オーロラの彼方へ(2000年アメリカ)

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まぁ・・・あっち行ったり、こっち行ったり忙しい映画だが(笑)、
総体としては、なかなか良く出来ており、しっかり楽しませてくれる上質な映画と言っていいかな。

1999年のニューヨーク、クイーンズ地区で生まれ育った刑事ジョンがこの映画の主人公。
30年前に、とある倉庫で発生した火災の消火活動の中で、殉職してしまった消防士の父フランクの
命日が近づくにつれて、精神的に落ち込んでいくジョンは、ガールフレンドとの生活も上手くいかない。

そんな中、偶然、発見した父フランクが愛用していた無線機を発見し、
久しぶりに無免許ながらも、交信を試みたジョンはどこか聞き覚えのある声と交信する。

詳しく話すと、その交信相手がなんと30年前に殉職する直前だった父フランクであることを知り、
なんとかしてフランクが死なないように情報を提供するにつれ、ジョンの身の周りが変化していく・・・。

映画はタイム・パラドックスを強く意識した部分があり、
細部にわたって整合性を取ろうと、色々と苦慮した痕跡がうかがえる。
監督のグレゴリー・ホブリットの手腕は高く、おそらく本作が現時点での最高作だろう。

基本は、親子愛を中心に据えて“ナイチンゲール連続殺人事件”の解決を図るという、
ある意味ではバディ・ムービーとしての側面を持っているのですが、先述したSF映画としての表情もあります。
それでいながら、映画の後半では一気にサスペンスフルになるということから、多くの表情を持っていますね。
個人的にはあっち行ったり、こっち行ったり、節操の無い映画と表裏一体の側面を持っているように感じますが、
この映画は“節操の無い映画”とはギリギリのところで一線を画すことに成功したと言っていいと思いますね。

映画に上手く緩急が付いているせいか、
映画の前半は主にドラマ性を重視しながら構成し、後半はSFとサスペンスを押し出します。
(まぁ・・・普通は前半がSFとサスペンス、後半はドラマという配分にすると思うのだが...)

映画のボリューム的にも丁度良く、ホントに本作でのグレゴリー・ホブリットは
映画のバランスを上手く取りながら、実に巧みに構成できていたと思いますね。

実際、この映画はキャスティングはそこまで豪華だったとは言えないし、
規模の大きな映画ではなかったにも関わらず、全米で口コミで評判が広がり、そこそこヒット。
日本でも全米でのヒットを受けて拡大公開されるなど、着実に扱いを大きくしていった作品であり、
映画の出来そのものから言っても、多くの方々から高く評価してもらったことは、ホントに良かったと思いますね。

映画の後半で描かれる、サスペンス劇にあっては、
映画の前半と比べると、少々、強引な語り口のようにも感じられますが、
30年前から続く未解決連続殺人事件の真相に、時空を超えて近づいていくという設定が面白い。

これは今まで、ありそうで無かったタイプの映画であり、
多少、強引な部分が見え隠れしているとは言え、よく練られたシナリオだったと言ってもいい。
また、シナリオの良さに依存せず、しっかりとシーン演出を施したグレゴリー・ホブリットの手腕も素晴らしいと思う。

しかし、映画の世界とはかけ離れて、あくまで道義的な側面から語りますが...
よくあるタイム・パラドックスを扱った宿命として避けては通れない、“未来を変える”というキーワードがある。

この映画では30年前に殉職してしまった父が、事故死を避けるために助言を与えて、
父が殉職しないという設定に変えるということに喜びを覚え、今度は10年前に肺癌で死んだことを知ると、
タバコを止めるように助言したりと、主人公は一つの課題をクリアすると、更に欲を出すようになっていきます。
その典型が、本来、犠牲になることはなかったはずである、母親が“ナイチンゲール連続殺人事件”の被害者に
なってしまうという“過去の変更”で表現されるのですが、それもまた、主人公は変えようとします。

心情的には、その気持ちはよく分かるのだが...
この映画のラストシーンのあり方には、チョットした違和感を感じずにはいられませんでしたね。
ひょっとしたら、これが無ければ、僕の中では本作は満点の映画と言えたのかもしれません。

肉親との接点として、大きなテーマだとは思うのですが、
「過去の記憶を大切にするのか?」、それとも「今、生きていることを大切にするのか?」ということだと思う。

この映画の主人公であるジョンは、後者を選択しただけの話しなのですが、
やはり幼い頃に父親を失ったということを引きずり続けて、36歳まで生きてきたジョンにとっては、
父親との記憶よりも、「もう一度、生きている父に会いたい」という気持ちを優先せざるをえなかったのでしょう。
ただ、僕なんかは、例え亡くなった父が生きている状態で会えたとしても、過去の記憶が無ければ、
離れ離れになっていた父との再会という感じに変わるし、「ホントにこれでいいのだろうか?」と思っちゃう。

しかしながら、それらは決して映画の価値を大きく損ねるものではない。
やはり、それは本作の作り手が映画の基本を疎かにせず、しっかりと丁寧に作り込めたからでしょう。

個人的にはワールド・シリーズの結果をフランクが知って、
自身の無実を晴らすために、事細かに友人の警察官に予言するシーンが興味深い。
まぁ・・・野球賭博なんかに悪用されそうなことではあり、野球ファンとして楽しみを削ぐ気もしますが、
一方で野球ファンであるがゆえに、未来の息子から先のワールド・シリーズの内容を聞きたくなる気持ちは、
よく分かるし、それが親子の会話として成立するということが、如何にもアメリカらしいシーンでニヤリとさせられる。

当然、日本には日本なりの親子像というものはあるのだが、
本作で描かれたような親子愛を見ると、言葉では表現し難いアメリカ特有の感覚にも憧れますね。
勿論、家庭により差があるのは万国共通だろうが、アメリカの懐の深さを見せつけられている気になります。

そういう意味では、日本でも日本流の親子愛を描いた映画って、もっともっと増えてもいいと思うんですよね。

実際に涙を流して泣ける映画かと聞かれれば、正直言って、それは微妙なところですが、
いわゆるハートウォーミングな映画として、多くの方々にオススメできる作品と言えます。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 グレゴリー・ホブリット
製作 ビル・カラッロ
    トビー・エメリッヒ
    グレゴリー・ホブリット
    ホーク・コッチ
脚本 トビー・エメリッヒ
撮影 アラー・キヴィロ
編集 デビッド・ローゼンブルーム
音楽 マイケル・ケイメン
出演 デニス・クエイド
    ジム・カビーゼル
    ショーン・ドイル
    エリザベス・ミッチェル
    アンドレ・ブラウアー
    ノア・エメリッヒ
    メリッサ・エリコ
    ダニエル・ヘンソン