ファール・プレイ(1978年アメリカ)

Foul Play

偶然、同乗させた故障車の運転士である男性から、謎のフィルムを預かったことから、
執拗に殺し屋に狙われる図書館勤めの女性と、サンフランシスコ市警の刑事との恋愛を描いた、
ヒッチコックの演出スタイルをコメディ映画に落とし込んだ、サスペンス・コメディの快作。

今尚、日本でも根強い人気を誇る作品であり、
良い意味で年齢不詳な人気女優ゴールディ・ホーンのキュートさも最高潮だ。
(確かに年齢は重ねたルックスだけど、今もこの頃のキュートさを残しているのが凄い!)

この映画、観るたびに感心するのは、
作り手が完全に開き直って、サービス精神旺盛な演出に徹しているあたりで、
とにかく次から次へとストーリーが進んでいき、映画のテンポが実に良いですね。
確かにキャスティングにも恵まれた部分はありますが、一見するとどうしようもないことであっても、
持ち前のノリの良さで、映画の空気を停滞させない芯の強さが実に魅力的ですね。

監督のコリン・ヒギンズはニューカレドニア出身らしく、
76年の『大陸横断超特急』のシナリオなどで高く評価されて、本作で監督デビューした後、
80年に『9時から5時まで』なんてコメディ映画もそこそこヒットしましたが、
88年に47歳という若さでエイズのため急逝してしまったため、知名度は上がりませんでしたが、
本作なんかを観る限り、とても気の利いた映画を撮るディレクターであり、シナリオだけに頼るわけでもない。

例えば、映画の冒頭にバリー・マニロウの主題歌、
Ready To Take A Chance Again(愛に生きる二人)を壮大に流しながら、
ヒロインが運転する車がサンフランシスコ郊外の丘の上を疾走する様子を空撮で優美に捉えたり、
ヒッチコックばりにシャワーを使った、ドッキリさせられるシーンがあったり、シーン演出はなかなか上手い。

また、アパートの管理人が飼育している巨大ヘビを
あたかも恐怖の存在として登場させておきながら、実はヒロインも可愛がっているという流れを、
まるで「うっそだよォ〜ん」と言わんばかりに、普通にヒロインが拾い上げるという演出もユニーク。

お婆ちゃんたちがクロスワードパズルをやっていて、
並べている単語のスペルが、放送禁止用語であり、一人のお婆ちゃんが普通に「スペルが違うわよ」と
突っ込んだり、アパートの管理人が空手の達人で、オバちゃんと格闘を繰り広げたりと、
高齢者の力を随分と借りた映画ではありますが(笑)、これらの何気ない描写が凄く面白い。

開き直ったかのような、クライマックスのサンフランシスコを縦横無尽に走り、
交通事故を誘発しまくる車の暴走シーンにしても、一体、どこを走っているのかは分からないが、
「そうだ! サンフランシスコと言えば、坂道だ!」と68年の名作『ブリット』を思い出さんばかりに、
何度も何度も坂道を猛スピードで下りながら、交差点で車をジャンプさせるのを繰り返すあたりも、
作り手も思わず、「お前ら、これが観たかったんだろ?」と言わんばかりの強引さで痛快でしたね。

それと、ダドリー・ムーア演じる変態な指揮者が良い意味でアクセントとなっており、
コメディ映画としての基盤を固め、特に次から次へと飛び道具を繰り出す、彼の部屋は面白かったですね。
(ダドリー・ムーアは残念ながら90年代から難病に悩まされ、02年に病いに没してしまいました)

映画のラストでは、訳の分からない意味不明な歌舞伎役者が踊るミュージカルが映されたり、
日本からの旅行客と思われる老夫婦が、猛スピードでサンフランシスコの市街地を爆走する
タクシーの後部座席に乗りながらも、ゲラゲラ笑い続けるという、日本に関するトンチンカンな描写が
連続しますが、まぁこれらはあまり目くじらを立てずに、大目に見てあげて欲しいところ。

一つだけ惜しいと思える点は、本作の良さの一つであった“開き直り”の一貫である、
チョットした遊びが少しだけ過ぎたようで、映画の尺が長くなってしまったことですね。

コリン・ヒギンズも配分が難しかったとは思うのですが、
ヒロインが殺し屋連中に追い回されるシーンなど、一つ一つシーンが少しずつ長かったのかもしれません。
全体的にもっとポイントを絞って描けば、もっとコンパクトにすることはできた作品でしょうね。
(内容的には、あと10分ぐらいは短くできたかな・・・)

強いて言えば、チェビー・チェイス演じる刑事とのロマンスは最後の最後だけで良かったでしょうね。
途中でヒロインが刑事の暮らすボートハウスへ行きますが、このシーンはハッキリ言って、蛇足。
おかげでラストシーンのキスも、主人公カップルのお互いの感情が募りに募ったという感じがないですね。

それはともかく、良い部分を見ていけば・・・
やはり最近はこういう痛快なコメディ映画というのが、数少なくなってしまったので大切にしたい。
ようやっとDVDで復刻されるという陽の目を見たわけですが、日本でも根強い人気がある作品で
あるにも関わらず、相変わらず不遇な扱いを受け続けている作品で、何だか残念ですね。
個人的にはもっとスポットライトを当ててあげて欲しい作品の一つです。

おっと、忘れちゃいけない...(笑)
最近はすっかり表舞台での活躍が無くなってしまいましたが、
ヒロインと恋に落ちる刑事トニーを演じたチェビー・チェイスもまだ若々しくて、良い存在感ですね。

どうも、薬物中毒のリハビリから復帰して間もない頃のようですけどね・・・。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 コリン・ヒギンズ
製作 トーマス・L・ミラー
    エドワード・K・ミルキス
脚本 コリン・ヒギンズ
撮影 デビッド・M・ウォルシュ
音楽 チャールズ・フォックス
出演 ゴールディ・ホーン
    チェビー・チェイス
    ダドリー・ムーア
    バージェス・メレディス
    レイチェル・ロバーツ
    ブライアン・デネヒー

1978年度アカデミー歌曲賞(バリー・マニロウ) ノミネート