小説家を見つけたら(2000年アメリカ)

Finding Forrester

ブロンクスに暮らす優秀な黒人青年が、友人にけしかけられて“幽霊”がいるとされる
アパートの一室に不法侵入し、後日、その部屋に暮らす老人に謝罪に行ったことをキッカケに
交流を重ね、実はこの老人が名作と評価される大傑作小説の著者であることを知り、文才を磨く姿を描いたドラマ。

監督は97年に『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で高く評価されたガス・ヴァン・サントで、
確かに本作のタッチもどことなく同作に似ている。ちなみに本作のラストにマット・デイモンがカメオ出演している。

映画の出来自体はとっても良いと思います。映画の前半は少しエンジンのかかりが悪いような印象で
僕は映画の世界に少し“入りにくい”印象があったのだけれども、ショーン・コネリー演じるウィリアムが
久しぶりに外出するマディソン・スクエア・ガーデンでのエピソードあたりから、映画はグッと良くなってくる。
やはり、ウィリアムが青年期の自分に想いをはせる野球場でのシーンは、なんとも言えない感動があると思う。

主演のショーン・コネリーは本作を観ていると、まるでもう引退の準備をしていたのかなと
思わせられるぐらい、役者としてのキャリアの総決算と言わんばかりに、まるでジャマール役のロブ・ブラウンを
立てているように見えて、なんだか微笑ましい存在感。事実、03年以降は俳優業がを引退状態になりました。

ロブ・ブラウンはよく頑張りましたね。最近もテレビ俳優として活躍しているようですが、
本作撮影当時、ジャマールの設定と同じく15〜16歳だったというから、この表現力には驚きです。

それだけではなく、クロフォード教授を演じたフランク・マーリー・エイブラハムも
ジャマールと“イイ仲”になる学友のアンナ・パキンもしっかりと彼を支える感じがあって、良い安定感がある。

このクロフォード教授、とてつもなく性格が悪く、身近にいたら嫌なタイプなのですが、
講義の中でも、生徒を詰問することで自分の威厳を保つという、教育者というより支配者のような発想だ。
ある意味で権威主義の象徴とも言うべき人間であり、僕なら我慢ならないのでこんなヤツの講義は受けない(笑)。

ジャマールは随分と辛抱強く、クロフォードのやり方に耐えますが、
「教室では私に恥をかかすな!」とか謎の罵りを受けた時点で、僕ならもうアウトですね(笑)。
現実にもこれに近い人って、いるような気がしますが、相手に「どうせ分からんだろう」と決め込んで、
次々と出題を繰り返して、相手をやり込めようとする手口が教育者とは思えないほど、傲慢な人間に見える。
それでも、クロフォードは立場的にジャマールを追い込むことができるのだから、余計にタチが悪い人間ですね。

常に相手を優越した立場に自分を置かないと、自分の気が済まないタイプのようで、
そんな嫌な奴をフランク・マーリー・エイブラハムが、オーバーアクトにならない程度に見事な助演に徹している。

年老いた師匠と青年という組み合わせは、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』なんかもそうですが、
小説家としての苦悩を描いたという意味では、ストーリー展開は全く異なるものではありますが、
00年の『ワンダー・ボーイズ』を思い出させられる。こういう物語は、ハリウッドでも映画化され易い題材なのでしょう。

現実にはなかなかこういう物語って無いような気がしますが、
でも、人生の転機に人との出会いがあったというエピソードは数多くあります。多くが後付けだとは思いますが、
それでも万国共通で、人との縁というのは人生を大きく動かす原動力になり得るものだということですね。
この映画で描かれるジャマールにしても、ウィリアムとの交友がなければ、ずっと“埋もれて”いたかもしれません。

別にウィリアムがジャマールを成功させたいと思っていたわけではありませんが、
ジャマールが良い環境にめぐり会えて、人生を変えることが前へ進む原動力になることは確信していたと思う。

ガス・ヴァン・サントの演出は思いのほか堅実で、すっかりこの路線が板に付いてきましたね。
『ドラッグストア・カウボーイ』からハリウッド資本で映画を撮るようになりましたが、あの頃の作風からすると、
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や本作のような映画を撮れるなんて、随分と器用なディレクターになりましたね。

