フラッシュダンス(1983年アメリカ)

Flashdance

これはアイリーン・キャラの主題歌があまりに有名ですが、
80年の『フォクシー・レディ』で監督デビューしたエイドリアン・ラインのハリウッド出世作になります。
そして意外にも、ジェリー・ブラッカイマーとドン・シンプソンの初コンビ作品にもなるんですね。

本作はとにかく、ヒロインを演じたジェニファー・ビールスが良いですね。正に光り輝く感じです。

ダンサーを夢見るヒロインは昼は溶接工として働き、夜はピッツバーグのバーで踊り子のバイトをやっている。
自宅でも日夜ダンスの練習に励んでおり、踊りの能力については周囲も一目置く存在という設定である。
一時期、本作は盗作騒動みたいなのがあったと記憶してますが、確かに実在の人物をモデルにしているらしい。
ただ、これはモデルとなった女性に映画化する権利の対価として2,300ドルが製作当時に支払われたが、
本作の興行収入に対して不当なまでに低すぎるというのが主張であったようで、解決はしたようですね。

映画の冒頭から、ヒロインが踊るシーンが強調して撮られ、
エイドリアン・ライン特有の光と影を活かしたカメラなので、なんだかミュージック・ビデオを観ているようだ。

本作の映像って、ほぼ間違いなくMTVでは参考にされたのではないかと思いますね。
エイドリアン・ラインの画面作り自体が、如何にも80年代っぽい感覚なので、それ自体がMTVっぽいのですが、
本作と『ナインハーフ』あたりは、音楽がメインにあって、後ろで物語が展開しているという感じですね。

ダウンタウンの路地と思われる場所で、パントマイムのような動きからダンスする2人の男から始まり、
やがて近所のいろんな人たちが集まって、踊りを楽しむショットなんかは街の空気を収めた良い画面ですね。
そういう意味では、あまり評価されなかったようですが、ドン・ピーターマンのカメラが良い仕事してますね。

ただ、よく言われることですが、ストーリーは褒められたものではない。
今の時代感覚で、本作を観ると、このヒロインの描かれ方は賛否が分かれるかもしれません。
ひたむきに踊りに打ち込み頑張る姿は尊いのですが、映画の冒頭では“お堅い”感じで描かれていたのに、
いざボスと恋愛関係になると一転して、性に奔放な姿ばかりが描かれており、なんだか“そればっかり”(笑)。

この辺はエイドリアン・ラインらしいと言えば、らしいのですが、
劇中、登場するストリップ・バーでの描写の猥雑や倒錯ぶりさなど、『ナインハーフ』の序章を感じさせますね。

エイドリアン・ラインは80年代の風俗を活写した映像作家として知られていますが、
やはりこの時代のトレンドだったと思いますね。映画の題材的にはエイドリアン・ラインらしくないですがね。
ただ、終始、ヒロインのジェニファー・ビールスのセクシーさを強調した撮り方をするあたりが、エイドリアン・ラインっぽい。

正直、僕はこういう描き方は本作には不要だったのではないかと思うのですが、
まぁ・・・当時は、こういうアプローチが“個性”だとされていたのでしょうね。今の時代だったら、ありえないことです。
ですから、ヒロインに抜擢されたジェニファー・ビールスも大変だったと思いますよ。撮影当時、20歳くらいですし。

ただ、劇中、何度かヒロインがブレイクダンスするシーンがありますが、
そのほとんどがボディ・ダブルなのでしょう。正直、ジェニファー・ビールスと明らかに異なるのが分かりますね。
それでも難しい役どころを彼女はよく頑張ったと思います。ロブスター食べるシーンなんて、なんとも悪女っぽいし。

そして、ジェニファー・ビールスに対して、相手役のマイケル・ヌーリーはチョット弱い。
基本は恋愛映画としての体裁を持っていますので、もう少し相手役の男を際立たせた方が良かったかな。

2022年に本作は4Kデジタルリマスター版が、映画館でリバイバル上映されて、
映画ファンの間では話題になったのですが、色々と文句言われながらも、根強いファンがいるということでしょう。
一時期、80年代のバブリーな雰囲気がリバイバル・ヒットする時期があったので、その潮流の一部かもしれませんが、
やっぱり80年代って、世界から疎まれるくらい日本経済が最高潮に“上がる”バブル経済真っ只中で元気だったので、
今のようなデフレ経済で、少子高齢化というアゲインストな風もある中では、この時代の空気感が羨まれるのかも。

今の方が良くなったことも多くあるとは思いますが、時代の変化で失われたものの方が良かった、
ということも当然あるでしょうから、80年代に流行ったものがリバイバル・ヒットする理由も分からなくはないですね。
また、80年代に現役バリバリだった世代の方々が、徐々にリタイア世代に入ってきているというのもあるのでしょうが。

