ファイブ・イージー・ピーセス(1970年アメリカ)

Five Easy Pieces

何故かよく分からないが、異様なまでの苛立ちを抑え切れないボビー。
優秀な音楽一家に生まれ、恵まれた環境に囲まれるものの、敢えて拒否し、家を出ていた。
キツい肉体労働に励み、半ば無理矢理に納得してきたが、ついに彼のフラストレーションは頂点に。

上手くいっていると思われた友人のエルトンは、実はガソリンスタンド強盗を犯し、
仮釈放中に逃走していたお尋ね者で、恋人のレイもウザったくて仕方がない。

暴れたって、怒鳴ったって、何がどう変わるわけでもない。
しかし黙っていても、彼は苛立ちを回避できないし、苛立ちを解消できないのです。

そう、あくまで道徳的に考えれば、ボビーの振る舞いや言動は間違っていると思う。
でも、こういったボビーの姿こそ、人間の盲点というか、弱さを象徴しているんだと思いますね。
人間の行動の全てには、合理性は求められないし、所詮は感情の生き物である。

ボブ・ラフェルソンって、あんまり評価されていない映像作家なのですが、
僕は本作だけで彼の映像作家としてのスタイルは評価されるべきだと思うし、
前述した人間の盲点を鋭く突いたという意味では、実に見事な洞察力を持ったディレクターだと思うんですよね。
確かに主人公のボビーの行動は、いろんな意味で破綻した部分があって、納得性にも欠けるのですが、
言ってしまえば、人間なんてそんなもの。だからこそ、人間を描いた映画として、優れていると思うんですよね。

それが如実に出ているのは、如何にもアメリカン・ニューシネマらしい、
素晴らしい突き放しが待ち構えている田舎町のガソリンスタンドでのラストシーンだろう。

あまりに可哀想な結末と言えばそれまでですが、
僕はこういうアウトローな側面を最後の最後で殺せない、言ってしまえば、人間にとって“悪”な部分を
ものの見事に切り取った、この映画の全てを象徴していると言っても過言ではないと思いますね。

少なくとも、この映画を観る限りでは、ボビーも決定的な悪人とは言えないし、
最後の最後での彼の決断が無ければ、「ナンダカンダで女に弱いヤツなんだ」と片付けられていたはずだ。
彼の実家に暮らす家族は、少し奇異な感じのする連中ではあるのですが、それでも悪人ではない。
ボビーの恋人のレイにしたって、確かに“空気の読めない”女性かもしれませんが、
彼女が自認していた通り、ボビーのような男を愛し続けられるのは彼女しかいないかもしれない。

そういう意味では彼自身、気付いていないが、ボビーは恵まれた環境にあるはずなのです。

しかしながら、それでも彼はそれら全てを裏切るかのように、切り捨てようとします。
僕が感じるに、ボビーはボビーで「大人になり切れない大人」といった感じがするのですが、
そういった何処からともなく湧いてくる苛立ちこそが、この映画を支えていると思いますね。

これこそがアメリカン・ニューシネマのエネルギーの原点だと思いますね。
そういう意味でボブ・ラフェルソンって、ニューシネマ期の映像作家の代表格だと思うんですよねぇ。
あくまで僕の勝手なイメージですが、本作がアメリカン・ニューシネマの代表格って感じなんですね。

それでも本作が完璧な出来とは言えないところは、全体的な作りが粗いことである。
例えば映画の中盤、ボビーが実家で出会ったキャサリンを寝取ろうとするエピソードがあって、
キャサリンを演じるスーザン・アンスパッチが凄く良い雰囲気で好演しているのに、イマイチ彼女が活きない。
これは凄く勿体なかったと思うんですよね。もっと強く訴求する存在となり得たというのに・・・。

徹底的にウザったく、アナーキーな女性風来坊2人組を道中に登場させて、
よりボビーが孤立した存在であることを強調させることができたというのに、キャサリンの扱いは実に勿体ない。

言うまでもなく、主演のジャック・ニコルソンは十分過ぎる貫禄と圧倒的な存在感。
本作の前にも、69年に出演した『イージー・ライダー』で十分過ぎるアピールをしていたけれども、
本作での熱演は『イージー・ライダー』を更に上回る圧倒的なカリスマ性で、立派な反逆児像だ。
まぁ間違っても、当時のジャック・ニコルソンがジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドを意識してたとは
僕は思わないが、それでも70年代型のアンチ・ヒーローを創出するに、十分な名演だと思う。

やっぱり、こういう映画を観て思うのですが、ジャック・ニコルソンの表情が良いですねぇ。
本作なんかでも、とっても多才な一家で英才教育を受けてきた男には見えないのですが(笑)、
それでも彼の上手い芝居のおかげで、妙に説得力がある役どころになっていますね。
やっぱりこの頃からジャック・ニコルソンって、明らかに群を抜いて上手い役者だと思いますよ。

映画は道徳的でもなければ、まるで論理的でもありません。
ハッキリ言って、トンデモない結末を迎える映画であり、とてつもなく理不尽です。

そういった部分も見事に活写したボブ・ラフェルソンの秀作といった感じですが、
この斜めな角度から描いたあたりは、如何にもアメリカン・ニューシネマの映画の典型例と言えます。

どうでもいい話しではありますが...
劇中、ボビーがボーリング場で出会った女性2人組みに声をかけられて、
「アナタ、これ、カツラでしょ?」と指摘されたら、ボビーが「そうだよ」と言い放つのですが、
あれってホントにカツラを装着した頭髪なんでしょうか(笑)。

いや、と言うのも...当時のジャック・ニコルソンのヘアスタイルを見るに、
思わず「そんな髪型なら、カツラを付ける必要はないだろ」とツッコミの一つでも入れたくなるんですよね(笑)。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ボブ・ラフェルソン
製作 ボブ・ラフェルソン
原作 ボブ・ラフェルソン
    エイドリアン・ジョイス
脚本 エイドリアン・ジョイス
撮影 ラズロ・コヴァックス
音楽 タミー・ウィネット
出演 ジャック・ニコルソン
    カレン・ブラック
    ビリー・グリーン・ブッシュ
    ロイス・スミス
    スーザン・アンスパッチ
    ウィリアム・チャーリー
    サリー・ストラザース

1970年度アカデミー作品賞 ノミネート
1970年度アカデミー主演男優賞(ジャック・ニコルソン) ノミネート
1970年度アカデミー助演女優賞(カレン・ブラック) ノミネート
1970年度アカデミーオリジナル脚本賞(ボブ・ラフェルソン、エイドリアン・ジョイス) ノミネート
1970年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ロイス・スミス) 受賞
1970年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1970年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(カレン・ブラック) 受賞
1970年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ボブ・ラフェルソン) 受賞
1970年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(カレン・ブラック) 受賞