フロム・ヘル(2001年アメリカ)

From Hell

1888年にロンドンを震撼させた、“切り裂きジャックによる連続殺人事件”を
当時、ハリウッドで再び人気を博しつつあったジョニー・デップ主演で映画化したオカルト・ホラー。

まぁ、少々、血生臭い映像表現があるせいか、
日本ではレイティングの対象となってしまいましたが、全米ではそこそこヒットしていたと記憶しており、
僕も観る前には、それなりに期待していた作品だったのですが、悪い意味で中途半端な映画ですね。

監督は本作で初めて規模の大きな映画を担当したアルバート&アレン・ヒューズ兄弟で、
独特な映像表現には、ある一定のこだわりを感じさせるあたりは悪くないのですが、
どうも映画自体が盛り上がらないというか、何をどう撮りたかったのか、観ていて伝わってこない。

正直言って、企画の面白さに“おんぶに抱っこ状態”ですかね。
撮影現場がどんな感じだったのかまでは分かりませんが、思いつきで撮ったシーンが連続してる印象です。

早い話しは、映画全体を通しての流れが弱く、キチッとした設計を感じないんですね。
どこか行き当たりばったりな感が拭えず、今一つ作り手の意図が伝わってこない映画になってしまっている。

原作はアラン・ムーアのグラフィック・ノベルということで、
おそらく全米では有名だったはずなのですが、失礼ならがも僕はこの映画を観ていて、
ずっと「原作読んだ方が面白そうだなぁ」と思っていた。観客にこう思わせてしまっては、ダメなんですね。

せっかくヒロインに起用したヘザー・グレアムも人気絶頂期だったのですが、
どことなく中途半端な扱いで、個人的にはもっと彼女のセクシーな魅力を活かして欲しかったし、
主演のジョニー・デップとの絡みも多くはなく、なんだか勿体ない使い方だなぁと思えてなりません。

個人的にもっと残念だったのは、この映画の基本になるべきはずのミステリーの部分で、
せっかく“切り裂きジャックによる連続殺人事件”をモデルにしているのだから、
主人公が事件の真相に近づいていく様子を楽しんでいく映画にならなければならないのに、
映画の終盤で明かされる真実が、主人公が近づいていったというより、勝手に事件の真相が明るみに
なってしまうというイメージで進んでしまい、ミステリーの面白さの欠片も感じられないのはいただけない。

挙句の果てには、フリーメイソンの話しに飛躍してしまうのには、思わず笑ってしまった。
ロボトミーみたいなことさせられて、廃人化した芝居をさせられたイアン・ホルムが可哀想だ。。。

そして事件の真相にしても、犯人の動機が分かるようで、全然よく分からないんですよね・・・。
「ホントにそんな理由で連続殺人に及んだの?」とスクリーンに向かって聞きたくなってしまうぐらい、
あまりに納得性に欠ける結びになっていて、シナリオの段階からやり直したくなってしまいますね。

おそらくヒューズ兄弟は、こういうコミックを原作にした映画を撮ることが好きなんでしょうけど、
一つ一つのシーン演出には、それなりに可能性を感じさせます。決して破綻しているわけではないし、
思いつきの中にも、それなりに良いものもある。それを考えれば、決して簡単に見捨てられない映画なんですね。
個人的には兄弟で共同監督するのではなく、個別に創作活動を展開した方が良いような気がしますが・・・。

視覚的にグロい映像もあるにはありますが、
この映画の映像表現を問題視していたら、他にもっとグロい映画はいっぱいありますね。
個人的には上手く、グロテスクな描写を回避していたように思いますねぇ。
どうしても避けられないシーンでは、グロい映像表現を施していたようで、上手く使い分けていますね。
ただ、個人的には首を切り裂くシーンで、あまり上手くないCGを使っていたのには閉口しましたね。
この程度のCGしか使えないのであれば、直接的な描写は避ければ良かったのに・・・とは思いますが。

この映画では、娼婦が切り裂き犯のターゲットになるせいか、
夜のシーンが基本となっていますが、おそらくセット撮影と思われる中、雰囲気作りは良い。

この手の映画に好んで出演しているようにすら見える、ジョニー・デップにしても、
例えば『スリーピー・ホロウ』なんかとは、明らかにカラーを変えて芝居してきており、
他作品と差別化を図ろうとする意図が感じられるのは悪くないし、アヘン中毒という設定も悪くない。

欲を言えば、もう少しヘザー・グレアム演じるヒロインとのロマンスをしっかり描いておけば、
クライマックスでの切なさも増したでしょうし、ヘザー・グレアムももっと活きたでしょうね。
この辺は作り手の映画を撮る上でのバランス感覚に拠る部分が大きいのですが、
本来的には主人公とヒロインのロマンスは、この映画の大きなキー・ポイントだったと思うんですよね。

と言うのも、主人公がヒロインに恋心を抱かなければ、
そもそも事件の解決を図れなかったということ。その原動力はアヘンの魔力だったのか、
彼が見た夢であるということを考慮すると、もっとヘザー・グレアムを大切に描かなければならなかったのです。

この辺は着想点の面白さに溺れずに、
映画の全体を考えて、しっかりと映画を作り込めたか否かで、ケアできるかどうかが決まってきますね。
やっぱりしっかりしたディレクターが撮っていれば、こういう問題って、たいていはクリアしてくるもんです。

この映画を観た率直な感想としては、
フリーメイソンの関与に触れずに、主人公とヒロインのロマンスをもっとしっかり描いていれば、
この映画の出来は格段に良くなった気がするし、ラストの味わいも深まったと思いますねぇ。
そういう意味で、この映画は修正すべき点が、実にハッキリしていると思います。

19世紀末のロンドンの風俗にはそこまで詳しくないのでアレですが...
この映画で描かれる娼婦は、路上で客引きを行って、ヤクザな連中にショ場代を集られたりして、
客を路地裏に連れ込んだりしていますが、当時は実際にこうだったんでしょうかねぇ?

ロンドンは寒い街と聞いてますから、昔は大変だったんだなぁ・・・と
変に感心させられちゃいましたわ(笑)。でも、これって...そんなことを言いたい映画じゃないですよね。。。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−15]

監督 アルバート・ヒューズ
    アレン・ヒューズ
製作 ジェーン・ハムシャー
    ドン・マーフィ
脚本 テリー・ヘイズ
    ラファエル・イグレシアス
撮影 ピーター・デミング
音楽 トレバー・ジョーンズ
出演 ジョニー・デップ
    ヘザー・グレアム
    イアン・ホルム
    ジェイソン・フレミング
    ロビー・コルトレーン
    スーザン・リンチ
    カトリン・カートリッジ
    レスリー・シャープ
    テレンス・ハーベイ
    イアン・リチャードソン