういう場合って、本人は価値を知りたいのだろうけど...実は知らない方が幸せだ≠ニいうこともあるのだろう。
(上映時間89分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 マイケル・ホフマン
製作 マイク・ロベル
ロブ・パリス
アダム・リップ
原案 シドニー・キャロル
脚本 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
撮影 フロリアン・バルハウス
編集 ポール・トシル
音楽 ロルフ・ケント
出演 コリン・ファース
キャメロン・ディアス
アラン・リックマン
トム・コートニー
スタンリー・トゥッチ
アンナ・スケラーン
伊川 東吾
ジェラード・ホラン
クロリス・リーチマン