007/ユア・アイズ・オンリー(1981年イギリス)

For Your Eyes Only

前作でやり過ぎてしまったルイス・ギルバートから監督が交代して、
それまで“007シリーズ”の編集で腕をならしてきたジョン・グレンが初めてメガホンを取ったシリーズ第12弾。

冒頭から、さながら『女王陛下の007』をむし返すかのように、
ボンドの亡き妻を思わせる墓やスペクターのブロフェルドを思わしき悪役が登場したりと、
何だか、忘れた頃にかつてのライダーを登場させた『仮面ライダー』のような手法でしたが、
さすがに前作でいろんな意味で狂ってしまった“007シリーズ”を軌道修正させた作品として、
もっともっと高く評価されてもいいかなぁと思いますね。チョット全体的に詰め込み過ぎではあるけど。

冒頭のヘリコプターを使ったアクション・シーンに始まり、
スキーで逃げ回って、ボブスレー・コースを使ったチェイスに発展したり、
アイススケートリンクで格闘になったり、今度は深海で秘密装置をめぐるアクションを展開したり、
人食い鮫の恐怖に戦きながら悪戦苦闘させられたり、ロッククライミングしたりと、とにかく忙しない(笑)。

前作でシリーズの本来的な面白さを忘れてしまったことを反省してか、
今回のジョン・グレンはこれまで“007シリーズ”で描いてきたアクション的な要素を全て採り入れ、
まるで原点回帰したかのように2時間を超える上映時間の中、全速力で駆け抜ける感じですが、
ここ数作の傾向も否定しないように、時折、コメディ的ニュアンスを残しているのも良いですね。

敢えて言うならば、前述したように全体的に詰め込み過ぎの傾向ではあります。
とにかく目まぐるしく、次から次へとサービスするかのようにアクション・シーンが連続するもんですから、
従来のシリーズの特徴であった、ボンドの女ったらしな部分は影を潜め、映画の緩急が弱いかな。

それと、80年代の“007シリーズ”の特徴だけど、アクションが軽い。
まぁロジャー・ムーアに交代してからは、ずっとそうと言えばそうなんだけれども、
随分とライトな音楽をバックで流しながらアクションを展開して、随所にコミカルさを演出するせいか、
悪く言えば、ご都合主義的なアクションが連続しているようで、これは賛否両論だろう。

今回の主題歌はシーナ・イーストンが担当していて、
シリーズでも有数の印象的な曲なんだけれども、本作あたりからシリーズの主題歌の傾向も変わったかも。

これまでは、トム・ジョーンズやシャーリー・バッシーに依頼していたせいもあるけど、
どちらかと言えば、ネットリとしつこ〜く歌い上げる主題歌が多かっただけに、シーナ・イーストンのような
イメージの歌手が主題歌に抜擢されること自体が、従来の固定化されたイメージを一蹴する目的があったのかも。

シーナ・イーストンは当時、22歳のデビューしたての女性シンガーで、
いきなりの大抜擢に大きな話題となったそうですが、本作のオープニング・タイトルのバックで
シルエットとして彼女が歌う姿として登場しており、これは“007シリーズ”としては極めて異例な演出です。

というわけで、本作でのジョン・グレンは僕が思うに、
ロジャー・ムーアがこれまで約8年間をかけて構築してきた、彼が演じるボンドのイメージ、
そして従来の“007シリーズ”の良さ、面白さをキチッと踏襲しながらも、少しずつそれまでの固定化されてきた、
マンネリ化したイメージを打破する努力をしており、プロダクションも危機感を抱いていたことは否定できないだろう。

思わず、「いくらなんでも、そりゃムチャやろ...」とツッコミの一つでも入れたくはなるのですが、
ボブスレーのコースにスキーで逃げるボンドが侵入し、更に後続からボンドの命を狙うバイクが接近して、
チェイス・シーンに発展するシーンをはじめ、この映画のアクション・シーンはスピード感があって良い。
さすがにジョン・グレンが編集者として長く活躍していただけあってか、カットの割り方も極めて的確で、
カメラワークは勿論のこと、カメラの視点など、それら全てが実に正確で職人気質な部分すら感じる。

冒頭のヘリコプターでのアクションにしても、空撮と特撮を駆使した感じがあって、
さすがに長年、“007シリーズ”を製作してきたプロダクションの底力を感じさせる作りで感心しましたね。

このシーンでは、ブロフェルドと思わしき、ペルシャ猫を手なずけるスキンヘッドのオッサンが登場しますが、
細工したヘリコプターをリモコンで操縦して、ボンドを徹底して追い詰めるブロフェルドですが、
いざ形勢逆転してピンチに陥ると、「金はいくらでも出すよ、ボンドさん!」と命乞いするのも、なんだか面白い。
(しかし、こんな弱気なブロフェルドを観て、オールドなファンは怒らなかったのだろうか?)

今回のボンドガール、キャロル・ブーケの美貌が公開当時から絶賛されたそうで、
映画を観ていて、すぐに気づくことではありますが、ボンドと彼女のベッドシーンが無いのは新鮮だ。

そして、彼女以上に僕の中ではコロンボを演じたトポルが強く印象に残りましたね。
“007シリーズ”のカラーに馴染まないぐらい、個性的なキャラクターだったように思うのですが、
ボンドの味方なんだか、敵なんだかよく分からない、ミステリアスな役柄でユニークだったように思いますね。

ロジャー・ムーアは撮影当時、54歳。
前作『007/ムーンレイカー』の時点で感じてはいましたが、もう観ていてしんどいですね(苦笑)。
さすがに本人も撮影自体が大変なのか、激しい格闘シーンはほとんど無く、動きにキレも無い。
本編を観ていると分かりますが、スタント・アクションがほとんどで、かなりスタントの恩恵を受けています。
(個人的には、もう少しロジャー・ムーアとそっくりなスタントマンを採用して欲しかったけど・・・)

でも、大真面目な話し...
この映画でプロダクションが原点回帰を図ったという事実は、とても大きな出来事だったと思うんです。

あのままルイス・ギルバートの路線でシリーズを続けていたら、
“007シリーズ”は完全におかしな方向へ行っていただろうし、21世紀になってからも
根強い人気シリーズとして継続できていなかったかもしれません。そう思うと、とても貴重な作品です。

個人的には、もう少し上映時間が短ければ、もっと良くなると思うんだけどね・・・。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・グレン
製作 アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    マイケル・G・ウィルソン
撮影 アラン・ヒューム
特撮 デレク・メディングス
音楽 ビル・コンティ
出演 ロジャー・ムーア
    キャロル・ブーケ
    トポル
    リン=ホリー・ジョンソン
    ジュリアン・クローバー
    ジル・ベネット
    カサンドラ・ハリス
    デスモンド・リュウェリン
    ロイス・マクスウェル

1981年度アカデミー歌曲賞(シーナ・イーストン) ノミネート