バラ色の選択(1993年アメリカ)

For Love Or Money

マイケル・J・フォックスお得意の小気味良いサクセス・コメディ。

ハリー・ソネンフェルドはコメディ映画専門のディレクターみたいになってますが、
91年の『アダムス・ファミリー』で監督デビューしましたが、本作が監督第2作になります。
コメディ映画としては中途半端な出来に感じるのですが、ヒロインのガブリエル・アンウォーに大きく助けられました。

ガブリエル・アンウォーは、一時期日本でも人気のあった女優さんですが、
某シャンプーのCMで日本のお茶の間でも露出が多かったので、モデル女優さんとして知名度は高かったですね。

彼女は何より、92年の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』でアル・パチーノと
有名なタンゴを踊るシーンだけの出演シーンで強烈なインパクトを残し、映画女優としての出世作となりました。
その勢いのままに、本作で初めて規模の大きな映画のヒロインをゲットしたわけですが、映画はヒットしなかった。。。

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』以降は、あまり出演作品に恵まれなかったのか、
彼女のエージェントに問題があったのかよく分かりませんが、幾つか日本でも劇場公開された作品への
出演はありましたが、多くがB級映画的な扱いをされてしまい、彼女自身が映画女優としての評価を確立できなかった。

日本のCM出演は90年代半ばだったと思いますが、気づけばフェードアウトしていたという感じで、
過小評価と言うか、どことなく仕事に恵まれなかった女優さんという印象が残ってしまいましたね。
最近はTVドラマの女優さんとして活躍していたようなので、これはこれで彼女にとって良かったのかもしれませんが。

映画は、ニューヨークの高級ホテルでコンシェルジュとして活躍するダグを主人公に
ダグは夢のホテルの計画を実現させるために上昇志向を持って仕事に携わっていたものの、
セレビリティの逢瀬の現場として斡旋して、多額のチップを得ることで計画資金を溜め込んでいたところを
不可解な金の流れで納税していないことに、国税庁の職員に目をつけられてしまい、どう対応するかで苦悩します。

そんな中、ホテルの経営者であるクリスチャンとお近づきになる機会を得て、
自分の計画を実現させるためにアイデアを話し、具体的な企画書を渡しますが、クリチャンは良からぬ工作にでます。
しかも、彼はホテルの部屋を工面しろと指示します。実はクリスチャンはダグが目をつけていたアンディという
若き女性と浮気していたわけで、クリスチャンに本気だったアンディは、クリスチャンに近づいていきます。

しかし、アンディが私生活の妻の目に触れることを嫌ったクリスチャンは、
ダグへ次なる指示事項として、アンディの行動を抑えるように働けという指示を出すのですが、
ダグは戸惑いながらも、よりアンディへの想いを強めて叶わぬ恋心ゆえ、アンディとぶつかってしまうようになります。

マイケル・J・フォックスはこの手のコメディ映画はお手のものでしたが、
本作はそこまでキレがあるわけでもなく、高級ホテルのコンシェルジュということもあってか、どこか大人しい。
性格的にアツくなりやすいのは、どちらかと言えばヒロインの方で、そのパワフルさをマイケル・J・フォックスが抑える。

既にパーキンソン病の兆候が見えていた時期だと思いますが、その影響とは言えませんが、
少々80年代から90年代初頭にかけての出演作品と比べると、どこか大人しい感じで良くも悪くも落ち着いている。

実際に欧米ではチップを渡す文化があって、それをポケットマネーにしてはいるようですが、
そんな大金が飛び交っているというのが現実にあるのかは定かではありません。ほぼワイロみたいですが、
その金額で部屋を融通する、しないが分かれるのであれば、コンシェルジュという職業からかけ離れていますね。

それにしてもダグとアンディ、この2人の間に恋心が生まれる瞬間は、もっとキチッと描いて欲しい。
ラブコメなのだから、ここは映画において大事なところだ。ダグが最初っからアンディに気があるのは分かるが、
少なくともアンディを見る限りでは、不倫の恋と分かっても暴走気味にクリスチャンに接近していくし、
ダグを恋愛の対象として見る瞬間は、全く無かったように思う。そんな2人に恋心が芽生えるとなれば、
それ相応のキッカケがあったはずで、この類いの映画はそのキッカケをもとに“波”に乗っていくはずなのに・・・。

