フレンチ・キス(1995年アメリカ)

French Kiss

信頼と安心のメグ・ライアンのラブコメなんで、想像通りの内容の映画なわけですが...
これはシナリオを差し置いても、あまりに単調な内容で魅力に欠ける。もっと面白く出来たはずなのに・・・という感じ。

どこか胡散クサいフランス人役としてケビン・クラインというのは、なかなか良いキャスティングなんだけど、
さすがにメグ・ライアンの相手役というのは、当時でも無理があった。お友達のローレンス・カスダンの監督作品だから、
ケビン・クラインも出演したのでしょうけど、正直言って、ロマンチック・コメディのカップル役として年をとり過ぎていたなぁ。

そもそもの話しですが...ヒロインのフィアンセとして出演していた、
ティモシー・ハットン演じる医師のチャーリーにしても、まるで自分勝手な理屈をつけて出張先のパリで
現地の美女と恋に落ちたからと言って、一方的にヒロインのケイトに電話で別れを告げること自体、ありえないでしょ。

映画のスタートがこんな調子なせいか、どうにも映画のエンジンが一向にかからないまま進んでしまう。
ストーリーが今一つなら演出面で・・・とも思いましたが、ローレンス・カスダンの演出も工夫が感じられず、
映画全体で俯瞰して見ても、恋愛映画に必要不可欠な起伏が無く、ほぼ一本調子で最後までいってしまうのです。

まぁ、メグ・ライアン演じるケイトもあまり魅力的な女性として描かれていない気がして、これも致命的。
メグ・ライアンが出演するラブコメならヒット確実!とされていた時期だったので、このキャスティングで安心したのかも
しれませんが、それにしても全体に工夫の感じられない作りで、映画があまり評価されなかった理由がよく分かる。

前述したように、ケビン・クラインも胡散クサいフランス人に扮していて、ピッタリな役柄ではありました。
そこに当時は“ラブコメの女王”と呼ばれたメグ・ライアンとのロマンスなので、正直、彼らの見た目の年齢差は否めず、
それでも敢えて恋に落ちるという、ラブコメの定石を踏むとなれば、それ相応の説得力が必要だったと思います。
何か2人に決定的なマジックが起こったかのような仕掛けが欲しかったし、そうでなければ到底ロマンスには
発展しなさそうな不釣り合い具合なので、そのギャップを乗り越えるくらいの仕掛けがないと映画が磨かれないですね。

かつて命を救ったという理由で、ケビン・クライン演じるリュックに恩義を感じている刑事役で
ジャン・レノが出演しているのですが、彼は実質的にチョイ役のような扱いで、なんだか中途半端でしたね。
この刑事も映画全体に対して、どのような役割を果たさせたいのかハッキリしないキャラクターで、なんだか勿体ない。

少々乱暴な意見かもしれませんが、ジャン・レノでなくとも十分に演じられそうな感じでしたね。

もっとインパクトを残すサブキャラクターであって欲しかったのですが、特に見せ場がなく映画が終わってしまう。
リュックに諦めるように諭すようケイトに促す役という程度では、リュックと旧知の仲である詐欺師を演じた、
フランソワ・クリュゼの方が存在感ありましたものね。個人的にはこの2人は逆の配役でも良かったと思ったのですが。

フランスはワイン造りが有名ですから、リュックのように良い苗を持って、ブドウ畑をやりたいという人は多いだろう。
ただ、今は日本で言えば種苗法で知的財産として、種苗を国外へ持ち出したり、外来種を日本へ持ち込むことは
厳しく規制されている。リュックがカナダから申告せずにフランスへ苗を持ち込みますが、違法の可能性が高いです。
麻薬の密輸と誤解される恐れもあり、極めて危険な行為で、ケイトが利用されたのであれば、普通は激怒するでしょ。

だからこそ尚更、ケイトとリュックがお互いに距離を縮めるには、相当な仕掛けが必要なんですよね。
普通なら、まず2人は恋に落ちないですよね。例え、リュックがどんなにステキなイケオジだったとしても・・・。

まぁ、映画では大都市パリから長距離列車でリュックの故郷である田舎の田園地帯へ移動し、
最後はコートダジュールと思われる、セレブリティな空気感が漂うリゾート地へとロケーションを移していくので、
フランスをヴィジュアル的に堪能する上では、十分に楽しめる作品だと思う。フランスが好きな人には、オススメです。

まぁ、何と言ってもメグ・ライアンのキュートさに尽きるでしょうね。
この頃のメグ・ライアンはホントに勢いにノッていた感じで、ジュリア・ロバーツと双璧の存在でしたが、
あくまで“ラブコメの女王”というカテゴリーで見たら、メグ・ライアンが一歩上を行っていたような気がします。
そういう意味では、90年代半ばはメグ・ライアンの全盛期と言っていい時期で、出演作品はほとんどヒットしました。

