フットルース(1984年アメリカ)

Footloose

シカゴから引っ越してきた、多感な年頃の高校生レンはダンスが大好き。
しかし、彼が引っ越してきた田舎町は、とある交通事故で高校生が亡くなったことがキッカケとなり、
ロックやダンスが禁止されるという、一種独特な雰囲気の町運営が行われ、それを町の牧師が仕切っていた。
レンの転居は次第に町の同級生たちの決起を促し、やがて管理主義の大人たちの心を開いていく姿を描きます。

ケニー・ロギンスのサントラが大ヒットした青春映画のバイブル的存在であり、
日本でも大ヒットしたようで、レンを演じた主演のケビン・ベーコンの出世作ともなりました。

ただですね...あくまで個人的な意見ではありますが、
僕は映画の出来としては、そこまで良いものではなく、エネルギー満ち溢れた映画という感じでもない。
どことなく、僕の中では83年の『フラッシュダンス』の二番煎じに観えなくもないのですが、
確かにケニー・ロギンスの主題歌は良いものの、観ているだけで踊り出したくなるくらいの躍動感を表現して欲しかった。

本作はどこまでの境地には達していない。本作がヒットしたのは、正直、“時代”のおかげもあったでしょう。
でも、僕はそれはそれで映画の実力のうちの一つだとは思うし、価値を損なうものではないと思っています。
とは言え、80年代のハリウッドは良質な青春映画が数多く作られた時期でもあるので、その中では凡庸な印象。

やたらと禁止するものを作って、管理したがる大人たちと、自由を勝ち得たいとする高校生という構図も
どこか類型的な構図になってしまっていて、確かにジョン・リスゴー演じる牧師が頑なではないというのは特徴だが、
ハーバート・ロスの切り口もどこか表層的なものになってしまった印象で、盛り上がりに欠けたという印象ですね。

本作はフィクションであり、舞台となる田舎町自体も架空の町ではあるのですが、
いくらなんでも80年代半ばに描くにしては、時代遅れな価値観であっただろうし、どうにも収まりが良くない。

そして大人と高校生が対立する構図を作りながらも、解決を図っていくプロセスも中途半端に見える。
全体的にもっとしっかりと描いて欲しいし、これでは作り手が何をどう描きたかったのかハッキリとしないですね。
思わず「これを当時、ジョン・ヒューズが撮っていたら、どんな映画になっていただろうか?」と想像してしまいました。
(おそらく、音楽を映画の“装飾”として、もっと若者たちの青春を描くことに注力しただろうと思いますが)

この映画で印象的なのは、映画の中盤で描かれたトラクターを使った、度胸試しの闘いのシーンですね。
あのシーンでは、レンの靴紐がアクセルペダルに引っかかってしまったことがキッカケで、この勝敗が決まります。
これがレンの高校生活を大きく変え、アリエルと恋人関係になるキッカケとなります。これはなかなか面白いですね。

主演のケビン・ベーコンの出世作となったのですが、アリエルを演じたロリ・シンガーも印象的だ。
彼女はあまり映画女優としては大成できませんでしたが、スラッとしたスタイルも良くて、インパクト強いんですけどね。

本作で彼女が演じたアリエルは、難しいティーンの多感な女子高生という感じで、
自分はロックもダンスも楽しみたいし、男の子との恋愛も楽しみたいが、家では牧師の父が“管理”したがる。
しかも、その父が率先して町の“子供たちを邪悪なものから遠ざける”活動を展開していて、聞く耳を持っていない。
そんな中での彼女の反発心は強く、交通事故死した亡き兄への想いもあってか、複雑な家庭環境に悩みます。

そのせいか、恋人の車と同級生の車の間にまたがって、対向するトレーラーと正面衝突寸前みたいな、
自殺行為のような問題行動を起こすし、次第にそれまで抑えてきた親への反抗も、表に出すようになっていきます。

思春期、反抗期といった、みんな誰もが多かれ少なかれ通る道のりではありますが、
このアリエルの精神状態を思うと、なかなか難しい状況で頭の中の整理がつかないほど混乱していただろうし、
挙句の果てには別れた恋人から、暴力を振るわれたりと、なんだか大変な高校生活になってしまっている。
(このエピソードは現代の感覚でいくと、明らかなDVで警察に通報されるべきレヴェルのものだ)

こういったところをハーバート・ロスがサラッと描いていること自体、賛否が分かれるかもしれない。
確かに映画のカラーからいけば間違いではありませんが、少々、深刻なエピソードに傾き過ぎたかもしれない。
本作はあくまで青春映画で、何か社会的なメッセージを発したい映画というわけでもないので、どうせサラッと描くなら、
もっと明るいエピソードだけで映画を構成してしまった方が、観る側もドンヨリした重さを感じずに観れた気がします。

