フライド・グリーン・トマト(1991年アメリカ)

Fried Green Tomatoes

あまり有名な映画ではありませんが...
これはひじょうに丁寧に作られ、良く出来たヒューマン・ドラマです。

映画は回想形式で語られる、イジーとルースという2人の女性の友情を描いているのですが、
実に巧みなストーリーテリングであり、2人の友情も繊細かつ丁寧に描かれ、実に感動的である。

監督は『レッド・コーナー/北京のふたり』のジョン・アブネットで、
おそらく本作は彼が今まで撮った映画の中では、最も良い出来と言っていいだろう。
ベタな意見ではありますが、メインとして登場してくるキャシー・ベイツ、ジェシカ・タンディ、
メアリー・スチュアート・マスターソン、メアリー=ルイーズ・パーカーの4人がとても良い、見事なアンサンブルだ。

特に彼女たちの表情、一つ一つが良い。こういうショットを逃さず収められたのは、大きいと思う。

ジェシカ・タンディは89年の『ドライビング Miss デイジー』で80歳という年齢で、
史上最年長のアカデミー主演女優賞を獲得して話題となり、更に本作でもノミネートされる好演で、
確かに主演女優4人の中では、最も存在感のある芝居を見せていたように思いますね。

女性映画とは言え、フェミニズムの傾向が強い映画というわけではなく、
人種差別問題をバランス良く取り入れながら、強く生きていこうとする女性4人を描いています。

その中でも特に僕が印象に残っているのは、
ジェシカ・タンディ演じる老人ホームにいる老婆が自らの子供を失ったことを告白するシーンで、
「あの子との天国での再会が楽しみだわ!」と薄っすらと涙を浮かべながら、笑顔で叫びます。
年齢が40代になってからの子供で、幼児のときに障害を抱えていることが分かり、
家で共に暮らしながらも、30歳を目の前にして短い生涯を閉じてしまいます。

その痛み、悲しみはホントに痛いほどよく分かるのですが、
彼女の考えでは、それを悲観することに明け暮れず、前向きに考えようとする。
決して死に急ぐようなマネもしないのですが、そんな彼女の明るさが感動的ですらある。

強いて言えば、回想シーンが圧倒的なほどに素晴らしくて、
キャシー・ベイツ演じる更年期の夫婦の苦悩は必要ないような気もするのですが(苦笑)、
それでも老人ホームでの老婆の話しを引き出すインタビュアーとしては、上手く機能している。

ただ、勿体ないと思えてならないのは、
どうせなら彼女のエピソードももっとシリアスに描いた方が良かったように思えること。
特にスーパーでの駐車場のエピソードなどは、どうしても描かなければならないこととは思えない。
もっと言えば、もっと違う表現で彼女の精神的な救済を描いて欲しかったですね。

まぁ元々のファニー・フラッグの原作は随分と同性愛に強く言及していたそうで、
映画ではほとんど同性愛的なニュアンスを回避しているのが、彼女にとっては不満だったそう。

でも、僕はこれで良かったと思うんだよなぁ。
やっぱりこれでフェミニズムの傾向が強くなったり、同性愛をテーマとして織り込むと、
映画が全体的に詰め込み過ぎな内容に陥ってしまった気がするんですよね。
ただでさえ、本作はビッグ・ジョージたちを通して、人種差別をテーマとして扱っているのですから。

ちなみにタイトルの“フライド・グリーン・トマト”とは、タイトル通り、
熟れ切っていない青いトマトに衣を付けて、油でカリカリに揚げるというアメリカ南部の名物料理。
正直言って、お世辞にも美味しそうとは思えないのですが(笑)、しっかり映画の途中で出てきます。

実際にモデルとなったカフェは経営者が変わった今でも現存しているらしく、
その店では未だ“フライド・グリーン・トマト”がメニューに載っているそうです。

そんな実話としての強さだけでなく、この映画は何よりも前向きに生きようとする
女性たちの強さが映画の根底を支えているようで、観るだけで元気になれる作品でもあります。
そういうエネルギーをフィルムに吹き込めているというのは、やっぱり映画の強みであり、大きな価値ですね。
これが実現できたからこそ、僕はこの原作を映画化した意義があったと思いますね。これは価値ある仕事です。

ジョン・アブネットも劇場用映画としては、本作が初監督だったとのことで、これは大健闘だ。
映画の視点としても偏りが無く、全体的なバランスがひじょうに良く、ストーリーテリングも極めて秀逸。
そうなだけに、本作の後に続く良い出来の映画が撮れなかったのが残念ですね。
後に撮ったどの作品もあくまで現時点では、本作を超えることができていないように思います。

近所にある、線路での出来事も都合2回登場しますが、いずれも上手い。
特に2回目はチョット現実的とは言い難いが、かなり予想外の展開となっていて妙に新鮮でした。

全米ではかなり評判の良かった作品だったのですが、
いかんせん日本で興業的に検討する要素は無かった企画だったのも残念ですね。
故に本作は日本でも拡大公開されましたが、ほとんど話題にならずに、アッサリ劇場公開が終わったとか。

DVD化もかなり立ち遅れていた一本でもありますし、早くも廃盤みたいです(涙)。
僕は一人の映画ファンとして、心底思うのですが...こういう映画をホントに大切にして欲しい。

勿論、派手な話題性があって、エンターテイメントの醍醐味を味わえる映画も良いんだけどね。。。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・アブネット
製作 ジョン・アブネット
    ジョーダン・カーター
原作 ファニー・フラッグ
脚本 ファニー・フラッグ
    キャロル・ソビエスキー
撮影 ジェフリー・シンプソン
音楽 トーマス・ニューマン
出演 メアリー・スチュアート・マスターソン
    メアリー=ルイーズ・パーカー
    キャシー・ベイツ
    ジェシカ・タンディ
    クリス・オドネル
    ゲイラード・サーティーン
    シシリー・タイソン
    スタン・ショウ
    ティム・スコット

1991年度アカデミー助演女優賞(ジェシカ・タンディ) ノミネート
1991年度アカデミー脚色賞(ファニー・フラッグ、キャロル・ソビエスキー) ノミネート