地上(ここ)より永遠に(1953年アメリカ)
From Here To Eternity
真珠湾攻撃を目前にしたハワイに駐留する米軍基地を舞台に、上官の妻と不倫関係になる軍曹と
基地で日々を過ごす兵士たちの規律を求められる中で、不当な扱いや訳の分からないシゴきを描いたメロドラマ。
べつに不倫を描いたメロドラマが悪いというわけではないのですが、なんともこれは緩慢な映画に映った。
フレッド・ジンネマンは77年の『ジュリア』のイメージが強かったせいか、本作はアカデミー賞作品とは言え、
その結果が信じられないくらい緩慢な感じに見えてしまい、お世辞にも僕は楽しめたとは言えなかったのが残念。
キャスティング的にも、不倫関係になる軍曹としてバート・ランカスター、不倫相手にデボラ・カー、
その軍曹のいる部隊の兵士として元ボクサーのモンゴメリー・クリフト、その友人にフランク・シナトラ、
フランク・シナトラが事ある毎にぶつかり、執拗に暴力的に絡んでくるジャドソンにアーネスト・ボーグナインと豪華。
本作は53年度アカデミー賞で主要12部門に大量ノミネートされ、作品賞含む8部門で受賞するという快挙。
それは軍内部の腐敗した体質を描いた原作の映画化という話題性もあったのでしょうから、多少の贔屓目はあるかも。
バート・ランカスター演じる軍曹は、最初っから軍曹の妻にデレデレしちゃって、
周囲からも「狙ってんだろ?」と悟られる始末で、それは全くの図星で早々とデボラ・カーに接近して不倫関係になる。
これは時代性もあるかもしれませんが、どんな事情があっても、バレたらヤバい事態になることは分かっているはず。
デボラ・カー演じる上官の妻には彼女なりに深く悲しい事情があるという設定ですから、
多少なりとも同情的に観てしまうところもなくはないのですが、彼女がなんとか軍曹と結ばれるために提案するも、
この軍曹は軍曹でつまらないポリシーを主張し始めて、彼女の提案を受け入れずに、曖昧な態度に終始してしまう。
この2人が遊びに行ったビーチでの波打ち際で抱き合ってキスするショットは、
本作の表紙になるほど映画史に残る名シーンとなっていますが、僕の中ではそこまで美しいシーンには見えなかった。
フレッド・ジンネマンがどう思って撮ったのかは分かりませんが、そこまでロマンチックには見えない。
デボラ・カーは美しいのですが、この2人の後ろめたい不倫というのをもっと細かく描いた方が良かったと思うし、
全体的に2人が精神的にも結ばれるまでが早過ぎて、少々雑に見えてしまう。もっと繊細さを持っていて欲しい。
そうでなければ、このビーチでのラブシーンにしたって、あまりに唐突でロマンチックなものには見えないんですよね。
バート・ランカスター演じる軍曹も、随分と強引に彼女に近づいていくし、精神的な駆け引きが見えない。
彼女なりに事情を抱えていて、どことなく軍曹に気持ちが惹かれていたとしても、結ばれるまでに早過ぎる。
そこまで衝動的に不倫に走るほど、強いショックがあったとも思えないし、色々と端折り過ぎているように感じられます。
原作ではどうなっているか知りませんが、ストーリーテリングにも個人的にはどうなのか?と疑問に思うところもあって、
映画の序盤は軍曹の不倫の物語と、モンゴメリー・クリフト演じる元ボクサーのエピソードが中途半端に両立して、
いつの間にかフランク・シナトラのトラブルが刺さり込んできて、徐々に軍曹の不倫の話しはどこかに行ってしまう。
そして、戦況が悪化すると余計に話しは混乱するような感じで、ラストシーンで久しぶりにデボラ・カーが登場してくる。
いろいろと整理がついていない感じで、どうにもスッキリしない語り口という印象が残ってしまう。
フレッド・ジンネマンの監督作品なので、この手のメロドラマになることは分かり切ったことではあるのですが、
全体にもっと整理して描いて欲しいし、ホントは魅力的な物語だったのかもしれないけど、全てが悪い意味で中途半端。
これでは、せっかくのデボラ・カーの美貌も映画の中で磨かれることなく終わってしまい、正しく“宝の持ち腐れ”状態。
途中から、やたらと刺さり込んでくる血気盛んな兵士を演じたフランク・シナトラの存在も、映画の流れを阻害する。
どうやら、映画俳優としての再起をかけて本作の役をゲットして、本作でオスカーを受賞するなど高く評価されてるけど、
正直言って、僕の中ではそれだけの価値がある仕事だったのかは疑問で、何か光るものを感じることはできなかった。
どちらかと言えば、モンゴメリー・クリフト演じる元ボクサーの“過去”をしっかり描けばよかったのに・・・と思ってしまった。
それから、このフランク・シナトラ演じるマッジオは少々お調子者なところがあって、
いくら女性を目の前にする酒場の雰囲気でイキがったとは言え、営倉係のアーネスト・ボーグナインにケンカを売って、
その後は何度もトラブルになってしまうというのは、あまり同情的に観れないエピソードで、これが余計だったと思う。
そんなことよりも、マッジオの復讐に燃えるモンゴメリー・クリフトの方が魅力的に映り、ナイフを持っての対決となる。
執拗に気性が荒く絡み続けるアーネスト・ボーグナインはなかなか傑出したキャラクターで、
営倉に勤務する兵士だというのに、このクレージーな感じがたまらなく良い。もっと彼を積極的に描いて欲しかった。
おそらくフレッド・ジンネマンはジャドソンを前に出し過ぎると、違う映画になってしまうことは恐れたのではないかと思う。
復讐に燃えてモンゴメリー・クリフトがアーネスト・ボーグナインに挑みに行くエピソードは少々クサいし、
あの後に恋人の部屋で保護されて何とかなっちゃうというのは、にわかに信じ難い部分はあるにはあるけど、
それでも同僚ですら気の合わない奴であれば殺すことも躊躇しないジャドソンの雰囲気もあって、緊張感が高まる。
ひょっとしたら、これはクライマックスの日本軍の襲撃よりも緊張感あるシーン演出だったかもしれず、妙に印象に残る。