そこへきて、前述したようにダンス・シーンの躍動感が今一つに見えるので、
もっとポップで沸き立つようなエネルギー、そして若さ全開の物語として突っ切った方が印象が良かったでしょう。
DVにしても、あまり深掘りする様子はないので、ここまでアリエルが傷つく姿を映す必要があったのかは疑問でした。

その他には若き日のサラ・ジェシカ・パーカーがアリエルの学友として登場してきたり、
レンと最初に会話を交わす学友としてクリス・ペンも出演している。残念ながらクリス・ペンは既に他界していますが、
色々と強がって振る舞っていながらも、実はダンスを全く踊ることができない。そこから練習するというのは微笑ましい。
僕は本作は、こういうエピソードを中心に据えて欲しかったし、もっと彼らを目立たせて欲しかったなぁと思っています。

こういう難点を列挙してしまうと、どうしてもケニー・ロギンスの主題歌だけだな・・・となってしまうので(苦笑)、
本作の良いところに目を向けると、アリエルの母を演じたダイアン・ウィーストの存在感が良かったというところ。
彼女はこういう役柄が多いような気もしますが、優しくも気持ちが強いところも持ち合わせていて、しっかりしている。

特に終盤でレンが企画した卒業ダンス・パーティーの様子を見に来るシーンで、
あらためて夫婦の強い絆を取り戻したかのように、ジョン・リスゴーと抱き合うシーンは良いシーンだったと思う。
どことなく、ジョン・リスゴー演じる牧師の心境の変化が、映画の進行に追いついていない部分があると感じてましたが、
この夫婦の抱擁で、それまでのモヤッとした部分を全て浄化したかのように、全てを包み込むような雰囲気が印象的だ。

本作では別にダンスのスキルを競うわけではなく、あくまで自己表現の手段として描かれます。
レンはしつこく不良グループに絡まれ、ケンカになることもありますが、ダンスはあくまで楽しむものとして描かれる。

だからこそ、もっと自分を表現して、観客にも「さぁ、踊ろうぜ!」くらいの勢いが欲しい。
残念ながら本作はそこまでの境地には達していないと思う。これが70年代後半に製作されていれば、
これくらいの内容で良かったかもしれませんが、80年代になるとMTV全盛期でこういう踊りは一般化してましたからね。
とすれば、もっと映画全体の勢いを象徴するものに昇華させて、“牽引力”の強い映画にして欲しかったというのが本音。

この映画の中で、個人的には興味深いことが描かれていて、
大人たちが子供たちを支配するような閉鎖的な田舎町で育った子供たちは、大人たちに反発しながらも、
移住者のレンが卒業記念のダンス・パーティーを開催しようとすると、中には保守的な姿勢を示す高校生もいて、
彼らがまるで大人たちから、その閉鎖的な精神を継承するかのように、“予備軍”に見えてくるところですね。

まぁ・・・ジェネレーション・ギャップというのは、いつの時代にもあるものですし、
親というのは、子がいくつになっても子が心配なもの。世代間の差は大きく、そのギャップは埋められるものではない。

だからこそ、本作で描かれたような軋轢が、かつて現実にあったのだろうが、
相当に悪しきものではない限り、結局は親世代が“折れる”しかないと思うんですよね。
親世代も若いときは、当時の大人たちから「最近の若者は・・・」と言われ続けて大人になったのだろうし。
その時々に反対されたものを、少しずつこじ開けて、市民権を獲得したものはあるはずで、時代はその繰り返しである。

今やレンを演じたケビン・ベーコンなんかは、ジョン・リスゴー演じる牧師と同じような立場だろう。

最近はダンス大会なんて一般的には多く開催されていないし、流行の先端は変わっている。
時にリバイバル・ヒットのように昔のものが流行ることもあるが、必ず現代風にアレンジされていますしね。
80年代当時を青春時代として駆け抜けた人たちにとっては、現代の流行が理解できないと感じている人も多いでしょう。
やっぱり時代はその繰り返しで、それだけみんな確実に年をとっていく証拠ということなのでしょうね。

何はともあれ、80年代を代表する青春映画の一つであることは間違いありません。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ハーバート・ロス
製作 ルイス・J・ラックミル
   クレイグ・ゼイダン
脚本 ディーン・ピッチフォード
撮影 リック・ウェイト
編集 ポール・ハーシュ
音楽 マイルズ・グッドマン
出演 ケビン・ベーコン
   ロリ・シンガー
   ジョン・リスゴー
   ダイアン・ウィースト
   サラ・ジェシカ・パーカー
   クリス・ペン
   フランシス・リー・マッケイン

1984年度アカデミー歌曲賞 ノミネート