フォーエバー・ヤング/時を超えた告白(1992年アメリカ)
Forever Young
1940年代に恋人が交通事故によって昏睡状態となったことに強いショックを受けた
航空隊パイロットである主人公が、密かに実験が成功しつつあると仲間から報告を受けていた実験に自ら志願して、
眠ったまま冷凍状態になって50年後の未来に覚醒し、数々のギャップなどに悩みながらも50年間の仲間たちの
足跡を辿りつつも、純愛を貫こうとする主人公の姿を描いたSF的要素を内包したファンタジー・ロマン。
監督は『13日の金曜日』シリーズで知られるスティーブ・マイナーで、
『13日の金曜日』シリーズを監督を務めた後は、コメディ映画などを中心に活動しており、本作のような
ファンタジー映画を何本も手掛けているようで、正直言って、あまりメジャーなディレクターではありませんが、
こういう経歴を見ると実は器用なディレクターであって、いろんなジャンルを撮ることができる人なんだと分かりますね。
主演は90年代に入る頃には、すっかりハリウッドでアクション・スターとしても認知されていた
メル・ギブソンでまだ後の自ら監督として活躍する以前の作品であり、本作のように少しコミカルな芝居を
要求されるのは彼の得意なフィールドと言ってもよく、映画全体としてはソフトなタッチで彼に合っている印象だ。
どちらかと言えば、本作は子役時代のイライジャ・ウッドがブレイクした作品として知られていますが、
メル・ギブソンもなかなかの好演技で良いですね。そういう意味では、もっとヒットしても良かった作品かもしれません。
まぁ、本作は主人公の純愛を描くというのがメインテーマですので、
あまり細かいところにツッコミを入れるのは無粋な感じがするのですが、生物を凍らせて代謝を止めたり、
化学反応による損傷を防ぐことで生物を生きたまま静態保存することは、SF小説などで数多く描かれていますが、
現実世界で科学的に不可能なことで、現実にはなっていません。今後もなかなか難しいことだとは思います。
そうなだけに、個人的には第二次世界大戦下で進められていた極秘実験であるとは言え、
冷凍実験にこだわらなくても良かったような気はします。主人公の目覚めなんて、ほとんどホラーですしね。
僕が本作で物足りなさを感じたのは、主人公の純愛そのものの描き方ですね。
普段は恋人をからかいながらジョークを飛ばして会話するフランクな主人公であったにも関わらず、
いざ恋人に結婚を申し込もうとすると、彼女を目の前にしてドギマグしちゃって、勇気を出して言い出せなかったところ、
目の前で恋人を交通事故で昏睡状態に陥ったなんてことが起きれば、とてつもないショッキングな出来事であって、
後悔ばかりが募ることだろう。ただ、どうしても結び付かないのは、そのショックでどうして冷凍実験を自ら試す決断に
至ったのかということが分かりにくく、特に映画の前半部分ではもう少し丁寧に説明した方が良かったと思うんですよね。
その方が映画に厚みと説得力が生まれたと思えるだけに、なんだか勿体ないなぁというのが正直な印象。
あまりメジャーな女優さんではありませんが、チョイ役ながらも交通事故にあうヒロインを演じた
イザベル・グラッサーという女優さん、なかなか印象的ですね。もっと積極的に映画に出演すれば良かったのに・・・。
一方で、50年後の未来で主人公のことを手助けする子どもたちの母親を演じたのが、
ジェイミー・リー・カーチスで彼女の方が有名な女優さんですが、しっかりと脇を固めている安定感が良い。
但し、個人的には主人公に同情的になってキスしてしまうシーンがありますが、これは正直、余計だと思ったなぁ。。。
暴力的な知人男性が家に入ってきて、乱暴されそうになったところを主人公に助けられたという
エピソードから彼女の存在が大きくなってくるので、経緯やシングルマザーとして気持ちが主人公に入り込むのは
理解できますが、だからと言って、一時の気の迷いみたいな描写があるのは僕には理解できないところだった。
このシーンは映画全体のバランスを崩してしまいかねないほど、安直な描写に見えてしまいましたね。
あくまで主人公から少し距離を置いたところ、見守るという位置づけであった方が彼女の存在は輝いたはずだ。
この辺は監督のスティーブ・マイナーの判断でもあったとは思うのですが、
映画を最後まで観ると、あくまで純愛を貫き通すというコンセプトがあるのは明白なので、あの気の迷いは不要だなぁ。
このシーンがない方が、ずっとメインテーマであるはずの純愛ということに肉薄した映画に仕上がったと思うんだよなぁ。
そう思えるくらい、僕の中ではこのシーンが最大のウィーク・ポイントで実に残念な部分だったと思えてならない。
本来、冷凍カプセルから目覚める冷凍人間というホラーに近いような題材と、
