アメリカの災難(1996年アメリカ)

Flirting With Disaster

後に『スリー・キングス』を撮るデビッド・O・ラッセルが最初に注目された、
生みの親を養子縁組協会の協力を得て行う、夫婦をメインに描いた奇妙なコメディ映画。

映画は子供が生まれたばかりの夫婦が、子供の名前を決めるためにと、
噛み合わない育ての親に育てられた亭主が、実の親を探したいと養子縁組協会に相談。
相談した担当者のティナはアッサリとサンディエゴに見つかったと報告し、費用は協会持ちでサンディエゴへ
行きますが、初歩的な手違いのため、紹介した里親は間違いであったことが判明し、
ミシガンにいると告げられます。ところがミシガンの里親も、実は身代わりで本物はニューメキシコにいて、
そのニューメキシコの里親も、一見すると平和な家庭だったものの、実はトンデモない家庭でした。

本作はデビッド・O・ラッセルの監督デビュー作なのですが、
とてもデビュー作とは思えぬ安定した作りで、ある程度、彼の作家性は出来上がっているようです。

個人的には、この映画、最後のニューメキシコの里親として登場してきた、
アラン・アルダとリリー・トムリンの2人が異彩を放っていて、未だに印象に残っていますね。
60年代からLSD肯定派の夫婦だったとのことで、主人公を産んだ時のエピソードで、
LSDでブッ飛んだまま出産したときという話しを、大爆笑しながら話しているのが強烈だ。

そして息子が未だにLSDに傾倒していて、最後はトンデモない出来事が発生してしまうのですが、
「ヤバいからメキシコに逃げよう!」なんて年甲斐もなく、やたらと動きが速いのも面白い。
過去に服役していたこともあり、「またムショなんて御免だね」と言い放ち、逃走するのも速いけど、
不意の交通事故も無理矢理、力技で隠蔽してさっさと逃げようとするのも、なんだか痛快でしたね。

全然、話しが噛み合わない主人公の育ての親を演じた、
ジョージ・シーガルとメアリー・タイラー・ムーアの2人も強烈な存在感で、
主人公の浮気な心を煽るかのようなキャリアウーマン、ティナを演じたティア・レオーニも利いてます。

まぁ「アタシはまだ離婚前なの。だから不倫関係は困るわ〜」なんてティナは言いますが、
ほぼ下着姿って感じで、主人公の前に現れたりして、言ってることとやってることが違うという、
主人公に対する下心ありまくりな、矛盾した振る舞いが、おそらく賛否両論だろうけど・・・。

こういうのを観ちゃうと、本作はキャストに助けられた側面はありますね。

確かに本作、当時はインディーズ映画の枠組みで扱われ、
これだけの映画が登場してくれば、それは勿論、注目に値する作品として扱われるだろうが、
予算に乏しいインディーズ映画として考えれば、キャスティングがあまりに豪華なんですよね。
ですから、これだけの映画の出来に昇華したのは、やはりキャストに恵まれた要素が大きいでしょう。

この映画の主人公夫婦も問題を多く抱えた夫婦ではあります。
4ヶ月のベビーと妻を同伴した旅行だというのに、亭主はティナにメロメロで欲望を抑えられないし、
妻も懐かしの同級生と再会したとは言え、シャワーを一緒に浴びようという誘いにアッサリのって、
その同級生の変態行為に応えるというトンデモない現場を、亭主に目撃されるし・・・。
映画は無理矢理、ハッピーエンドにもっていこうとはしていますが、これからも問題山積みな夫婦だ。

おそらく本作はこの辺もキッチリ皮肉っていて、
デビッド・O・ラッセルのシニカルなユーモアが、映画の中で見事に炸裂していますね。

ですから、本作も“遅れてきたニューシネマ”って感じなんですよね。
言ってしまえば、ヒッピーやフラワー・ムーブメントのカルチャーの生き残りを描いていたり、
夫婦として永く家庭を続けていくために何が必要かという、根源的な問題に言及しているわけで、
これらを皮肉るというのは、アメリカン・ニューシネマ期によくあったアプローチだと思うんですよね。

この邦題って、最初は僕も「意味不明だなぁ〜っ」と感じていたのですが、
最後まで観ると、この『アメリカの災難』ってのは、ある意味でよく考えられた邦題ですね。
広く言えば、主人公のような悩みを生んでしまったこと自体が“アメリカの災難”なわけで、
この“アメリカの災難”の元凶が何なのかを追及していくかのように、ストーリーを展開させます。
(これはある意味で、アメリカに対する強烈な皮肉なんですよね・・・)

ただ、この映画には決定打がありませんね。
確かに前述したように発想は面白い映画ではあるのですが、決定打がありません。
ややアイデアの良さに溺れてしまった感じで、もっと強烈なラストにしても良かったと思うんですよね。

ゲイ、ドラッグ、セックスレスなど様々な社会問題を内包した作品ではありますが、
全てのテーマに於いて、残念ながら中途半端な訴求なんですよね。
ここは重点主義の考え方に基づいて、あるテーマにフォーカスした方がクレバーだった気がします。

デビッド・O・ラッセルは本作がデビュー作とのことですが、
撮影当時、既に30代後半という年齢であったためか、もっと速いペースで映画を撮って欲しいですね。
本作の後は、『スリー・キングス』が話題にはなりましたが、その後、『ハッカビーズ』でやや失敗し、
10年の『ザ・ファイター』を発表するまで、完全に低迷してしまっていたように感じます。

これからの巻き返しに期待したい映像作家の一人ですね。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・O・ラッセル
製作 ディーン・シルバース
脚本 デビッド・O・ラッセル
撮影 エリック・アラン・エドワーズ
音楽 スティーブン・エンデルマン
出演 ベン・スティラー
    パトリシア・アークエット
    ジョージ・シーガル
    メアリー・タイラー・ムーア
    ティア・レオーニ
    アラン・アルダ
    リリー・トムリン
    ジョシュ・ブローリン
    リチャード・ジェンキンス
    セリア・ウェストン
    ナディア・ダジャニ
    デビッド・パトリック・ケリー

1996年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(リチャード・ジェンキンス) ノミネート
1996年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(リリー・トムリン) ノミネート
1996年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(デビッド・O・ラッセル) ノミネート
1996年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(デビッド・O・ラッセル) ノミネート