007/ロシアより愛をこめて(1963年イギリス)

From Russia With Love

これは確かに第1作と比較すると、かなりゴージャスになった第2作ですね。
当初の邦題は『007/危機一髪』だったのですが、70年代にこの邦題に変更になったようです。

監督は前作に続いてテレンス・ヤングが担当しているのですが、かなり環境が変わったのでしょう。
初代ボンドことショーン・コネリーの姿も板に付いて来たし、ボンド・ガールのダニエラ・ビアンキも良いですね。
欲を言えば、スペクターが派遣した冷酷非情な凄腕の刺客を演じたロバート・ショーの見せ場がもっと欲しかったけど。

しかし、どこかチープなSF映画のようでもあった第1作と比較すると、本作はかなり“垢抜け”ましたね。
全編充実したエンターテイメントという感じで、イスタンブールから脱出する長距離列車の中でのアクションは
ソリッドな感じで、とっても良い。終盤にはヘリやボートを使ったアクションもあって、かなり大掛かりなシーン演出もある。

本作ではハッキリと悪の秘密結社スペクターの存在を明言しており、
より英国諜報部隊とスペクターの対立構造も明確なものになり、映画の作り自体がゴージャスに感じられる。

エンド・クレジットでも既に書かれていますが、「ボンドはこれで静かに終わりません」となっており、
既に次作『007/ゴールドフィンガー』の製作が決定していたせいか、本作の時点で既に予告されています。

まぁ、ボンドが相変わらず美女に弱いというキーワードが健在で、ハニートラップと分かっていつつも、
敢えて美女の罠にかかりに行くというスタイルが彼らしい。すっかりボンドの女ったらしが定着したのか、
ボンドがしっかり仕事をしてきそうな美女の写真を見せてボンドの興味を惹かせるし、ボンドが録音したテープを
聞きながらも、大事な情報をほぼほぼそっちのけで、オノロケな会話を楽しんでいるかのような雰囲気が面白い。

ただ、ショーン・コネリーがここまでモテモテだという設定が、どうにも信じ難いところだ(笑)。
相変わらず亭主関白なところがあるショーン・コネリーなせいか、トルコの民族の決闘の夜に招待されて、
女性同士の決闘の結末を預かったボンドが、この女性たちをまるで褒美のように“提供”されるという、
今の時代ではコンプライアンス上の問題がありそうな描写もあったりして、当時の女性観が現れているように見える。

色々と言われていたモンティ・ノーマンが作曲したテーマ曲は、やっぱりカッコいいですよね。
まだシリーズ化が確定していなかった第1作『007/ドクター・ノオ』の時は、オープニング・タイトルでボンドが
銃を構えるお約束のシルエットが使われず、それが本作で初めて登場して定番化したので、なんだか感慨深い(笑)。

このオープニング・タイトルだけではなく、英国諜報局の職員でボンドに様々なアイテムを授ける、
デスモンド・リュウェリン演じる“Q”が初登場します。派手な仕掛けをしたボンド・カーはまだ登場しませんが、
ボンドが困ったときに使えるようにと、多額の金貨を忍ばせたアタッシュケースを与え、少しだけ役に立たせてます。
シリーズが進むほど、“Q”が作るアイテムは謎なアイテムが増えて、笑いをとるのに使われている感がありますが、
初登場の本作ではまだトボけたところを見せるわけではなく、コメディ・パートを担うという感じではないですね。

ダニエラ・ビアンキ演じるソ連の美女タチアナが亡命するという時点で、どこか罠を感じさせる内容ですが、
ボンドも彼女の亡命が張り巡らされた罠であることを悟りつつも、自ら罠にハマりに行くかのように任務に興味を持ち、
実際にタチアナと恋仲になりながらも、ソ連の特殊暗号機「レクター」を盗み出すという無茶な任務に挑むことになる。

しかも、そこでスペクターが手配した屈強な刺客がボンドの行く手を阻むわけで、
前作ではどちらかと言えば低予算な雰囲気丸出しでしたが、本作では予算がたっぷり用意されたようで、
前作には無いスケール感で見どころの多い構成になっている。何より、スパイ映画らしい雰囲気があるのが嬉しい。
この“スパイ映画らしい”というキーワードがポイントだと思っていて、それは本作が最初に打ち出したものだと思う。

つまり、後年のスパイ映画やスパイを題材にしたTVドラマにしても、本作で確立されたボンド像に
かなり強い影響を受けていることは明らかで、行く手を阻むスペクターの連中の妨害も、他のお手本となる描写だ。

ロバート・ショー演じる刺客にしても、ただ屈強で腕っぷしが強いというだけではなく、
長距離列車の中でボンドらとディナーを楽しむ姿があり、ここでボンドと1対1で対峙するために小細工をする。
これが如何にも・・・という感じではあるのですが、本作のロバート・ショーからチョットした社交性や知性を感じます。

そして映画の終盤になってから、前述したようにヘリコプターにボートを使ったアクション・シーンがあります。
まるでリゾート地を巡るかのようなアクション・シーンの連続ですけど、特にヘリコプターに襲撃されるシーンは、
ものスゴい低空飛行でボンドを狙ってくるせいか、実に迫力あるシーン演出になっていて、大きな見せ場になっている。
思わず、「これってどうやって撮ったのだろう?」と観客にハラハラさせるのですが、この狙いは大成功だったと思う。

