ディック&ジェーン/復讐は最高!(2005年アメリカ)

Fun With Dick And Jane

おぉ、これは面白いじゃん!

77年の『おかしな泥棒 ディック&ジェーン』のリメークなのですが、
オリジナルではジョージ・シーガルとジェーン・フォンダの夫婦コンビで描かれましたが、
本作は人気コメディ俳優ジム・キャリーと、『ディープ・インパクト』のティア・レオーニが演じている。

監督は『ギャラクシー・クエスト』のディーン・パリソットで、
コメディ映画の経験はありますが、00年代のジム・キャリーはどうにもシリアスな路線と、
コメディ映画の路線の狭間で揺れ動いていたというか、彼特有の“顔芸”で押しまくるコメディに
限界を感じていたのか、90年代後半の頃の勢いは無くなっていて、やや迷走していたように思います。

僕も、あまりにアクが強すぎるジム・キャリーの“顔芸”ばかりで押し通すコメディには
やや閉口気味だったこともあり、本作ぐらいの塩梅が丁度良い。これは作り手も上手くバランスとったと思います。

また、ジム・キャリーに負けないくらい、妻ジェーンを演じたティア・レオーニも良い。
ドタバタ劇で騒がしい映画になりがちなのですが、本作はホントにバランスが上手くとれているのか、
ドタバタによる騒々しさも、丁度良い。復讐劇という観点では、弱過ぎるところが気にはなるけど、
ラストはそれなりに爽快感が味わえて、コメディ映画としては悪くない出来と言っていいと思います。

ディーン・パソリットの演出は映画のテンポを大事にしているかのようで、
全体的に小気味良く、悪い意味で緩慢な演出が無い。『ギャラクシー・クエスト』はかなり話題になりましたが、
本作はあまり話題にならずに劇場公開が終了してしまいました。でも、それが勿体ないくらい、良い出来ですね。

映画の冒頭とエンド・クレジットのクラシカルな絵コンテも、逆にPOPに見えて新鮮だ。
そういう意味では、作り手のオリジナルへのリスペクトも感じられて、オリジナルを下地にして
現代アレンジを加えて、『おかしな泥棒 ディック&ジェーン』をリメークしたかったという意図が伝わってきます。

僕はまた、悪い意味でいつものジム・キャリーの押しの強さが炸裂していて、
他のキャストもそれに圧倒されて、ジム・キャリーの“顔芸”ばかりが印象に残る映画かと思っていたので、
ここまで映画のテンポが良く、ライトな感覚で一気に見せてくれるコメディ映画だったことに驚きました。

主人公が勤務していたグローバーダイン社は粉飾決算が常態化していて、
実質大赤字の会社で資金繰りが悪化していた企業で、何も知らなかった主人公が
広報本部長に就任することで家族大喜びだったものの、最初の仕事として出演したテレビ番組で
いきなり自分の知らなかった不祥事の数々をキャスターから批判されるという、集中砲火を浴びたことで
初めて自分の勤務する会社のヤバさを実感して、慌てて再就職活動に出るものの、なかなか上手くいきません。

それどころか、主人公自身もグローバーダイン社の批判の対象として槍玉に上げられ、
告訴されるかもということからヤケを起こして、生活費を捻出するために夫婦で泥棒をはたらくようになる。

誤解なきように。これはあくまで映画だから“流せる”話しですので、
現実にこんなことが起きたら笑えませんが、本作には営利だけを考える経営者への風刺があります。
結局、グローバーダイン社のような規模であれば尚更ですが、従業員本人とその家族の生活が
懸かっているいるわけで、そういうことを常に意識している経営者がどれだけいるのか?ということです。

やはり本作で登場したアレック・ボールドウィン演じる経営者には、そういう気持ちがない。
ディックとジェーンが泥棒家業に手を染め始めたことは褒められたことではないし、
代償は払わなければなりませんが、ディックとジェーンの復讐は強奪をするものではなく、
彼らが知恵を絞って行動した結果として、失職した人々の補償を捻出するというのは、観ていて共感を得やすい。