50年もの時を経て貫き通す純愛という、一見すると相反するようなテーマを見事に両立させて描くというのは、
映画としてとても難しいことだったと思います。この辺はスティーブ・マイナーが巧み描いたとは思いますが、
あくまで純愛を描くという観点から言えば、もっと出来たことがあったのではないかと思えてならないのですよね。
まぁ、メル・ギブソン主演の映画なので、こういう仕上がりになってしまうのは仕方ないけど、
あくまでロマンスを描いた映画なので、もっとハッキリと恋愛を力強く描くことに注力した方が良かったとは思いますね。
ところで、秘密裏に進められていた冷凍実験が何を目的にしたものだったのかが語られていないのも気になった。
まぁ、これは映画の主題ではないので仕方ないけど、サラッと語られているだけで終わってしまうのは消化不良。
でも、少しだけでもいいので、背景を描いていれば主人公が自ら志願したことにも、説得力を出せたかもしれない。
いくら恋人が昏睡状態に陥ったことにショックを受けたとは言え、さすがに死んでしまうリスクも高い、
実験レベルだった冷凍技術を使って、自分が眠ることで恋人が目覚めるまで冷凍状態で待っているなんて、
チョット...正気の沙汰とは思えない決断ですからね。もっと合理性のある部分は描いておくべきでしたね。
映画のコンセプトとしては、とても良いものを持っていたと思うし、なんとも切ない物語でもある。
そうであるがゆえに、もう少しずつ気の利いたところがあれば、映画はもっと光り輝くものに変わっていたはずだ。
とは言え、ナンダカンダ言って、映画がラストに向けて力強く進めていく展開には心動かされるものがある。
50年後の未来で目覚めたことを認識した主人公が、交通事故で昏睡事故になったと思い込んでいた恋人が
実は・・・ということが分かって、自らの肉体が急速に変化する中で、恋人を探し求めて奔走し、なんとかして
眠っていた50年間の時間を取り戻そうとする姿が、なんとも感動的で心揺さぶられる訴求力はあったと思います。
そんな主人公を優しく手助けする子どもたちの存在感も上手くフィットし、シナリオや設定としては良かったはず。
(ちなみに脚本を書いたのは、今やハリウッドでもトップ監督として活躍するJ・J・エイブラムス)
だからこそ、もっと細かなところに気を配った演出ができていれば映画は大きく変わっていたでしょう。
そういう意味では、いろんなテーマを内包した作品ではありますが、もっと恋愛映画が得意な人が監督した方が
本作をもっと磨き上げることができたのだろうなぁ。決してスティーブ・マイナーが悪い仕事ぶりというわけではないけど。
無駄を削ぎ落したのは良いのだけれども、恋愛映画を撮るのが上手い人って、
いい具合に無駄なエピソードを織り交ぜながら、映画全体に肉付けしていくアプローチができるという印象で、
本作のスティーブ・マイナーはあまりにピンポイントに描くことに注力し過ぎて、サイド・ストーリーが盛り上がらない。
この“遊び”の無さ具合が、映画にとって悪い方向に機能してしまった印象で、どうにも通り一辺倒な感じになっている。
かつて、『タイム・アフター・タイム』などタイムスリップを題材にした恋愛映画は何本かありましたけど、
本作もそのセオリーに従った作りにしたかったのだろうけど、作り手の思い通りにはならなかったのかもしれない。
もう少し映画全体に厚みがあれば、日本でもこの企画であれば、ヒット作になっていた可能性は十分にありましたね。
映画のクライマックス近くに、主人公が50年間、冷凍状態で眠り続けていたことに気付いた、
軍幹部や研究者、FBI捜査官も主人公を追ってきますが、なんとか逃げ続けますが、逃げ切れないことを悟った
主人公を援助するシングルマザーは、主人公の実験仲間の娘から受け取った実験ノートを渡して、主人公が恋人を
追い求めることに干渉しないように追い続ける研究者らに伝えるシーンは、この映画のハイライトかもしれない。
それでも更に飛行機を奪って、1940年代の知識と技量で空を飛ぼうとする主人公ですが、
このフライトを子どもと2人でやり遂げるというのは、少々出来過ぎな展開ですが、これは寛容的に観たいところ。
この一連の流れは良いだけに、もう少し細やかに気を配れていれば・・・と思えてならないことが残念だ。
(上映時間102分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 スティーブ・マイナー
製作 ブルース・デイヴィ
脚本 J・J・エイブラムス
撮影 ラッセル・ボイド
編集 ジョン・ポール
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 メル・ギブソン
ジェイミー・リー・カーチス
イライジャ・ウッド
イザベル・グラッサー
ジョージ・ウェント
ジョー・モートン
ニコラス・サロヴィ