007/ロシアより愛をこめて(1963年イギリス)

From Russia With Love

初公開時の邦題は『007危機一発』だったシリーズ第2作。

前作に続いてテレンス・ヤングが監督した作品ではありますが、
映画の冒頭からヒシヒシと感じさせるのは、明らかに映画の予算が大幅にアップしたこと。
セット撮影も含めて、大掛かりかつゴージャスなシーン演出が増え、スケールが明らかに大きくなっています。

特に日本では本作に対する人気がひじょうに高く、
未だにシリーズ最高傑作として扱われる向きが強いのですが、確かに良く出来た作品ではあります。

ただ、個人的には第1作の工夫しながら映画を進めていくテレンス・ヤングのエネルギッシュな語り口が好きで、
さすがに予算が増大した本作では、一つ一つのアクション・シーンが派手になっているのを観てしまうと、
シリーズが成長したことの喜びと、低予算という枠組みで闘うことと決別した寂しさが、入り混じってしまいますね。

この映画で初めて“スペクター”なる、秘密結社の存在が明らかになるのですが、
この映画はボンドが最初にフレームインしてくるまで、18分もの時間を費やしており、
テレンス・ヤングは映画の序盤の時間を使って、前作で説明不足だった部分を補完していたようで、
随分と“スペクター”に関する描写を入念に行った印象が残りますね。これは正解だったと思います。

活劇シーンにしても、例えばロバート・ショー演じるレッドがユーゴ横断するために乗った
機関車の客室まで追ってきたシーンで、最後の最後にボンドと取っ組み合いの対決になるのですが、
狭い客室内での格闘シーンを実に上手く撮れている。おそらく入念にリハーサルしたのでしょうね。

そして忘れてはいけないのが、ダチアナを演じたダニエラ・ビアンキだろう。
撮影当時、22歳という若さでしたが、過去のボンド・ガールと比較しても、間違いなくトップクラスだろう。
僕も今まで観てきたボンド・ガールの中では、ほぼ間違いなく彼女の美貌はトップだと思います。
序盤に登場してきたシーンで、いきなりNo.3から「ジャケットを脱げ」と言われても、怯まなかったり、
「3人の男性と情事を楽しんでたね?」と言われても、「失礼なこと言わないで!」と強がったり、
ある意味で理想的なボンド・ガールを構築できていて、正しくお手本のような存在ですね。
おそらく007シリーズのオールドなファンの間でも、彼女をベストに挙げる声は多いでしょうね。

前作に続いて、どこかセクシーな魅力を映画に吹き込むテレンス・ヤングなだけに、
映画の冒頭でロバート・ショーが湖でマッサージを受けるシーンでも、グラマーな姉ちゃんが
水着姿になるシーンでドキドキした映画ファンも多いでしょうが(笑)、この映画の大きな功績は
ダニエラ・ビアンキをボンド・ガールに抜擢できたキャスティングにあるでしょうね。

前作の世界的な大ヒットに、007シリーズが人気シリーズになることを確信したせいか、
プロダクションはかなり強気に出ていて、本作のエンド・クレジットで既にショーン・コネリーが
『007/ゴールドフィンガー』のボンド役で再びスクリーンに戻ってくることを予告しており、
プロダクション自体もかなり勢いにノッてプロモーションしていたことを、今尚、強く感じさせられます。

やはりボンド役はショーン・コネリーが強くイメージに焼き付くのは、
徹底して美女に弱いというところでしょうね。その分だけNo.3のような更年期の女性にはなびかないけど・・・。

相変わらずマネーペニーをクドこうと必死になってるし、
イスタンブールで招待された、現地の民族の腰フリダンスを目の前で見て、
挑発的かつ情熱的なダンスで顔の近くまで接近されて、ニヤニヤと中年のオッサンっぽく笑う姿や
ホテルの自分の部屋に入った途端に、勝手に侵入していたロシア人美女タチアナがベッドルームにいて、
いきなり「いらっしゃい♪」みたいな感じでベッドに招かれて、ロクに知りもしない女性といきなりキスしちゃう(笑)。

その挙句、大人の“大熱演”へと発展するそうなのですが、
この一連の腰の軽さが印象的で、いくらそういうキャラ設定だったとは言え、あまりに女に弱いというのが
ショーン・コネリーが築いてきたボンドの一つの大きな特徴であり、これが合っているんでしょうねぇ。

そして、ボンドの恋人と思われる女性と休暇を楽しんでいる様子が
この映画のボンドの登場シーンだというのも面白く、「またジャマイカに出張とか言うんじゃないでしょうねぇ〜」と
女性から愚痴られるボンドという、随分と人間臭いシーンも描かれており、とにかく女性には弱いようだ(笑)。

まぁ普通に考えて、ここまで無警戒な男が世界を股にかけるスパイとして
大活躍できるほど世界は甘くないようにも思えるのですが、これはご愛嬌といったところなのかな。
まぁそれ以外の部分で、ボンドをスマートに描いて補う努力をしているだけに、個人的には不問としたい(苦笑)。

ちなみに原作順で言えば、本作は『007/ドクター・ノオ』よりも前の時代であり、
No.3が靴に仕込んでいた毒付きの刃でボンドが刺されてしまうらしく、救命措置によってボンドが助かるという
エピソードが『007/ドクター・ノオ』では語られているらしく、この辺は原作を大きくアレンジしたところだ。
(原作で語られる、刃に塗られた毒とはフグ毒として有名なテトロドトキシンらしい・・・)

結局、No.1の素顔は最後の最後まで明らかにされないのですが、
その分だけロバート・ショー演じるレッドが、屈強な敵役としてしっかり描かれているだけに、
悪役はキッチリ描くという、アクション映画のセオリーはしっかり守っているのは好感が持てる。
相変わらずテレンス・ヤングの演出にもキレがあり、予算が増大しても手を抜いていないのは感心だ。

できることなら、Qから支給されたアタッシュケースももっと活用して欲しかったのですが、
まだ後の007シリーズのように小道具をいっぱい繰り出して、小道具のバリエーション勝負という
苦しい展開にもっていったように、不毛な境地に足を踏み入れていないせいか、アクション映画としての
魅力を純粋に模索しているテレンス・ヤングの工夫が、まだまだこの映画の中に見られると思いますね。

イギリス・アカデミー賞でも賞賛されたようですが、
テッド・ムーアのカメラも美しく、ヴェネツィアでのロケはできなかったのか、
ラストシーンが合成であったのは残念ですが、全体的にカメラの貢献は大きな映画だと思う。
ダニエラ・ビアンキが輝いたというのも、おそらくこのカメラの美しさが大きなアシストとなっているでしょうし、
終盤にあった、ボンドが追跡ヘリの襲撃を受けるシーンでの迫力も、カメラの貢献がデカいですね。

ちなみに日本でこの邦題になったのは、72年のリバイバル上映のときかららしい。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 テレンス・ヤング
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    ジョアンナ・ハーウッド
撮影 テッド・ムーア
音楽 ライオネル・バート
    モンティ・ノーマン
出演 ショーン・コネリー
    ダニエラ・ビアンキ
    ロバート・ショー
    ペドロ・アルメンダリス
    ロッテ・レーニャ
    マルティーヌ・ベスウィック
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    デスモンド・リュウェリン

1963年度イギリス・アカデミー賞撮影賞<カラー部門>(テッド・ムーア) 受賞