そう、この映画は真珠湾攻撃前のハワイを舞台にした、第二次世界大戦を描いた作品であるにも関わらず、
日本軍の襲撃シーンがあまりに平坦に描かれ過ぎて、ここまで緊張感の無いシーンになってしまったのは勿体ない。
結局、フレッド・ジンネマンに戦争の恐ろしさを描くことは難しいのではないかと思えなくもないのですが、
正直、『ジュリア』は別格なんだよなぁ。あの映画を観てしまうと、映画の醍醐味を伝えるような作品になっているし、
本作とは別人が撮ったようにしか思えないくらい、変貌している。正直、『ジャッカルの日』よりも抜群に出来が良い。
ちなみに遺作となった82年の『氷壁の女』は未見ですが、概要を調べるに戦争から離れたメロドラマ調の作品のよう。
そういう意味では、僕の中ではフレッド・ジンネマンはなんだかよく分からない人という印象なんですよねぇ。
それにしても、一部隊の隊長が単にボクシングが好きだからという理由一つで、
ボクシングの成績が良い兵士は昇格するとか、あまりに意味不明なことをやっているというのが興味深い。
こういうことが現実にあったのかは分かりませんが、その事実を知って、この隊長が処分されるというのは当然だが、
第二次世界大戦下という時代にあっては、こういうことが隠ぺいされていても不思議ではなく、現代的な流れに思える。
まぁ、部隊の規律を重んじるからこその処分なのだろうけど、まるでコンプライアンスを重視する処分のようにも見える。
あくまで、本作は軍内部の腐敗体質を描いた作品であるせいか、政治的な解釈には一切踏み込みません。
第二次世界大戦を描いた作品ではありますが、歴史認識が問題にならない程度の内容であり、日本軍の攻撃は
描かれますが、戦闘シーンはあまり激しいものではなく平坦で、日本vsアメリカという構図を映画に持ち込みません。
まぁ、この戦闘シーンが平坦で物足りないのはどうかとは思いますけど、
歴史認識を持ち込まなかったのは、これはこれで賢明な判断だったのでしょうね。余計なことを考えずに済みます。
当たり障りのない描写であることに文句を言う人もいるでしょうけど、フレッド・ジンネマンの主旨は違うのでしょうから。
モンゴメリー・クリフト演じる元ボクサーは、相手を怪我させてしまった過去から「もう二度とリングには上がらない」と
貫き通しますが、周囲は部隊長の想いもあってか、なんとかして彼をボクシングの世界に向けようと挑発します。
少し興味深いのは、この部隊、結構緩んだところがあるのか、下士官たちの上官への口のきき方が緩い(笑)。
同じ第二次世界大戦でも、こんな感覚がまかり通ったのは米軍ぐらいだろうし、これはこれで当時の米軍の余裕かも。
上官の言うことは絶対であって、誰も歯向かうことができない故に、一切の陰口・口答えも許さないとするような
厳しさというのは感じられなかったのですが、少なくとも本作で描かれる部隊がそこまで強い統率ではないのが面白い。
フレッド・ジンネマンは反体制的に反戦の思想が強かった人でもあったので、
敢えて軍内部を緩めに描いたのかもしれませんが、これが事実なのであれば、これはこれで先進的だったと思う。
イタリア系のマッジオがいたり、荒くれ者がいたりで当時から多様性を尊重する組織だったということだったのでしょうか。
ただ、繰り返しになって恐縮ですが...僕はもっと戦争を真正面から描いた作品だと思っていただけに
この緊張感の無い雰囲気にどうしても馴染めず、軍曹と隊長の妻との不倫関係もしっかりと時間をかけて欲しかった。
(上映時間118分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 フレッド・ジンネマン
製作 バディ・アドラー
原作 ジェームズ・ジョーンズ
脚本 ダニエル・タラダッシュ
撮影 バーネット・ガフィ
音楽 モリス・W・ストロフ
ジョージ・ダニング
出演 バート・ランカスター
モンゴメリー・クリフト
デボラ・カー
フランク・シナトラ
ドナ・リード
アーネスト・ボーグナイン
フィリップ・オーバー
ジャック・ウォーデン
1953年度アカデミー作品賞 受賞
1953年度アカデミー主演男優賞(バート・ランカスター) ノミネート
1953年度アカデミー主演男優賞(モンゴメリー・クリフト) ノミネート
1953年度アカデミー主演女優賞(デボラ・カー) ノミネート
1953年度アカデミー助演男優賞(フランク・シナトラ) 受賞
1953年度アカデミー助演女優賞(ドナ・リード) 受賞
1953年度アカデミー監督賞(フレッド・ジンネマン) 受賞
1953年度アカデミー脚色賞(ダニエル・タラダッシュ) 受賞
1953年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(バーネット・ガフィ) 受賞
1953年度アカデミー劇・喜劇映画音楽賞(モリス・W・ストロフ、ジョージ・ダニング) ノミネート
1953年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> ノミネート
1953年度アカデミー編集賞 受賞
1953年度アカデミー録音賞 受賞
1953年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1953年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(バート・ランカスター) 受賞
1953年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(フレッド・ジンネマン) 受賞
1953年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(フランク・シナトラ) 受賞
1953年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(フレッド・ジンネマン) 受賞