フォレスト・ガンプ/一期一会(1994年アメリカ)

Forrest Gump

これは実は、僕が小学6年生の頃に初めて友達と映画館に観に行った作品です。
しかし、当時の自分は映画にほとんど興味が無かったせいもあって、全く内容を覚えていないし、
途中で飽きて一緒に行った友達と、映画の途中で退場してきたような記憶があって、ずっと気になってました。

今は無き、札幌市内の中心部にあった東宝日劇で、当時は立ち見客もいたような記憶があります。

劇場公開当時は原作本も結構売れていたはずで、僕は何故か原作本も持っていました。
ほとんど読んでないけど(苦笑)、「人生は箱入りのチョコレートのようなもの」という名ゼリフしか印象に残ってない。

まぁ、何より本作でスゴかったのは、主演のトム・ハンクスが2年連続でアカデミー主演男優賞を獲得したことだろう。
今考えても、それはハリウッドにとっては画期的な出来事であり、ましてやトム・ハンクスは喜劇のイメージが強かった。
前年の『フィラデルフィア』でシリアスな芝居に開眼したように、一気に演技派俳優としての地位を確立しましたが、
本作なんかはその中間を上手く彼なりのアレンジを加えていて、当時も高く評価されたことがよく分かる好演ですね。

監督はそれまで、エンターテイメント性の高い作品を中心に手掛けてきたロバート・ゼメキスで、
正直、当時は本作のような毛色の映画を、彼が撮ること自体、意外だったと思うのですが、よく仕上げている。

公開当時、話題となっていましたが実在の人物とフォレストが一緒に写り込む映像を撮るのに
CGを使うという発想がスゴいなぁとは思いましたが、個人的にはここまでやらなくても良かったような気がする。
さすがはILMの仕事ぶりなだけあって違和感なく、これだけの映像を作れたというのは、当時としては画期的でした。

本作で興味深いのは、主人公のフォレストは幼少期にIQが他の子どもたちより低いと言われ、
通常学級に入学することを学校側から拒まれ、母親が“力技”でフォレストを通常学級に入学させ、
その後はあらゆる障害をフォレストは持ち前の高い運動能力と幸運で、次々と彼自身の社会的存在感を向上させ、
何度もホワイトハウスに招かれる有名人となり、彼が幼少期に出会って、疎まれるフォレストに優しくしてくれた、
後のフォレストの恋人となるジェニーは、大学で学生運動に身を投じて、ドラッグや貧困の問題に直面する。

幼少時はフォレストと正反対に思われながらも、厳しい人生を歩むことになるジェニーの姿は、
フォレストの歩む人生と正反対な感じで、現代のアメリカ社会が生み出した数奇な側面を象徴させています。

フォレストは正しく“一期一会”という言葉を大切に生きている人生なのは観て分かりますが、
ジェニーとの出会いは運命の出会いとしか言いようがなく、フォレストは自分の感情を上手く表現できませんが、
長い時間をかけて二人は距離を縮めていきます。二人の恋愛については、実に丁寧に描いていて好印象ですね。

僕は正直言って、ロバート・ゼメキスがここまで器用な演出をできるディレクターだとは思っていなかったので、
ここまで繊細かつダイナミックにドラマ演出をしてくれるなんて、ホントに驚くような作品の出来だったと思います。

とは言え...傑作かと言われると、そこまでではないかな・・・というのが本音。
ロバート・ゼメキスがここまで出来るのかと驚いたものの、伝記ドラマが得意な人なら出来そうなレヴェルに見える。
そういう意味では、94年度のアカデミー作品賞受賞というのは、僕は少々褒め過ぎな気がしなくもない・・・かな。

映画としては訴求力がそこまで強いとは感じられなかったことが気になった。
確かに懸命に生きるフォレストの姿を通して、勇気づけられる面もあるとは思うのですが、
映画の最後に観客の心を強く揺さぶる力というのは、あんまり強くなくって、何かもっと強いインパクトが欲しかった。
フォレストの心にはどこか少年の純真な心が宿っていて、ピュアな人間でもあるはずなのに、これが深掘りされない。

思うに、フォレストのような環境で育ってきて、若くして愛する母の元を離れて、
大学で寮生活を強いられ、あれよあれよという間にベトナム戦争に出征、いろんな社会経験を積んで、
やがては母親との別れを経験し、愛するジェニーと一緒になっても、幸せな時間は長くは続かない残酷な運命だ。
誰だって、これが現実に経験すればツラいなぁと感じるわけで、ピュアなフォレストならば強いショックを受けるはずだ。

僕はそんなフォレストの感情を、この映画はもっと力強く描いても良かったと思うし、
それでも運命に翻弄され、不思議と社会的には幸運が巡ってくるというフォレストの人生を、追及して欲しかった。

そう、フォレスト自身が語っているように、彼の人生にとって2人の女性の存在はとても大きかったはずだ。
一人は彼の母親であり、もう一人はジェニー。フォレストの母親はとても強い女性であり、シングルマザーとして
フォレストを育て、IQが低いことを指摘されながらも、それを承知しつつもフォレストへの教育機会は平等に
与えるということを主張し、それを貫き通す芯の強さがあった。結果として、フォレストもそんな強き母に応えたわけだ。

劇中、描かれていますが、ベトナム戦争から帰還し英雄として
ホワイトハウスで表彰されるフォレストを見て、母は文字通り誇らしい気持ちだったはずで、最高の親孝行でした。