本作はやっぱり、ショーン・コネリーの撮り方が良い。外に出てくるシーンのファッションがオシャレということもあるが、
自転車に乗ってニューヨークの市街地を疾走する後ろ姿など、どこかレトロな演出ではあるものの、実にカッコ良い。
僕もああいう70歳になりたいと思ったけど、ショーン・コネリーの渋い魅力があるがゆえの特権なのかもしれません。

ジャマールはウィリアムとの出会いで文才を磨くという展開ですが、
バスケの腕前もプロを狙えるぐらいの実力との評価で、誘われた私立の進学校でバスケのチームで
主力選手として活躍するという多才ぶりだ。優勝を指示された試合で1点ビハインドの試合終了間際、
ジャマールがファウルをもらって、得意のフリースローとなりベンチの監督が勝利を確信するシーンがありますが、
ウィリアムからの指摘されましたが、ジャマールがフリースローを故意に失敗したのではないかと疑われるシーンがある。

確かにウィリアムの指摘通り、いつものジャマールなら最低1本は決めていたであろうと思われるだけに、
彼の能力と知能をもってすれば、何かしらの意図がある失敗に見える。真相は最後までベールに包まれたままですが。

このバスケのエピソードについては、もっと映画の終盤でも描いて欲しかったなぁ。
能力の高いジャマールにとっては、ある意味で苦渋の決断を強いられることもあったかもしれず、
学業とスポーツ、どちらに軸足を置くのかという彼なりの人生の決断を、是非、映画の終盤で描いて欲しかった。
ティーンなので、無限の可能性を秘めているとは思うが、18歳前後って、結構、人生の方向性を決める時期ですから。

そんな人生の大事な時期に、ジャマールはウィリアムと交友を持てたことで、
彼の人生は豊かなものになることでしょう。不法侵入のエピソードが軽く扱われているのは気になりますが、
結果として、ウィリアムにとってもジャマールとお近づきになったことで、外の世界へ踏み出す勇気をもらったわけで。

が、ただ、一つ気になるのは、映画の最後に“ひと押し”が無かったことだ。
過剰な演出に走らなかったことは本作の良さでもあるとは思うけど、少々、全体的に淡々とし過ぎている。
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』にはあった、秘めたる強いエネルギーは本作には希薄と感じました。
ジャマールの将来の方向性をハッキリと示さないことに象徴されるように、最後の“ひと押し”が無いのは残念だ。

俗っぽく言うと、「感動のドラマ」と言えるほど、胸を揺さぶるものは無いということだ。
確かに映画の仕上がりが上質で、ガス・ヴァン・サントが成熟しドラマ演出を安定的にできることは証明した。
主演のショーン・コネリーがキチッと存在感を示していて、脇も含めてキャスティングは抜群に機能的。
それなのに、映画の最後にこのシーンで“ひと押し”してやる!という気概を感じさせない終わり方なのです。

これは勿体ない。ジャマールの成功でも良いし、ウィリアムからの教訓でも良いし、
何かしらもっと強調して、本作にとっての決定打となるものが欲しかった。どこか当たり障りの無い終わり方に見える。

それにしても、ウィリアムが約50年前に書いたデビュー作って、どんな内容なのか知らないけど、
小説を1本当てて、名作として愛されているというだけでニューヨークで隠居生活を送れるって、スゴい話しだと思う。
それなりに貯蓄もあるような雰囲気で描かれているし、未だに買い物を届けてくれる“お手伝いさん”がいる。
本の印税はスゴいと聞いたことがありますが、電子図書の時代になりつつある今、どのように変容しているのだろう?

正直、そうとうなメガヒットでない限りは、ウィリアムのような生活を送れないと思うのですが、
一人塞ぎ込んだように次の作品を書かないし、外出もしないのだから、ウィリアムの“闇”も深かった。
そこにジャマールの登場というわけで、ジャマールの存在はウィリアムにとっても救世主だったわけですね。

(上映時間136分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ガス・ヴァン・サント
製作 ショーン・コネリー
   ローレンス・マーク
   ロンダ・トレフソン
脚本 マイク・リッチ
撮影 ハリス・サヴィデス
出演 ショーン・コネリー
   ロブ・ブラウン
   フランク・マーリー・エイブラハム
   アンナ・パキン
   バスタ・ライムズ
   マイケル・ピット
   マイケル・ヌーリー