本作を観ていて感じたわけではないのですが...
後から調べていると、現実に起きたこととの類似点としては、2001年の“エンロンショック”ですね。
これは確かによくよく調べるのと、当時、報道されていたことからすると、よく似ていると思います。

ヒューストンにあった大企業のエンロンも、長年、粉飾決算を繰り返していたようで、
これが社内では当たり前の慣習化していたようだ。多額の簿外損失もあり、エンロンの実質損失金額は
そうとうな金額に膨れ上がっていたようで、2001年に耐え切れなくなってエンロンは破綻してしまいます。
当時は、やはりエンロンの元社員からの内部告発もあり、事態は一大キャンダルとして報じられます。

映画の中ではコメディとして描かれていますが、
現実の“エンロンショック”では、働いていた社員とその家族が失業し、本作で描かれたことと似たことが発生しました。

それをオリジナル作品にならって、主人公夫婦がコミカルに再就職活動や
生活費を捻出するための強盗を演じなければならないわけですから、これはこれでハードルが高い映画だ(笑)。

映画の中盤で描かれますが、生活に困った主人公夫婦が次から次へと家財道具を売って、
雇った家政婦を解雇はせずに、現物支給でしのいでいたところ、家政婦から親戚から仕事を紹介してもらうことを
提案され、ディックがブルーカラーの労働者として、日当の仕事を他の失業者と共に競って奪い合い、
終いには、移民局に不法入国者と誤解され拘束されて、収監されてしまうという展開が面白い。

しかも、脱走を妻が手助けするという展開は、奇想天外そのものだ。

まぁ・・・映画に派手さはありませんし、
ジム・キャリーも持ち前のコミカルさを活かしながら、これくらいのドタバタさで抑えておくことで、
実に良い塩梅のコメディ映画に仕上げることに成功している。今後はこれくらいにして欲しい(笑)。

ジム・キャリーの相手役である妻ジェーンを演じたティア・レオーニのがんばりが光ります。
彼女はあまり数多くの映画に出演しているわけではないのですが、彼女の出演作品を何本か観ましたけど、
健康的なイメージもあってか、あまり嫌味な感じのある女優さんではなく、もっと評価されていいと思うのですがねぇ。

正直、出演作品とか役に恵まれていない気がして、過小評価な女優さんかと思いますね。
本作なんかも、彼女だったからこそ、ジム・キャリーの良い相手役を務められたのではないかと思います。

ありがちな意見で恐縮ですが、本作に過度な期待をかけてはいけません。
あまり期待せずにライトな気持ちで観ると、思いのほか楽しめる要素はいっぱいあると思います。
また、ジム・キャリーの“顔芸”が苦手という人は、アクの弱いジム・キャリーを観るという意味で、オススメできます。
(それでも...やっぱり彼は個性的なので、ダメという人はきっといるだろうけど・・・)

監督のディーン・パリソットはTVシリーズ『ER ―緊急救命室―』などの演出で
実績を積んできたディレクターですが、『ギャラクシー・クエスト』と本作を観る限り、力はあるディクレターだと思います。
ただ、どうやら寡作な人のようで、あまり多くの映画を撮ろうとしないところが、また...勿体ないなぁ。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ディーン・パリソット
製作 ジム・キャリー
   ブライアン・グレイザー
脚本 ジャド・アパトー
   ニコラス・ストーラー
   ピーター・トラン
撮影 ジャージー・ジーリンスキー
編集 ドン・ジマーマン
音楽 セオドア・シャピロ
出演 ジム・キャリー
   ティア・レオーニ
   アレック・ボールドウィン
   リチャード・ジェンキンス
   アンジー・ハーモン
   ジャン・マイケル・ヒギンズ