ただ、00年代に入ると一気に勢いを失ってしまったようで、
『プルーフ・オブ・ライフ』で共演したラッセル・クロウとのスキャンダルの影響もあってか、
“ラブコメの女王”としてのポジションを失い、ハリウッドでも一線から退いてしまったという印象があります。
その一方で、ジュリア・ロバーツは上手く年齢を重ねて、女優として生き残っているので、差がついてしまったのですね。

ジュリア・ロバーツは若い頃からラブコメだけではなく、シリアスなドラマ系の作品やサスペンスなど、
いろんなジャンルの映画に出演していたので、幅は広かったですからね。徐々に実力を付けていった感じでしたね。

本作では監督のローレンス・カスダンなりに撮りたかったヴィジョンは明確だったのかもしれませんが、
結果としてそれが観客に伝わらず、キャスティングとロケーションの良さ、メグ・ライアンのファッションばかりが
先行する映画という印象に終わってしまう。これだけの“素材”が揃った作品なだけに、この結果は実に勿体ない。

ラブコメのノウハウをキチッと持ったディレクターが撮っていれば、もっと面白い映画になったでしょうが、
やっぱりローレンス・カスダンはもう少し違うタイプの映画で、その実力を発揮するタイプのディレクターですね。
正直、この手の映画も何本か撮ってはいますが、僕はあんまり彼に合っていないような気がするんですよね・・・。

前述したように、ヒロインのケイトが魅力的に描かれていないように見えるのが気になるのですが、
彼女のフィアンセであってフランスに出張している最中に、現地人の女性と恋に落ちて駆け落ちする
医師のチャーリーにしても、まったく身勝手な理由で駆け落ちしているようで、どこに魅力があるのかよく分からない。

そんなチャーリーを追って、苦手な飛行機に搭乗してまでパリにやって来るケイトなわけですが、
確かにあまりに一方的に別れを宣告されるなんて、そうそう納得できる事態ではないので、
現地に乗り込む気持ちは分からなくはないのだけど、ならばチャーリーを魅力的なキャラクターとして描いて欲しい。
チャーリーが簡単に諦め切れるわけではない・・・というほど、魅力ある男なら納得できるのですがねぇ。。。

いや、でも...冗談抜きで飛行機恐怖症って、大変な症状を抱えているわけで、
それをも乗り越えるというコメディ性が成立するとすれば、ケイトがとてもチャーリーを愛していて、
そのチャーリーもスゴく魅力ある人物であるということを、誰もが納得するくらいのキャラクターじゃないとキツいと思う。

いくらチャーリーに嫉妬させる作戦を敢行したからとは言え、あそこまで簡単にチャーリーがなびいてしまっては
コメディ映画としても面白くないし、どうせならケイトとチャーリーの浮気相手の女性が対決するくらいの勢いが欲しい。
そう、どこか本作はキレイに定型の枠に収めて、キレイにオシャレに撮ろうとし過ぎた印象が残るのですよね。

とまぁ、色々とヒット作となる要素があった作品だったのですが、この内容では実に勿体ないですね。
ローレンス・カスダンも決して悪い腕のディレクターではないのですが、正直、別な人のメガホンで観たかったなぁ。

映画のテンポも今一つで、上映時間も余計に長く感じられるくらい冗長なので、全体構成も上手くいっていないと思う。
特に前半がモタモタしている印象で、どうにもなかなか映画のエンジンがかからず、終盤になって少々持ち直す。
リュックの故郷を訪れるエピソードあたりから、なんとか持ち直すが、僕の中ではここまでが冗長に感じられましたね。
個人的にはもっとパリの魅力を映して欲しかったのですが、どうにも旅気分が高揚させられない物足りなさですね。

結局、チャーリーが浮気したのも、リュックみたいな男が現れるのも、パリという街が持つ“魔力”なはずなのに、
どうにも物語の舞台となるはずのパリというロケーションが生かされず、気分が高揚しないのであれば意味がない。

単にパリを舞台にしたラブコメなら数多くあるし、個人的にはハリウッド資本の映画だからできる、
スケールの大きさというのを見せて欲しかったなぁ。移動しながら展開していく映画の割りに、そのスケール感が弱い。
全体的に小じんまりとしてしまったのは勿体なく、小じんまりとさせるなら舞台はパリに執着しても良かったかな。

まぁ・・・全盛期のメグ・ライアンのファンという人には、ドンピシャな作品なのかもしれませんが・・・。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ローレンス・カスダン
製作 ティム・ビーバン
   エリック・フェルナー
   メグ・ライアン
   キャスリン・F・ギャラン
脚本 アダム・ブルックス
撮影 オーウェン・ロイズマン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 メグ・ライアン
   ケビン・クライン
   ティモシー・ハットン
   ジャン・レノ
   フランソワ・クリュゼ
   スーザン・アンベー