恋のためらい/フランキー&ジョニー(1991年アメリカ)

Frankie & Johnny

如何にも舞台劇のような映画ですが、さすがにゲイリー・マーシャル、上手く撮っています。

90年に『プリティ・ウーマン』が世界的大ヒットとなったゲイリー・マーシャルですが、
次に彼が選んだ企画は、オフ・ブロードウェイで上映された『月の光の中のフランキーとジョニー』を映画化することでした。

主演はベテラン俳優のアル・パチーノで、相手役は当時、ノリに乗っていたミシェル・ファイファー。
実はこおの2人、83年の『スカーフェイス』で共演しているのですが、あの映画はロマンスを描いたという感じではなく、
アル・パチーノがギャングとして暴れまくる、やりたい放題の映画だったので、落ち着いた大人の恋愛を表現するのは、
初めてでした。ミシェル・ファイファーは言うまでもなく、この頃は実力派女優として頭角を現わしていた頃の出演作だ。

料理の腕はピカイチで、2人の子供の父親だったのにセコい犯罪に手を染めて、
18ヵ月間の懲役刑を喰らっていたジョニーは、妻子に逃げられ、妻は再婚し郊外の邸宅で新たな生活をスタート。
出所しても誰も助けてはくれない現実にジョニーは、ニューヨークのカフェでコックとして働く職に就きます。

一方で、そのカフェで働くベテランのウェートレスのフランキーは、トンデモない男との恋愛の経験が
肉体的にも精神的にも傷として残り、3年間男性と交際することなく、一人で生きていくことを決意していた。
彼女の過去は、語りたくない触れられたくない“壁”があったので、その“壁”を壊そうとすると彼女は強く拒否します。

エルヴィス・プレスリーの映画のタイトルでもある Frankie & Johnny(フランキー and ジョニー)、
お互いの名前の結びつきに強い運命を感じたジョニーは、恋に乗り気ではないフランキーに猛アタックを開始します。

確かに冷静に見ると、やたらとストレートに一方的にフランキーに猛アタックしてくるジョニーはチョット怖いくらいだ(笑)。
でも、これがジョニーの流儀なのだろうし、自分の過ちで失ったものが大きい現実に、取り戻したいという気持ちが
強くあるからこそのアプローチだった気がしますし、女性の立場から見れば、その埋め合わせにフランキーを使うなという
意見も分かるのだけれども、フランキーも過去を乗り越えるためには、これくらい力強いアプローチがなければ、
彼女も次の一歩を踏み出すことにはならなかったでしょう。そういう意味でも、運命の出会い・タイミングだったのかも。

出所して、すぐに女性の温もりを求めるジョニーですが、街で娼婦に声をかけても、
カフェの同僚ウェートレスのコーラの部屋でイイ関係になっても、どこかジョニーの気持ちが満たされることはありません。
それはお互いに愛がないという虚無感があるからで、単なる性的な結びつきでは埋められないことを実感するわけです。

そこでフランキーという、どこか気になるウェートレスを見つけるわけですが、
どこか冷たい接し方をされるし、なかなか自分の話しを聞いてくれません。そこでジョニーは熱烈なアプローチを
開始するわけですが、その情熱的な表現にフランキーは戸惑いながらも、徐々に距離を縮めていく過程が上手い。
さすがはゲイリー・マーシャル、現実的にはありえない男女の恋愛であっても、サラリと描いてしまう要領の良さだ。

この頃はハリウッドでも、ラブコメ全盛期でしたが本作はコメディ色豊かというわけではありません。
ケイト・ネリガン演じるコーラが少しだけ、コメディ的な役回りを担ってはいますが、ドタバタした部分はありません。
あくまで映画は終始、落ち着いた大人な雰囲気を活かして、ウェルメイドな恋愛映画というフォーマットに収められる。

映画の中盤になる、花屋でのややスペクタクルな視覚的な広がりがあるキスシーンは、
少々“作り過ぎ”な感はありましたが、それでもこのシーンは本作のハイライトでしょうし、絵になるシーンでした。
こうして押しの一辺倒のジョニーであっても、それでも一筋縄にはいきません。フランキーの悲しい過去にも触れ、
お互いに埋めなければならない、抜け落ちたピースがあることに気づき、フランキーとジョニーはお互いに葛藤します。

2人の恋愛は決して綺麗な足跡を辿るわけではないし、理論的に納得いくものでもない。
不完全なものと言えばそうだが、恋愛なんて得てして、そんなもの。その不完全さこそが魅力なわけで、
2人はお互いにもたれ合いながら、ゆっくりとお互いの人間性を受け入れていく、このスピード感がなんとも大人(笑)。

これでお互いにツラい過去がない、隠したい過去がないというのなら話しはもっと簡単なのでしょうが、
人生、年月を重ねていると、さすがにそんな過去が一つや二つあるわけで、これは少し年をとった男女の恋愛ですね。