確かにアイリーン・キャラの主題歌 Flashdance...What A Feeling(フラッシュダンス〜ホワット・ア・フィーリング)を聴くと
その躍動感やポップな感じに、今でも元気が出てくる不思議な力に溢れた歌唱という感じですものね。

映画のクライマックスに訪れる、ヒロインがバレエ楽団のオーディションを受けるシーンで、
この曲を流しながらブレイクダンスまで交えて、披露しちゃう発想がスゴい大胆だなぁとは思ったけど、
いつしかお堅そうな審査員もリズムを刻み、彼女の踊りに見入ってしまっている姿は、定番ではあるが良いですね。
全力で踊り切る爽快感は凄まじく、あまりグダグダと後日談を描かずに、スパッと映画を終わらせる潔さも良い。

アーミースーツでバレエ楽団の願書をもらいに行くだけで彼女は“浮いて”いるが、
このオーディション自体も、こういう踊りを見せるのはおそらく彼女くらいで、逆にインパクト絶大でしょうね。
幾多のオーディション受験者の中でも、忘れられてしまうことはないでしょう。そういう意味では、正解だったのかも。
単純に踊ることの楽しさを表現するという観点からすると、やっぱり本人が得意とするところでないと表現できませんから。

自宅での練習シーンにしても、ヒロインは踊ること自体は好きなのだろうが、
ただ練習に没頭するかのように、ストイックに踊りまくる姿はプロフェッショナルなシルエットに映ります。
(エイドリアン・ラインが撮ると、どうしても女性のセクシーさも前面に出してくるのは、少々気になるが・・・)

80年代のダンスを主題にした映画と言えば、『フットルース』か本作かという感じですね。
70年代後半からのディスコ・ブームが落ち着いて、ポップスをバックに踊るというのに変わりました。
当時は青春映画も流行っていたのもあり、若者を描いた映画の一つのフォーマットを作ったとも言えると思います。

サクセス・ストーリーとまでは言えませんが、なかなか踏み出すことができずに
一度は諦めかけたバレエ楽団のオーディションを受ける勇気を得て、日夜ダンスに打ち込む姿が美しいですね。
ヒロインは20歳くらいという設定ですので青春と言うには遅いかもしれませんが、やっぱり青春はこうでなくっちゃ。
そんな姿をエイドリアン・ラインが描いたというのも今になって思うと珍しい作品ですが、上手くハマっている。

冒頭のタイトルバックなんかは時代を感じさせますが、
その後、寒そうなピッツバーグの市街地の坂をヒロインが自転車で下っていく後ろ姿も、街の空気が吹き込むよう。

街のストリップ・バーで働き、夜ごとヒロインが踊るクラブに来る常連の男が嫌な感じで、
これは典型的な嫌われるキャラクターでストレスを感じますが、こういうキャラクターも必要だったのでしょう。
(個人的にはこの男は、映画の終盤にもう一度何かをやらかすキーマンになるかと思っていたのですがねぇ・・・)

劇場公開当時は中身が空っぽと酷評する評論家もいたと聞くが、
確かにお世辞にもよく考えられたストーリーとは言えず、前述したようにヒロインの描き方も気にはなるのですが、
それでも80年代を代表する映画の一本に挙げる人も多く、影響力の強い作品であると言ってもいいと思います。

おそらく、今観ると当時熱狂した人たちからすると、懐かしいなぁと思える映画なのでしょう。
僕はあまり過去を否定しまくるのも好きではないので、こういう感覚に浸れる映画というのは強いと思っています。

この映画のヒロインを観ていて強く感じますが、何事にも全力で打ち込むことは尊いことですね。
それだけ賭けるものがあるというのは、人生を豊かにすることにつながっていくと思います。
若さゆえということもありますが、やはり生きる上で情熱というものは、いつまでも持ち続けたいものですね。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 エイドリアン・ライン
製作 ドン・シンプソン
   ジェリー・ブラッカイマー
原案 トーマス・ヘドリーJr
脚本 トーマス・ヘドリーJr
   ジョー・エスターハス
撮影 ドン・ピーターマン
音楽 ジョルジオ・モロダー
出演 ジェニファー・ビールス
   マイケル・ヌーリー
   リリア・スカラ
   サニー・ジョンソン
   カイル・T・ヘフナー
   リー・ヴィング
   ロン・カラバトソス

1983年度アカデミー撮影賞(ドン・ピーターマン) ノミネート
1983年度アカデミー歌曲賞 受賞
1983年度アカデミー編集賞 ノミネート
1983年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1983年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ジョルジオ・モロダー) 受賞
1983年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞 受賞
1983年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(トーマス・ヘドリーJr、ジョー・エスターハス) ノミネート