このヘリコプターからの襲撃をかわすボンドを描いた一連の演出は、言わずと知れたヒッチコックの名作である
『北北西に進路をとれ』にインスパイアされたことは、ほぼ間違いないだろうし、スタントマンがこなした実写映像で
『北北西に進路をとれ』よりも更に真に迫った映像で臨場感たっぷりだ。これは相当に気合の入った演出だと思う。

この辺は低予算映画の雰囲気が色濃く残っていた第1作『007/ドクター・ノオ』とは全く違う感覚ですね。
おそらく第1作では苦労を強いられた監督のテレンス・ヤングだったでしょうから、本作では伸び伸びやってますね。

そして、クライマックスではボートを使って、激しいチェイスと銃撃戦のアクション・シーンで映画を〆る。
この一連のシーンも1963年という時代を思うと、これだけの迫力を出しているのは実にスゴいことだと思います。
第1作を成功させたことで評価され、シリーズ化が決定して予算もたくさんついたことが大きかったと思うので、
やっぱり第1作で工夫を凝らして頑張ったテレンス・ヤングの功績が大きく、それにプロダクションも応えたわけですね。

イスタンブール駐在の諜報部員でボンドに協力するケリムが印象的ですが、
古くから掘られていたとされる、地下道を通って、スペクターの連中が会議する事務所の床下に潜り込んで、
望遠鏡のようなスコープを床から出して会議の様子を見るという、安っぽい演出もありますが、これは寛容に観たい。

この地下道は今や公開されて観光名所となった、地下宮殿と呼ばれる場所であって、
東ローマ帝国時代に建設された貯水池であり、貯水槽の長さは138mにも及ぶというから圧巻な光景でしょうね。
今は世界遺産として登録され一般公開されていますが、本作撮影当時はまだ一般公開されていない時代で、
本作の撮影の後に大規模な補修作業が入って、1980年に一般公開されたらしい。一度は行ってみたいですね。

それにしても、本作以降のショーン・コネリーが演じるボンドはまるでジゴロの如く、
時間があったら美女とキスしちゃってるせいか、歴代のボンドの中で見ても、最も女ったらしなボンド像です。
その中で、最もショーン・コネリーが演じたボンドが大事にしていた女性は、やっぱり...マネーペニーでしょうね。
そういう意味では本作あたりから、それが鮮明になってくるのですが、マネーペニーとの関係がどことなく、
プラトニックな関係で、且つマネーペニーの想いの方が強めに映るのが印象的だ。どう見ても、浮気性なボンドなのに。

そういう意味で、本作のボンドガールを演じたダニエラ・ビアンキがマネーペニーの恋敵となるわけですが、
「このダニエラ・ビアンキこそが、過去最高のボンドガール」と一部のファンが称賛するくらいで、確かに彼女は良い。
僕が感じたのは、本作で描かれた彼女には“裏の表情”があるのか、本気でボンドを愛しているのか微妙な感じで
最初から最後まで演じ切っていて、彼女の本意がどちらなのかが不明瞭なのが、絶妙に映画全体に効いてくる。

ダニエラ・ビアンキ本人はイタリア人で英語を覚える気がないなど、かなり我が強い女優さんだったらしく、
残念ながら本作以降は欧米の映画界で活躍することはなかったのですが、個人的には活躍する姿を見たかったなぁ。
(ちなみに本作の彼女の台詞は英語なのですが、全て彼女の地声ではなく吹き替えを使っています)

ちなみにタイトルに“ロシア”というキーワードが出てきますが、本作はロシアが舞台なわけではない。
あくまでソ連の美女の亡命を手伝って、イスタンブールにある暗号機「レクター」を盗み出すという内容でしかない。
しかも、スペクターの通称“No.3”が実は元々ソ連の諜報部隊の大佐で、今は国際関係そっちのけでスペクターの
手下となって、ドクター・ノオの工作活動を壊滅させられた腹いせにボンドに復讐するというから、なんともキワどい(笑)。

これは特に冷戦時代の旧ソ連からすれば、まったく快く思えない題材の映画なのでしょうね。
結局はこのシリーズも米ソ冷戦という大きなキーワードが背景にはあるシリーズなので、必然と言えば必然ですが、
当時の旧ソ連政府からすれば、このシリーズが長年続くということに対して、さぞかし面白くないことだったのでしょうね。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 テレンス・ヤング
製作 ハリー・サルツマン
   アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
   ジョアンナ・ハーウッド
撮影 テッド・ムーア
音楽 ライオネル・バート
   モンティ・ノーマン
出演 ショーン・コネリー
   ダニエラ・ビアンキ
   ロバート・ショー
   ペドロ・アルメンダリス
   ロッテ・レーニャ
   マルティーヌ・ベスウィック
   バーナード・リー
   ロイス・マクスウェル
   デスモンド・リュウェリン

1963年度イギリス・アカデミー賞撮影賞<カラー部門>(テッド・ムーア) 受賞