パリより愛をこめて(2010年フランス)

From Paris With Love

かねてからカツラ疑惑のあった(笑)、ジョン・トラボルタがついにスキンヘッドにして、
映画に出演したフランス映画界の名匠リュック・ベッソン原案のバイオレンス・アクション。

原題は63年の『007/ロシアより愛をこめて』へのオマージュでもありますが、
勿論、この映画は“007シリーズ”とは何一つ関係なく、完全なるスパイ映画というわけでもない。

確かに映画の冒頭で、パリの大使館職員を隠れ蓑にリースという青年が
工作活動を行っていることを描いており、机の下にガムをくっ付けようとしたり、
色々と孤軍奮闘しているように語られますが、スパイ映画の要素はハッキリ言ってここまで。
タイトルは作り手のお遊びの要素も強くって、スパイ映画みたいな雰囲気を期待すると、肩透かしを喰らいます。

監督は『96時間』で話題となったピエール・モレルということで、
おそらく本作に対する期待値はそうとうに高かったのだろうとは思うのですが、
残念ながら本作の出来自体は、そこまで良いものとは思えなかったですね。
しかしながら、上映時間92分という実に経済的な時間で、コンパクトに見せたことは称賛に値する。

リュック・ベッソンらしいスピード感溢れる展開であり、
あまり深いことを考えずにスカッとストレス発散ができる類いの映画になっており、
現代のストレス社会にはピッタリな映画ですが、横行するご都合主義に閉口する人もいるかもしれません。

特に中盤で終盤への伏線となる、娼婦と一緒にアパートに入っていって、
起爆装置のスイッチが入った爆弾を逃走するターゲットの車の屋根に落とすシーンなんかは、その最たるもの。

とは言え、荒っぽい映画ではあるのですが、
強引に力技で映画を破綻させずに成立させたディレクターの手腕はある意味でお見事で、
ピエール・モレルのこういった手腕は、リュック・ベッソンの感覚とマッチしていると言っていいかも。

そして、映画の後半の展開は僕にとっては、予想外の展開であって、なかなか楽しめたのも事実。

地味に大柄なジョン・トラボルタの重たそうなアクション・シーンはさておき、
パリの大使館に勤務する青年を演じたジョナサン・リース=マイヤーズのオドオドした雰囲気が良かった。
特にコカインが大量に入ったツボを持ったまま、銃撃戦を逃げ惑ったり、ある意味で孤軍奮闘。

但し、この映画の大きな難点はそれ以上のものが何も無かったこと(笑)。
前述した映画のスピード感とキャスティングは悪くなかったのですが、どうも物足りない。
それぞれのアクション・シーンも随分と派手な銃撃戦を描いたり、作り手も苦慮したと思うのですが、
一つ一つのアクションに良い流れが作れていないせいか、いずれも単発的でどうも盛り上がらない。
いつもこれからというところで、アクション・シーンが切れてしまう感じで、高いテンションが続かないのです。

やはりこれは『96時間』のような映画とまともに比較されと、ツラい。。。
どうしても二番煎じを狙ったような映画に観えて仕方がない部分は散見されるし、
そうなってしまうと、どうしても先に作ってしまった『96時間』の先駆性が勝ってしまう。
この辺はリュック・ベッソン含め、新たな魅力を出していかないと、映画として苦しくなるだけなんですね。

でも、この映画が一味違ったところは、クライマックスの必死の説得のシーン以降で、
さすがに頭を弾丸でブチ抜いたシーンには驚いてしまった。こんな展開、ハリウッドでもなかなか無いですからねぇ。

「必ず最後に愛が勝つ!」というセオリーを無視して、
あくまで勧善懲悪に徹した映画になっていることを考えると、ある意味では常識的な映画なんでしょうね。
それは『96時間』でも感じましたが、ピエール・モレルって意外に常識人なのかもしれませんね(笑)。

ジョン・トラボルタ演じるスゴ腕捜査官チャーリーに関しては、
ある意味で必要悪であるかのように描いていることは特徴的で、パリに渡航したら、
いきなり空港で栄養ドリンクを持ち込ませろとトラブルを起こし、中華レストランでいきなり大暴れし、
片っ端からドラッグ・ディーラーを殺害していくあたりは、アウトローな“処刑人”といった感じ。

そこで、真面目な青年リースとのどことなく噛み合わないコンビなわけで、
彼が新前捜査官としてキャリアをスタートさせるにあたり、チャーリーから洗礼にあうという流れ。
言ってしまえば、01年の『トレーニング・デイ』と親戚関係にあるような映画と言ってもいいだろう。

しかし、残念ながら本作は全米で評論家筋から総スカンを喰らってしまい、
結果として興行収入も振るわず、期待されたほどヒットすることはありませんでした。

まぁジョン・トラボルタがやりたい放題やったアクション映画というイメージが先行したせいか、
商業的成功を収められなかった理由は、僕にもなんとなく分かるのですが、ピエール・モレルの制約された
時間内でテンポ良く見せ場を詰め込んで、映画をスピード感もって構成することは、もっと評価されてもいいかな。
この映画では、各アクション・シーンのつながりが上手くいかなくて失敗した感は強いけれども、
シーンごとのつながりと、悪役キャラクターをもっと描き込めば、映画は変わっていたと思えるだけに勿体ない。

それと、どうせなら映画の最初と最後をチェスで構成しているのですから、
このチェスの意味合いを、もっとハッキリ強く持たせて欲しい。こういうのを観ちゃうと、どうしてもB級っぽい。
ある意味では、昨今、稀に見るぐらいB級の王道を行った感はありますが、リュック・ベッソンもピエール・モレルも
そんな評価で満足できるようなレヴェルの映画ではないだろうし、さすがにそれでは寂しいものがあるかなぁ。

まぁ・・・あまり深読みせずに、映画を観てスカッとしたいという人にはオススメ。
作り手もそれを前提で作っているので、僕個人としては映画の出来が良いとは思えませんが、
力で押し通す映画が好きな人なら、観て後悔することはないだろうと思います。

ちなみに劇中、スローモーションを駆使したガン・アクションがあるのですが、
これを演じるジョン・トラボルタを観て、思わず『フェイス/オフ』を思い出した映画ファンは少なくないはず(笑)。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−15+]

監督 ピエール・モレル
製作 インディア・オズボーン
原案 リュック・ベッソン
脚本 アディ・ハサック
撮影 ミシェル・アブラモヴィッチ
編集 フレデリック・トラヴァル
音楽 デビッド・バックリー
出演 ジョン・トラボルタ
    ジョナサン・リース=マイヤーズ
    カシア・スムートニアック
    リチャード・ダーデン
    アンバー・ローズ・レヴァ
    シェムズ・ダマニ
    ホアキン・デ・アルメイダ