イグジステンズ(1999年カナダ・イギリス合作)

Existenz

いやはや、変わらぬデビッド・クローネンバーグのグロテスクな映像感覚が爆発してる映画ですね。

複雑な事情から脊髄に“ポッド”と呼ばれるグロテスクなポートを接続して、
バーチャル世界にて展開されるゲームを楽しむことになった男女が、意図の分からない抗争に巻き込まれ、
やがては現実とゲームの世界の境界線が分からなくなってしまい、現実世界の感覚が麻痺する姿を描きます。

まぁ・・・おそらくデビッド・クローネンバーグとしては、
独特な世界観を意識した作品でいつも通りではあるのですが、今回はとにかくグロい(笑)。

チョットした映像表現でもグロくて、音も実に生々しいので、
あまりにグロテスクな表現を施した映画が苦手な人には、間違ってもオススメできません(笑)。
決して観る者を怖がらせるような描写は無いのですが、このグロテスクさはかなり独特なもので、
僕もこの徹底ぶりには根負けしてしまって、「よくもまぁ〜・・・ここまでやったもんだ」と笑ってしまった。

正直、映画としては小ぶりな感が否めず、
破綻した世界を表現したというほどでもなく、オチの付け方も90年代後半に流行った付け方ではあるので、
あまり高く評価するに値するとまでは言えないのだけれども、やはりここまで徹底した映像表現で
独特な世界観を作り上げた、デビッド・クローネンバーグのスタイルは凄いと思いますね。

彼の映画が好きな人には、そこそこ安心できる作品にはなっています。

時おり、乾いたユーモアを感じさせる作品でもあって、この辺もデビッド・クローネンバーグらしいですね。
特に映画のクライマックスでゲームの中でガソリンスタンドを経営するガスとして登場したウィレム・デフォーが、
「オレは最初の少しだけしか登場せず、出番が少なかったけど...」なんて“事実”を言わせるなんて、
僕にはデビッド・クローネンバーグ流のギャグとしか捉えられず、少しずつ遊び心を感じさせる作りなんですよね。
(ひょっとして、この映画でのウィレム・デフォーはゲスト出演扱い?)

また、“ポッド”を刺すためにと、背中に艶かしい穴を開けるのですが、
これもまたデビッド・クローネンバーグらしい卑猥なデザイン造詣で(笑)、何もかもがいかがわしく見えます(笑)。

今時、ジェニファー・ジェイソン・リーを出演させているあたりも、
何かデビッド・クローネンバーグの狙いが見え隠れするのですが(笑)、このキャスティングも絶妙でしたね。
当時、イギリス出身の映画俳優として知名度を上げつつあったジュード・ロウも、まるで彫刻のような
顔の彫りの深さが特徴的で、これを逆手にとって映画のイメージに活かしたようで、
ゲームという作り物の世界に上手くフィットするように配慮されたキャスティングであるように感じましたね。

この2人がゲームの世界で、更に“ポッド”をはめ込み、
何かに突き動かされるように愛し合い始めるというエピソードなど、見事に映画のカラーにハマって、
ゲームに参加することを、人間の快楽と喩えており、2人は上手く映画を彩っていましたね。

彼が突如として、ゲームの世界から抜け出したいと意思表示するために、
「イグゥジステェーンズ...イズ ポーズゥ!」と無表情で叫ぶシーンが、何故かヤケに印象的です。

訳の分からんクリーチャーのガイコツでできたような銃をブッ放すのですが、
これも中華料理屋のグロテスクな“スペシャル料理”を食べてたら、しゃぶりついてた骨を組み立て、
最終的に義歯を合体させたら、完成して、トリガーを引いて銃弾を発射すると、血液らしき赤い粘液が
ダラダラと銃から垂れ落ちるという描写にしても、無意味に気持ち悪い悪趣味な世界だ。

が、「これがデビッド・クローネンバーグという映像作家なんだ」と思って、これは諦めるしかないですね(苦笑)。
逆に彼の映画のファンに質問すると、「これが無いと、寂しいぐらいなんだ」という答えが返ってきそうです。

しかし、このゲーム...複数人で同時参加できるゲームで、
当然のように勝ち負けが付くゲームなのですが、仮に途中、ゲームの世界で殺されてしまったら、
自分の立ち位置って、どうなるんだろう?という根本的な疑問がどうしても拭えませんね。

幾重にも重なり合うゲームの世界という、まるで迷路のような世界にハマり込み、
現実とゲームの世界の区別がつかなくなってしまうのですが、さすがはデビッド・クローネンバーグ、
独特な映像感覚を見せながらも、風貌通り、少し堅物な側面というか、本作には説教臭い部分もあって、
革新的なゲームをデザインするのはいいけど、場合によってはデザイナーが恨まれる可能性があるという、
チョットした教訓が映画の中で描かれており、その不条理がラストでも描かれるなど複雑な面もあります。

但し、言わずもがな、本作は間違いなく好き嫌いがハッキリと分かれる作品です。
万人ウケするタイプとは言い難いし、デビッド・クローネンバーグの作家性にある程度の理解が必要です。
フツーにSF映画を観る感覚でいきなり本作を観てしまうと、全然、楽しめない可能性があります。
特に動物の解剖など、生々しいグロテスクな描写が苦手な人には間違ってもオススメできない作品です。

それと、映画のテーマとは強い関係がないので別に支障は無いのですが、
僕は本作の場合、ジェニファー・ジェイソン・リー演じるゲラーが巻き込まれる、
“リアリスト”とゲーム会社との対立の構図を、もっと分かり易くした方が楽しめたと思うんですよね。
どうも無理に、映画の中で謎かけをしようとし過ぎた傾向が強く、伏線を張ることを意識し過ぎた感があります。

こういう作業はデビッド・クローネンバーグはいつも違和感なくやり遂げるのですが、
どうも構図を複雑にし過ぎた印象があり、もっとシンプルに映画を撮った方が良かったと思いますね。

この映画を観終わったとき、何故か僕はどうしても背中に穴がないか気になって仕方がなかった(笑)。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・クローネンバーグ
製作 ロバート・ラントス
    アンドラス・ハモリ
    デビッド・クローネンバーグ
脚本 デビッド・クローネンバーグ
撮影 ピーター・サシツキー
音楽 ハワード・ショア
出演 ジェニファー・ジェイソン・リー
    ジュード・ロウ
    イアン・ホルム
    ウィレム・デフォー
    クリストファー・エクルストン
    サラ・ポーリー
    ドン・マッケラー
    カラム・キース・レニー

1999年度ベルリン国際映画祭芸術貢献賞 受賞