ファム・ファタール(2002年フランス・アメリカ合作)

Femme Fatale

カンヌ国際映画祭を舞台に、ゲストのフランス人女優が身にまとう、
ダイヤモンドをあしらった衣装を強奪しようと目論む強盗団のメンバーである女性を主人公に、
アメリカ大使やパパラッチを巻き込んだ、ダイヤ争奪を巡る抗争に発展する様子を描いたサスペンス映画。

98年の『スネーク・アイズ』はそんなに悪くなかったブライアン・デ・パルマが監督。
正直言って、あんまり期待はしていなかったのですが、いやいや、この映画も良かったですよ。

チョット大袈裟な言い方かもしれないけど、ひょっとしたらここ数作で有数の出来かもしれません。
(『スネーク・アイズ』もラスト5分前までは傑作と呼んでも、いいぐらいの出来ではあったのだけれども・・・)

まぁブライアン・デ・パルマは『スネーク・アイズ』の後に、
何を思ったか00年に『ミッション・トゥ・マーズ』なる火星映画を撮って、SF映画にチェレンジしたのですが、
チャレンジ精神だけで終わってしまったような中途半端な映画で、見事に失敗した後なだけに、
本作では原点回帰と言わんばかりに、彼の持ち味をフルに活かしたような内容になっていますね。

そしてこの映画のバランスの良かった部分って、
決してテクニックひけらかしの映画で終わっていない点で、それなりに全体構成も意識されている。
この点はデ・パルマの初期の映画とは、大きく異なる成長の証と言ってもいいだろう。

そんなに大きな展開のある映画ではないし、目新しいシナリオではないけれども、
そんな部分を見事に補う撮影スタイルのカッコ良さで、これは見事に刺激的なフィルムになっていると思う。
鳴り物入りでカンヌ映画祭で上映された結果、酷評されたらしいのだけれども、それはチョット意外。
ここ数作のデ・パルマの監督作品としては、かなり良い出来と言っても過言ではないと思うんだけどなぁ。

個人的に、これは雰囲気で押す映画だと思ってはいるのですが、
映画の序盤にあった、扉越しの衣装強奪シーンはもう少し緊張感を持って描いて欲しかった。

このシーンはハッキリ言って、デ・パルマの趣味以外の何物でもないような気がするのだが(笑)、
もう少し違った形での表現はあったと思うし、シチュエーションの安直さが悪い意味で目立っちゃっていますね。
この辺のお粗末な部分ってのは、如何にもデ・パルマが書いたシナリオって感じで、ご愛嬌なのでしょうか。

あと、劇場公開当時から言われていましたが...
タイトルは「宿命の女」を意味するのですが、このヒロインは「宿命の女」って感じではないかな。
もし、どうしても「宿命の女」ということを強調したいのであれば、少なくとも彼女を主役にしてはいけません。
アントニオ・バンデラス演じるパパラッチを主人公にして、彼の目から見たという視点でなければ、
どうしたって、「宿命の女」で彼女をどうしても避けられない...というニュアンスは出ませんね。

但し、この映画で何より嬉しいのは、デ・パルマが実に楽しそうに映画を撮っていること。
まず単純なことだけど、カメラがよく動く、動く。でも、別にそれが落ち着きのない映画にするわけでなくて、
空間を感じさせるように移動感を活かして動くものだから、より奥深いカメラワークと言っていい。
これは無駄にカットを割りまくって、目まぐるしくショットの変わる、疲れる映画とは訳が違います。

相変わらずの画面分割、リフレインの効果的な活用など
かつてのデ・パルマの持ち味と言っていいテクニックも、ほど良く映画に調和しているのも良いですね。

これらが、これ見よがしに披露されていたら観ていて嫌になっちゃうんだけど、
デ・パルマ自身も楽しそうに、そして全体の構成の中で調和した形でフィットしているものですから、
トータル的に考えると、僕はこの映画、ひじょうに良く出来ていると言っていいと思うんですよね。

ヒロインを演じたレベッカ・ローミン=ステイモスの抜群のプロポーションも凄いけど、
映画の序盤に登場する、ほとんど裸同然のモデル、ヴェロニカの衣装もある意味で凄くって(笑)、
こういう下世話な意味でいかがわしいところも、デ・パルマの映画のチープさを象徴している。

なので、僕はこの映画、もどかしさを感じていたデ・パルマの原点回帰だったのだろうと思うんですよね。

デ・パルマって、これまでいろんな映画を撮ってきたけれども、
それら一つ一つは失敗もあったけれども、決して無駄なものではなかっただろうし、
そういった失敗の中で反省をしたり、周囲の助言・アドバイス・注文を聞いてきたのではないかと思う。
そんな中で、どういった形で原点回帰して、どんな形で表現したらいいかってのが、本作みたいな作品なのです。
(寂しい出来と思われるかもしれないけど、本作のような成熟感ってのは、初期には出せなかったと思う・・・)

多少、安っぽい部分は残っているけど、
つまらないミステイクをおかしていないあたりを見るに、デ・パルマが成長し続けている証拠だと思うんですよね。

と、何故かデ・パルマを持ち上げることに終始しましたが(笑)、
何故、僕がここまで持ち上げるかと言うと、この作品に対する評価が不当なまでに低いような気がするからで、
決して02年度を代表するマスターピースというほどではありませんし、もっと良い出来の映画は他にあります。
デ・パルマにもこんなレヴェルで満足してもらっては困りますし(笑)、やればもっと出来るはずです。

要するに、このまま埋もれてしまうには、あまりに勿体ない出来だということです。

最後に、敢えて細かい部分に注文を付けるとすれば...
デ・パルマが好んで使っている坂本 龍一のスコアが、今回はあんまり目立っていないところかなぁ〜。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 タラク・ベン・アマール
    マリナ・ジェフター
脚本 ブライアン・デ・パルマ
撮影 ティエリー・アルボガスト
編集 ビル・パンコウ
音楽 坂本 龍一
出演 レベッカ・ローミン=ステイモス
    アントニオ・バンデラス
    ピーター・コヨーテ
    エリック・アブアニー
    エドゥアルド・モントート
    ティエリー・フレモン
    グレッグ・ヘンリー
    リエ・ラスムッセン
    フィオナ・カーソン