フレンチ・コネクション2(1975年アメリカ)

French Connection U

これはとても良く出来た、お手本のような続編ではありますが...
71年の第1作が僕の中では、“生涯No.1映画”と思っているだけに、これがどこか番外編と思ってしまいます。

そもそも、当時、新進気鋭のウィリアム・フリードキンが撮った第1作と、
アクション映画という枠組みでは職人肌な監督であったジョン・フランケンハイマーが本作を監督しているので、
映画の毛色としては明かに異なるもので、こう言っては悪いけど、それは第1作にあったカリスマ性は無い。

本作自体を神懸ったウィリアム・フリードキンが撮った第1作とまともに比較することが、
間違いというか、ジョン・フランケンハイマーにはあまりに酷過ぎる比較としか思えないのだ。

映画はあくまで前作からの続きの後日談を描いていて、
麻薬王シャルニエをニューヨークで取り逃がし、退職を迫られた“ポパイ”ことドイルは、
何故か復職した設定となり、ニューヨーク市警の提案でドイルをマルセイユへ単身出張させ、
シャルニエの内偵が上手く進まないマルセイユ市警に対して、囮捜査を展開させるべく、奮闘する姿を描きます。

現地警察のバルテルミー警部と合流して、現地で潜入調査をしますが、
常に2名の監視がいて、自由に動き回れないことに嫌気がさしたドイルは何とかして監視をかわして、
行動しようとした矢先、ドイルがマルセイユに入ったことに気付いたシャルニエの手下に襲われ、
暗がりの安ホテルで監禁され、警察の内情を吐かせるためにドイルに強制的にヘロインを注射し、
ドイルを麻薬中毒にすることで心身共にボロボロになり、ドイルはあわや命を落としそうになってしまいます。

本作ではジョン・フランケンハイマーの職人気質な部分というよりも、
エンターテイメント性に徹したという感じで、ウィリアム・フリードキンの第1作のようなストイックさはありません。

ジーン・ハックマンが大熱演する、ヘロイン中毒の禁断症状も生々しく恐ろしいが、
相変わらずヨーロッパの紳士という感じでサラリと演じる、フェルナンド・レイ演じるシャルニエはハマリ役だし、
全体的に前作よりも派手な演出が目立ち、映画の方向性としては本作の方が大衆受けするでしょう。

前作はほぼニューヨークを舞台にした内容でしたが、
本作は最初っから最後まで、全編マルセイユでロケ撮影した内容となり、ドイルの傍若無人な捜査スタイルよりも
英語しか喋れない頑固一徹なドイルが、異国の地ので孤軍奮闘する姿にスポットライトを当てています。

そのせいか、「ハンバーグをくれよ。肉汁たっぷりのやつ!」とか、
給仕されたサンドイッチのダメ出しして、「またこれかよ...」と嘆き、「マヨネーズだよ、マヨネーズ」と
口の動きを見て分かれ!と言わんばかりに、現地警察の署員たちに好みの食べ物を提供せよと
ゴネまくるという、ある意味で第1作よりも遥かに人間臭いドイルが描かれるというのも、なんとも興味深い。

でも、僕の中ではここがチョット引っかかる(笑)。
個人的には別にドイルは人間臭いキャラクターである必要があると思ってなくって、
前作のようにまるで野良犬のように本能に身を任せて、勘だけ捜査する姿を衝動性をもって描くという
作り手のスタンスと、少しドイルを突き放したような視点からドミュメンタリー・タッチで描いたのが良かったのですが、
本作はドイルを人間臭く描くことによって、ドイルの野生の勘のような感覚が希薄になってしまいましたね。

それから、確かに一見すると、本作はドイルが走るシーンが多く、
前作のように度肝を抜くようなカー・チェイスが無かったり、長々と続く尾行シーンがないため、
肉体を酷使するドイルが映っている気もしますが、よくよく観ると、さすがにドイルが麻薬中毒になったせいか、
走って追跡するにも、すぐに腕をついてしまうくらい、体力が落ちているという芝居をさせています。