この映画のネックはこれだけではない。しかし、共通して言えることは、
バリー・ソネンフェルドは演出家として雑に感じるということ。カメラマンとしては名高いので、
もっと丁寧に映画を撮って欲しい。何かアクションとか、そういう他の要素がないと、まだキビしいなぁと感じる。

映画の原題は「愛をとるか、金をとるか」という意味ですが、内容的にはそこまで切羽詰まったものでもない。
それはやはりダグとアンディの恋が燃え上がっていて、ダグがアンディとの恋のために夢を捨てるか、
夢であるホテル建設のためにアンディを諦めるか、という映画が持つべきテーマへの肉薄が弱いからでしょう。

映画の雰囲気としては、90年代初期のアメリカの空気感を良く反映していて
この時代のアメリカの空気感が好きな人にはたまらないでしょうが、映画の出来がそこまでではないのが残念。

まぁ、映画としてはヒロインのアンディ役にガブリエル・アンウォーをキャストできただけで大きかったんですけどね。
そりゃ当時、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で注目されただけあって、彼女は凄い目立っていますよ。
ただ、半ばこの映画は彼女をキャスティングできたというだけで満足してしまったかのように見えてしまった。
つまり、彼女が演じたアンディ役をしっかりと描くことを放棄してしまったかのように、悪い意味で掘り下げが甘いですね。

良く言えば、大きく手を加えなかったということなのでしょうけど、
個人的には彼女がハリウッドでブレイクするためには、映っているだけで魅力的という域から脱して、
せっかくロマンチック・コメディのヒロインの与えたのですから、もっと掘り下げて磨いて欲しかったですね。

こういう言い方は申し訳ないですが、これならただ映っているだけですもの。
勿論、それだけで彼女の魅力は伝わる。だから、映画としては彼女をキャスティングしたというだけで、
大きなアクセントをつけることはできているから良かったのかもしれませんが、彼女のキャリアの足しにはならなかった。

僕はこれは本作の作り手の問題が大きいと思う。しっかり磨き上げるだけの力が無かったということ。

そのせい、というわけではないと思いますが、本作以降ブレイクすることなく、
前述したように、日本では某シャンプーのCMに出演して人気を博したものの、同時期から映画女優としては
B級映画ばかりに出演するようになり、残念ながらメジャー女優にはなり切れず、テレビ界へ活躍の場を移しました。
でも、勿体なかったと思うんだよなぁ。彼女はブレイクするポテンシャルのある女優さんだったと思ったんだけども。

不倫相手の経営者が主催するパーティーにアンディが乗り込んできたので、
経営者から指示されたダグが彼女を抱きかかえて“回収”するシーンなど、単発的には面白いけど、
映画全体の流れとしてテンポ良く構成できていないところに、本作のウィークポイントがあるような気がします。

そのせいか、観終わった後、どうもスッキリしない。ラブコメが演出すべき、爽快感が無い。

それもこれも、アンディが目を覚まして、ダグへの心変わりについて決定的なものをハッキリと描いて、
不倫相手との“落とし前”をキチッとつけたところを描けば、映画の印象はガラッと大きく変わっていたと思います。

ハリー・ソネンフェルドにはそんな気がなかったのか、丁寧に描くことができなかった。
もっと経験があるディレクターがメガホンを取っていれば、映画は大きく変わっていたかもしれないと思ってしまった。
いやいや、でもホントに...この映画の上手くいっていないところの大半は、作り手の問題だと思います。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 バリー・ソネンフェルド
製作 ブライアン・グレイザー
脚本 マーク・ローゼンタール
   ローレンス・コナー
撮影 オリバー・ウッド
音楽 ブルース・ブロートン
出演 マイケル・J・フォックス
   ガブリエル・アンウォー
   アンソニー・ヒギンズ
   マイケル・タッカー
   ボブ・バラバン
   アイザック・ミスラヒ
   ウド・キアー
   ダン・ヘダヤ