決してお互いに知らない関係でもなく、お互いに肉体関係すら持ったのに、
お互いの年齢をなかなか素直に言い合わないというのは、なんとも大人なジョークというか、ユニークですね。
これは映画のラストシーンまで引っ張るというのが、実にウィットに富んだ会話劇で、舞台劇的なところですね。
(どうやら、オフ・ブロードウェイではキャシー・ベイツとフランク・マーリー・エイブラハムが演じたらしいですね)

個人的には、この企画はゲイリー・マーシャルが監督に就いて、ホントに良かったのだと思いますね。
こういう映画はなかなか匙加減が難しく、映画のバランスをキチッととれる人がディレクターじゃないと、映画が崩れます。
そこにアル・パチーノとミシェル・ファイファーとは贅沢なキャスティングを実現したわけですから、失敗は許されません。
この土台を生かすとすれば、ゲイリー・マーシャルくらいの力量がなければ、なかなか上手くいかない仕事でしょう。

個人的には、もっとジョニーがコックとして働く姿を描いて欲しかったなぁ。
この映画の内容ならば、彼らが作る料理は良い意味でアクセントになったと思うんだけど、あまり目立たないのが残念。
まぁフランス料理とか、華やかなものではないかもしれない日常的な食事だろうけど、映画を彩るものにはなったはず。

もっと美味しそうに作っているシーンを目立たせてくれれば、きっと良いアクセントになったと思うんだけどなぁ。
ジョニーが腕のいいコックさんであるという設定なのだから尚更のこと、周囲から一目置かれる存在なわけですしね。
まいてや釈放時に、「またオムレツを作ってくれよ」と言われているわけで、それを映像として観たかったなぁ(笑)。

確かにカウンター越しに、キッチン側からアル・パチーノが、客席側からミシェル・ファイファーが
お互いに会話するシーンは絵になるし、フランキーが「そう簡単に諦めないで」と励ますシーンなんかは印象的だ。
だから、この映画の根底には常にこのカフェがあったはずで、料理のやり取りはとても大きなプロセスであったはずだ。

まぁ・・・ジョニーのアプローチの仕方は、90年代後半にはストーカーとして描かれていたでしょう。
良くも悪くも紙一重なアプローチですが、それくらいのアプローチがなければ心のバリアーを解くことができないくらい、
頑なに心を閉ざすフランキーの原因を作った、暴力男は実に罪深い。この内容については、映画の終盤に分かります。
そんな過去に囚われ、早く忘れたいという気持ちはあるものの、忘れられないからこそ、触れられたくない過去である。
そうこうしているうちに人間関係は悪くなってしまうし、彼女自身も心が疲れてしまう。良き理解者がいなければ、
彼女は生きていけないのです。そんなフランキーの私生活での良き理解者は、ゲイのルームメイトのティムでしょう。

『プリティ・ウーマン』では印書的な脇役として出演したヘクター・エリゾンドが、
本作ではカフェのオーナーを演じていますが、どちらかと言えば、ティムを演じたネーサン・レインの方が目立ったかも。
フランキーの恋愛を応援しながらも、心の傷をホントのところまで理解していて、押し一辺倒のジョニーを止めにかかる。

大都会ニューヨークを舞台にしながらも、『プリティ・ウーマン』のように華やかな恋愛を描いたわけではない。
アル・パチーノとミシェル・ファイファーという実力派俳優の2人が、ジックリと大人の恋愛を演じる極上の作品だ。
それでも、ネーサン・レインのようなサブキャラクターを大事に描いていることが、とっても嬉しいですね。

たださぁ・・・(笑)、自分もアル・パチーノ兄貴のファンなんで、気持ちは分かるけれども...
映画の冒頭でジョニーがカフェの面接を受けに来て、カフェのオーナーとレジの前で会話を交わすシーンで、
レジ係だった移民系の若い女の子に「コイツを雇った方がいいと思うか?」とオーナーが質問して、
その娘(コ)が「うん、イケメンだから」と笑顔で言わせるのですが、これはさすがに無理があるだろう(笑)。

彼女に無理矢理言わせた感じじゃないのが、逆に怖いシチュエーションに見えて仕方がない。

撮影当時もアル・パチーノ、既に50代でしたけど、そりゃティーンの女の子から「イケメンだ」と言われることは
あるだろうけど、この風貌のアル・パチーノを見て、「イケメンだ」はいくらなんでも無いでしょう(苦笑)。。。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ゲイリー・マーシャル
製作 ゲイリー・マーシャル
原作 テレンス・マクナリー
脚本 テレンス・マクナリー
撮影 ダンテ・スピノッティ
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 アル・パチーノ
   ミシェル・ファイファー
   ヘクター・エリゾンド
   ケイト・ネリガン
   ネーサン・レイン
   ジェーン・モリス

1993年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ケイト・ネリガン) 受賞