危険な情事(1987年アメリカ)

Fatal Attraction

一夜限りの情事のつもりが、不倫相手の女性から執拗につきまとわれ、
やがては常軌を逸したストーカー行為に悩まされる様子を描いたサイコ・サスペンス。

これはエイドリアン・ラインらしい作品ではあるのですが、
並みのストーカーを越える存在になっていく女性編集者アレックスを演じたグレン・クローズの怪演が
あまりに強烈で、これは確かに映画史に残る傑出したキャラクター造詣と言っていいと思う。

特に映画のクライマックスで、家に勝手に侵入してペットにトンデモないことをしたり、
娘を勝手に連れ出して遊園地に連れてったりと、行動がエスカレートしていくのが怖いですね。
かつてイーストウッドの『恐怖のメロディ』なんかで、ストーカーの“はしり”の存在は
映画の中で描かれてきましたが、さすがにここまでのインパクトはありませんでしたからねぇ。

これでマイケル・ダグラスのイメージが決定づけられたという意味でも、
価値ある作品でもあるのですが、ただ自らの浮気がトンデモない展開を招き、
家族を危険に貶められながら、浮気相手に怒りをぶつける姿、そして必死に浮気を家族に隠そうとする
様子などを表現させるには、凄く上手いと感じますね。これを引き出したエイドリアン・ラインも素晴らしいです。

まぁ映画の内容としては、
途中でダンに刑事が言い放つ、「自分の蒔いた種だから...」というセリフが全てを表していますね。

まぁ確かに“男は浮気する生き物”と言えばそれまでなのかもしれませんが、
美しい妻、可愛い娘、やりがいのある職業、満足できる社会的地位、恵まれた家庭財政状況、
気の合う仲間たちと、いろんな意味で恵まれた環境にあるにも関わらず、ダンは浮気な心を抑えられません。

それが人間の業の深さなんだけれども、
シビアに言ってしまうと、最悪の結末に至ってしまう可能性はあったわけで、
アレックスからのストーカー行為に悩まされても、やっぱり基本は“自分の蒔いた種”なんですね。

映画の序盤は、チョットした軽い気持ちで誘ったランチのレストランでの会話が
いつの間にかキワどい内容になり、お互いに誘い合って、2人が欲情し合い、
一気に情事に至ってしまう流れを、かなり踏み入った性描写を交えて描いており、
それが映画の終盤には、まるでホラー映画ばりのショック描写が中心に変貌してしまいます。

しかし、そんなドラスティックにエスカレートしていく引き金を引いたのは、ダンなんですね。

この映画が大きな警鐘を鳴らしたのは、ダンの行動に見られる、男の身勝手さだろう。
それは映画の中盤、地下鉄の駅のコンコースで、ダンが突然、アレックスから妊娠したと告げられるシーンで、
ダンは家族に知られたくない一心で、「責任を果たす」という勝手な言葉を基に、中絶費用の工面を説明し、
当然のようにアレックスを納得させようとしますが、これほど身勝手な一方的な行動はないですね。

家族を不幸にしたくないというダンの感情は理解しますが、
アレックスの感情を逆なでする要因になったことは明白であり、こういった身勝手さに対する警鐘ですね。

ここから始まる急転直下のジェットコースター・ムービーではあるのですが、
当初、観たときは雑な印象が残ってしまい、あまり僕の中での印象は良くなかったのですが、
エイドリアン・ラインの作家性を考慮して観ると、意外に良く出来た作品であることに気づかされましたね。

ちなみに本作は“もう一つのエンディング”があるのですが、
その“もう一つのエンディング”を編集して、映画館で再上映されたこともあるらしいのです。
今はDVDの映像特典として収録されておりますので、容易に観ることができるのですが、
まぁ僕としては本編のオリジナル・ヴァージョンで良かったと思いますね。

しかし、映画の展開としては本編の方が良かったとは思うのですが、
クライマックスの攻防がどうしても雑に描かれているように見受けられるのが、少し残念ですね。
このヒッチコックの『サイコ』ばりにナイフを振り回す姿には、あまり映画としての魅力は感じませんでしたね。

まぁ浮気な心に一石を投じる内容の映画ではございますが、
エイドリアン・ラインって、浮気な心を走らす人間を描かせたら天下一品ですねぇ(笑)。

02年の『運命の女』もそうだったのですが、
越えてはいけないラインであると分かっていながらも、越えてしまう人間の業の深さ、
そしてどんなリスクであっても顧みず、突き動かされる瞬間を描くのが、とても上手いですね。
特に本作、冒頭のレストランでのランチのシーン演出がとても秀逸だったと思います。

まぁグレン・クローズ演じるアレックスは最初のパーティでの登場シーンから、
一体何を考えているのかよく分からない雰囲気があって、セクシーな美女と言うにも、
やや無理があるように思うのですが、その特別視されない女性像というのが、逆にリアルなのかもしれない。

しかし、思いつめてしまって、何度も執拗に電話をかけたり、
寝室で放心状態で電灯を点けたり消したりするシーンにしても、少し同情を誘う空気があり興味深い。
あながちエイドリアン・ライン自身も、彼女に同情的な眼差しを向けていたことは否定できないだろう。

女性よりも、どちらかと言えば、男性が観た方がいい作品なのかもしれませんけどね。。。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 エイドリアン・ライン
製作 スタンリー・R・ジャッフェ
    シェリー・ランシング
脚本 ジェームズ・ディアデン
撮影 ハワード・アサートン
音楽 モーリス・ジャール
出演 マイケル・ダグラス
    グレン・クローズ
    アン・アーチャー
    スチュワート・パンキン
    エレン・ハミルトン・ラッツェン
    エレン・フォーリー
    フレッド・グウィン
    メグ・マクディ

1987年度アカデミー作品賞 ノミネート
1987年度アカデミー主演女優賞(グレン・クローズ) ノミネート
1987年度アカデミー助演女優賞(アン・アーチャー) ノミネート
1987年度アカデミー監督賞(エイドリアン・ライン) ノミネート
1987年度アカデミー脚色賞(ジェームズ・ディアデン) ノミネート
1987年度アカデミー編集賞 ノミネート
1988年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