ネバーランド(2004年イギリス・アメリカ合作)

Finding Neverland

01年に『チョコレート』で評価されたマーク・フォースターの監督作品。

『チョコレート』に続いて、本作も実に素晴らしい出来の傑作だと思います。
とても感動的であり、訴求力のある映画になっており、できるだけ多くの方々に観て頂きたい作品だ。

劇場公開当時、大ヒットした作品ではなく、あまり評価されずに終わってしまったのが残念ですが、
実に丁寧に作られた示唆に満ちた映画であり、個人的にはとても多くの感銘を受けましたね。

名作『ピーター・パン』の原作者であるジェームズ・バリが、
如何にして『ピーター・パン』を書き上げたかを、4人の息子たちを育てるシングルマザーらとの
心の交流を通して『ピーター・パン』の世界観の想を得て、舞台劇を作り上げていく姿を描きます。
04年度のアカデミー賞で作品賞含む7部門でノミネートされましたが、1部門のみの受賞に留まりました。

日本でもジョニー・デップ人気が追い風となった作品でしたが、
ほぼ話題にならずに劇場公開が終わってしまったことから、あまり評価は高くはなかったのかもしれませんが、
個人的には訴求力のある映画であり、特に終盤にある家での上映会は実に感動的で胸に迫るものがあった。

最近の映画で、ここまで訴求する映画はないように感じましたね。
何故にここまで僕の心を揺さぶるものがあったのか、明確な理由はよく分からないのですが、
映画を観終わって感じるのは、如何に人の心に届くものが尊いかを描けていたことが大きいのではないかと思う。

監督のマーク・フォースターは『チョコレート』の頃から、
時に大胆なアプローチはあるのですが、全体としては実に繊細な演出ができるディレクターであり、
個人的には本作でその方向性が見事な形となって結実したと言っても過言ではないと思います。
そんな彼の作家性と、本作のシナリオが持っていた世界観と、キャスティングが見事にマッチしています。

だからこそ、僕はむしろ本作が過小評価であったのではないかと思えてなりません。
オスカーなどの映画賞はどうでもいいのですが、個人的にはもっとヒットしていても良かったのではないかと思います。

正直言って、この映画の魅力が伝わりにくいというのはあるかもしれません。
『ピーター・パン』をそのまま映画化したということではなく、あくまで原作者であるジェームズ・バリが、
如何にして『ピーター・パン』の世界観を構築し、そのイマジネーションを具現化させようとしたのかを
描いた映画ということもあって、冷静になって考えると、チョット変わった視点からの映画ですね。
(ちなみにこれは、ジェームズ・バリが経験した実話がモデルとなっているらしい)

やはり、当時のジェームズ・バリの発想は周囲から理解されることはなく、
実際に彼が思い描いていた『ピーター・パン』で描かれる“ネバーランド”の世界を、舞台劇という形で
多くの観客に体感させることで、やっと彼が思い描いていたユートピアとも言える物語の世界観の魅力は理解され、
瞬く間に世界中で『ピーター・パン』は名作として愛されるようになります。これは時代性もあったのでしょう。

しかし、こういったなかなか理解されずに苦しみながらも、
名作に昇華させたというエピソードの裏側には、幾多の苦労や苦汁を飲んだ経験もあるはずで、
ジェームズ・バリの劇作家としての道のりが如何に紆余曲折に満ちていたかを感じさせられる映画なのです。

現代的に言うと、ひょっとするとジェームズ・バリは社会に適応し切れず、
“大人になり切れない子供”であったのかもしれません。そのおかげで、せっかく結婚していたにも関わらず、
実にアッサリと妻が浮気をして家出をしますが、バリ自身も決して健全な状態で生活していたとは言い難い。
しかし、これは映画を最後まで観れば分かりますが、バリにとっては必要な期間であったと言えます。

本作はそこまで長い上映時間の作品ではないのですが、
そういったバリの複雑な環境や彼自身の整理のつかない感情を、見事に上手く描けていると思います。

シングルマザーのシルビアと、彼女の4人の子供たちとの交流に夢中になったバリは、
子供好きだったということを越えて、シルビアにもプラトニックな感情を抱くようになります。
バリが“大人になり切れない子供”であったからこそ、子供たちとの交流が引き金となって、
バリは物語の世界観を築くことができたわけで、売れない劇作家であったバリの起死回生の作品となります。

本作は特にラストが素晴らしい。これで傑作になったと言っても過言ではない。
約2分に及ぶバリと末っ子が会話を交わす公園のベンチでのシーンは、チョットした描写ではあるけど、
少年の一つの成長を象徴したシーンであり、ほど良く抑制が利いた演出で実に素晴らしいラストだと思う。

『チョコレート』でも実に上手いラストを描いていましたが、
マーク・フォースターというディレクターは映画のラストに一つ仕掛けを用意するディレクターなようで、
本作は映画の序盤から、ずっと過剰にならないようにと注意しながら描いていたのがよく分かるだけに、
その“調整弁”を上手く調整しながら、見事なラストに昇華させたからこそ、本作に価値があると思います。

生きる上で避け難い近親者の死というテーマを描いているのですが、
決して真正面から描いていないというわけではないにしろ、あまり過剰に演出しようとしなかったことがポイント。

並みのディレクターであれば、ここまで抑制の利いた演出にはできなかったかもしれません。
なかなかできることではないのですが、マーク・フォースターはとてもバランス感覚に優れたディレクターですね。
映画全体の統一感を意識して、建設的な内容の映画に仕上がっていて、映画全体のバランスが良いですね。

最近のハリウッドを見渡しても、ここまでバランス感覚に優れた映像作家は、決して多くありませんね。

マーク・フォースターはハリウッドを代表する映像作家になるものだと期待してたんですがねぇ・・・。
本作の後は05年の『ステイ』を経て、08年に『007/慰めの報酬』を監督するチャンスが与えられたのですが、
どうにも本作までの良さを発揮できずに終わってしまった作品が多いようで、なんだか残念ですねぇ。。。

まぁ・・・観る人によって、意見が大きく分かれる作品ではあるでしょうが、
個人的にはそう簡単に切り捨てて欲しくはない作品であり、いつまでも大切にしたい一作です。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 マーク・フォースター
製作 ネリー・ベルフラワー
    リチャード・N・グラッドスタイン
脚本 デビッド・マギー
撮影 ロベルト・シェイファー
衣装 アレクサンドラ・バーン
音楽 ヤン・A・P・カチュマレク
出演 ジョニー・デップ
    ケイト・ウィンスレット
    ジュリー・クリスティ
    ラダ・ミッチェル
    ダスティン・ホフマン
    フレディ・ハイモア
    ニック・ラウド
    ジョー・プロスペロ
    ルーク・スピル
    イアン・ハート
    ケリー・マクドナルド

2004年度アカデミー作品賞 ノミネート
2004年度アカデミー主演男優賞(ジョニー・デップ) ノミネート
2004年度アカデミー脚色賞(デビッド・マギー) ノミネート
2004年度アカデミー作曲賞(ヤン・A・P・カチュマレク) 受賞
2004年度アカデミー美術賞 ノミネート
2004年度アカデミー衣裳デザイン賞 ノミネート
2004年度アカデミー編集賞 ノミネート
2004年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
2004年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞音楽賞(ヤン・A・P・カチュマレク) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2004年度ユタ映画批評家協会賞主演男優賞(ジョニー・デップ) 受賞
2004年度ユタ映画批評家協会賞監督賞(マーク・フォースター) 受賞