勿論、撮影当時のジーン・ハックマンも45歳近かったはずですし、
麻薬中毒から離脱する途中という設定ですから、体力がそうとう落ちていて当然だ。
ドイル自身もそれ分かっていて、マルセイユの街を歩いて記憶を取り戻すわけで、それに堂々と時間を割いている。

これはクライマックスのシャルニエを追い、港の端から端へと走り回るドイルの吐息と、
どこかフラフラと走るような不安定なカメラが、ドイルの疲弊を表現する工夫を感じさせます。

そういう意味では、ジョン・フランケンハイマーなりに気を配った展開にしたのではないかと思います。

映画は約2時間ありますが、映画の後半に入って、監禁されていたホテルに
ドイルが灯油をまいて火をつけるシーンあたりから、ド派手な演出に移っていき、クライマックスのヘロインを
リパックする工場にドイルら、マルセイユ警察が突入するシーンでアクション・シーンを凝縮させて描きます。

そこからつながる、印象的なラストシーンは映画史に残る名シーンだ。
前作の終わり方を踏襲して、本作も随分と唐突に終わる。突然なエンド・クレジットでビックリするくらいだ。
しかし、港を走り回って、船で逃げるシャルニエを仕留めようと銃を構えるドイルは、最高に絵になっている。
ウィリアム・フリードキンがハッキリと描かなかったことを、ジョン・フランケンハイマーはハッキリと描いています。

この映画、ドイルの実質的相棒となるマルセイユ警察のバルテルミー警部が登場するのですが、
個人的には第1作の名相棒クラウディを演じたロイ・シャイダーが良過ぎただけに、本作でバルテルミーを演じた、
フランス人俳優ベルナール・フレッソンが不憫に見えた。いやはや、どうしても見劣りすることは否めない。

それは、何を意味していたかって、バルテルミーは常にドイルを見張る役割なわけで、
言えば、ドイルよりも警察内部としては優位な立場にあり、ドイルの上司でもある。
そんなバルテルミーと共にドイルが行動するという設定自体が、どうしても無理があったと思う。
僕はマルセイユ警察からも、もう少し若くドイルと共感性のあるキャラクターを相棒に立てるべきだったと思う。

この描き方では、反目し合いながら協力するというよりも、「目の上のたんこぶ」としか思えません。

まぁ・・・個人的には思い入れの強い前作であっただけに、
その続編ともなれば、必要以上に粗探しをしてしまいがちなのですが、それでもお手本のような続編映画だと思う。
この難しい企画に見事、ジョン・フランケンハイマーは自分の仕事をして、周囲の期待に応えたと思います。

ジーン・ハックマンをトコトン追い込んで芝居させるというスタンスは、まんま前作と一緒だし(笑)、
体を張るジーン・ハックマンに対して、まるで答えが分かっているように、そそくさと静かに逃げて姿を消すシャルニエ。
そんな対照的な二人の“追いかけっこ”に終止符を打つべく、実に見事なエンターテイメントに仕上げています。

それにしても...亡き小池 朝雄の日本語吹替版が相変わらずの傑作で、
この台詞の中で、バルテルミーと最初に出会うシーンで、警察庁舎内部のトイレでの会話が印象的だ。
「アンタ、何人殺したんだ?」とドイルに質問し、書類を見て、「5人。5人だよ?」とバルテルミーに言われ、
ドイルは「アメリカのヤクは大抵ここから流れている。そのヤクで殺された人数と比べたら屁でもねぇ!」と
言い放つシーンが鮮烈だ。いくらハリウッドと言えば、今はこういう倫理観を持った主人公は立てられないだろう。

しかも、それが悪役ではなく、正義の象徴、刑事だというから尚更のことだ。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・フランケンハイマー
製作 ロバート・L・ローゼン
原作 ロバート・ディロン
   ローリー・ディロン
脚本 アレクサンダー・ジェイコブス
   ロバート・ディロン
   ローリー・ディロン
撮影 クロード・ルノワール
音楽 ドン・エリス
出演 ジーン・ハックマン
   フェルナンド・レイ
   ベルナール・フレッソン
   ジャン=ピエール・カスタルディ
   キャスリン・ネスビット