ベトナム戦争では色々なトラウマにもなり得る窮地を経験しながらも、なんとか生き抜いて、
負傷した仲間を助け出したことで表彰され、上官からは最初は憎まれ口を叩かれながらも、
最終的にはフォレストに助けられた事実を認め、フォレストが起業したエビ漁を事業として継ぐ立場になるわけで、
これはこれでフォレストが前向きに取り組んできたことに触発されて、周囲に良い影響を与えたという事実なのだろう。

フィクションであっても、僕はこの辺は伝記ドラマとしてとても良く出来ていると思うし、
アメリカの近代史と並行して、実に魅力的でドラマティックな展開を見せる、映画化するには“美味し過ぎる”題材だ。

そんなフォレストを立派に育て上げたのが母親であり、彼女の信念が無ければ、こうはならなかっただろう。
だからこそ、彼女の最期はアッサリし過ぎですね。多少、クドいくらいでもいいから、もっとしっかり描いて欲しかった。
フォレストが初めて経験する唯一の肉親との別れであり、本作最大の見せ場であったと言っても過言ではない。

もう一人のジェニーですが、演じたロビン・ライトも好演だったのですが、当時、あまり評価されなかったのは残念。
いかんせん、当時のトム・ハンクスの話題性に負けてしまったのだろうけど、難しい役どころを上手く演じていますよ。
前述したように、ジェニーの人生はフォレストの運命の女性なだけあって、絶妙に交差する人生ではあるのですが、
基本的には社会人として幸運に恵まれたフォレストの人生とは、反対と言っていいほど、社会に翻弄され不遇でした。

周囲の目から見れば、少女時代のジェニーは成功しそうな芯の強さがあっただろうし、
ウブなフォレストから見ても、色々なことを知り尽くしたジェニーは憧れであり、手の届かない存在と思っていただろう。

それが学生闘争に身を投じ、ヒッピーのような生活に転じてドラッグの問題を目の当たりにし、
フォレストのことが気になりながらも、まるで違う人生を歩むフォレストと恋愛関係になることは考えられない。
それでもフォレストの途切れることのないジェニーへの思いが、少年時代に義足というハンディキャップを乗り越え、
ラグビー選手として誰よりも速くフィールドを駆け抜けるプレーヤーとして活躍させたし、どんなにツラいベトナム戦争も
なんとか生き抜こうということで乗り切れることができた。ジェニーの存在は切り離すことができなかいはずでした。

そんな彼女とも長く一緒にいることができないフォレストの姿は、なんとも切ない。
こうしたフォレストの“一期一会”が、彼を精神的に成長させたことは間違いないのだろうけど、
フォレストがどうこういった悲しみを乗り越えたのかを描くことこそ、僕は本作最大のテーマだったのではないかと思う。
そこが、どこか表層的に描かれてしまっていて、映画の最後になっても強く心揺さぶられるものは無かったなぁ。

勘違いされてもアレなんですが...普通に良い映画だとは思っています。
ただ、アカデミー作品賞受賞作品という枠組みで考えれば、少々褒め過ぎではないかと感じるというだけで。

それにしても、トム・ハンクスは93年の『フィラデルフィア』、翌年の本作で2年連続オスカーを受賞し、
本作の後にも95年の『アポロ13』で3年連続のアカデミー主演男優賞にノミネートされ、大きな話題になりました。
すっかりコメディ俳優ではなくなったなぁという感じでしたが、『フィラデルフィア』では80年代からアメリカ社会を
賑わし続けてきたエイズの問題に深く切れ込んだ作品を皮切りに、本作はベトナム戦争から公民権運動まで、
『アポロ13』では宇宙開発競争を描いた作品に出演するなど、短期間で一気にアメリカ近代史を総括しましたね。

しかも、それら全ての作品でオスカーにノミネートされるというのは、ホントにスゴいことでしたねぇ。

(上映時間142分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 ウェンディ・フィネルマン
   スティーブ・ティッシュ
   スティーブ・スターキー
原作 ウィンストン・グルーム
脚本 エリック・ロス
撮影 ドン・バージェス
特撮 ILM
音楽 アラン・シルベストリ
出演 トム・ハンクス
   サリー・フィールド
   ロビン・ライト
   ゲイリー・シニーズ
   ミケルティ・ウィリアムソン
   マイケル・コナー・ハンフリーズ
   ハンナ・R・ホール
   ハーレイ・ジョエル・オスメント
   レベッカ・ウィリアムズ

1994年度アカデミー作品賞 受賞
1994年度アカデミー主演男優賞(トム・ハンクス) 受賞
1994年度アカデミー助演男優賞(ゲイリー・シニーズ) ノミネート
1994年度アカデミー監督賞(ロバート・ゼメキス) 受賞
1994年度アカデミー脚色賞(エリック・ロス) 受賞
1994年度アカデミー撮影賞(ドン・バージェス) ノミネート
1994年度アカデミー作曲賞(アラン・シルベストリ) ノミネート
1994年度アカデミー美術賞 ノミネート
1994年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1994年度アカデミー視覚効果賞 受賞
1994年度アカデミー音響賞 ノミネート
1994年度アカデミー音響効果編集賞 ノミネート
1994年度アカデミー編集賞 受賞
1994年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞
1994年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
1994年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(トム・ハンクス) 受賞
1994年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(ゲイリー・シニーズ) 受賞
1994年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1994年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(トム・ハンクス) 受賞
1994年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ロバート・ゼメキス) 受賞