ダラスの熱い日(1973年アメリカ)

Executive Action

しっかし、いくら仮説の映画化とは言え...
これはケネディ大統領暗殺事件から、わずか10年後の映画として考えるなら、
これは実にセンセーショナルでトンデモない映画であることは間違いないですね(笑)。

徹底して地味な映画ではありますが、
大胆な発想とは言え、一つ一つのエピソードを積み上げながら、
一つ一つのシークエンスを弁証していくスタイルをとっており、この姿勢は好感が持てる。

正直言って、映画があまり政治的に傾倒していくのは好きじゃないんだけれども、
ユニークかつセンセーショナルな題材に溺れることなく、丁寧に映画を構成したのは正解でしたね。

また、主演のバート・ランカスターが地味なのですが(笑)、
とっても良い味を出していますね。この恐ろしく地味なキャストがまた、利いています(笑)。
あまり有名な映像作家ではありませんが、デビッド・ミラーの役者の使い方が良かったのでしょう。

本作も某レンタル・ショップによる企画で、DVDとして復刻されたのですが、
是非とも正規に販売して欲しいですね。まず第一段階として、DVDの復刻が実現したわけですから、
次は権利を持っている映画会社が正規に発売するように動いて欲しいですね。

映画はあくまでドキュメンタリー・タッチで綴っているのですが、
実は凄い題材を映画化しているというのにも関わらず、あくまで冷静かつ客観的にストーリーを語り、
徹底して硬派に押し通した作り手の強さが、実にシブくてカッコいい映画で僕は好きだなぁ。
最近はこういう映画を撮れるディレクターが少なくなっただけに、ホントにこういう映画は貴重ですね。

91年にオリバー・ストーンが『JFK』を撮りましたが、
ひじょうに熱い政治映画になったのに対し、本作はどちらかと言えば、クールさがありますね。

それにしても...かなり大胆な仮説を基に映画化しており、
それを極めて冷静に語ってしまうと、さすがに映画も真実味を帯びてくるし、なんだか怖くなってきますね(笑)。
いわゆる政治スリラー映画としても、十分に評価できる出来と言ってもいいと思いますね。

映画はケネディ大統領がダラスで暗殺された63年の実話を基に、
その裏側でトンデモない陰謀が渦巻いていたのではないかと大胆な仮説を打ち立てています。
ケネディ大統領は、様々な話題性ある政策を出してきましたが、それらを面白く思っていなかった
政治家は当然いたわけで、彼らは密かにケネディ大統領を綿密に計画しているという仮説で、
実に細かな部分までケアしながら、それでいながら実にコンパクトにまとまっているのに感心しました。
(映画の中では要点しか描かなかったとは言え、90分という経済的な時間にまとめたのは流石)

まだケネディ大統領暗殺事件を、捜査するサイドから分析するというのなら、
よくあるタイプの映画になりますので分かるのですが、本作は暗殺者の観点から描いています。

本作公開は、まだ暗殺事件から10年弱という期間で製作されたのですが、
かなり事件の核心に迫る部分もあり、これを映画化するというのは、かなり勇気のいる決断だっただろう。
実際に観てみれば分かるかとは思われますが、かなり議論を呼ぶ陰謀説を唱えている映画ですね。

まぁこんなに上手く計画通りに、陰謀が進むというのも、にわかに信じ難い部分はあるし、
ディティールを突けば、色々と疑問点はある映画なのですが、それでも語り口が冷静だったせいか、
「ひょっとすると、これが真相なのではないか?」と観客に思わせる説得力は有していると思いますね。

映画の序盤で語られていますが、
暗殺のために狙撃のスキルを磨いていくトレーニング・シーンが印象的で、
最初はターゲットが的であったのに、次のステップでは実寸の人形に変わり、
最終トレーニングでは、ライフルではなくカメラを使うという、プログラムを組んでおり、
次第に狙撃者がテクニックに精通していく過程がしっかりと描かれているのは面白かったですね。

ちなみに脚本のダルトン・トランボは71年の『ジョニーは戦場に行った』の監督を務めました。
脚本の詳細など、僕には分かりませんが、映画のバランスが上手く保たれているというのは、
ダルトン・トランボの書いたシナリオが上手く構成されていたことを意味してるんでしょうねぇ。

今となっては、やや忘れ去られたような存在の映画ではありますが、
今回の復刻をキッカケに今一度、観直す機運が高まれば面白いですね。
そういう意味でも、是非ともできる限り多くの方々に観て頂きたい一本で、再評価に値します。

この映画で描かれていたこととして、もう一点、大きくフォーカスしているのは、
ケネディ大統領を取り巻くシークレット・サービスによる警護は“ザル”であることが、筒抜けだったという点だ。

まぁ機密情報が犯人グループに簡単に漏れてしまう、
或いは機密情報を知り得る人間が、簡単に寝返ってしまうということ自体が問題なのですが、
大統領パレードが政治的にとても意味合いが大きくなり、警護しづらい環境を作ってしまい、
結果として警護が“ザル”になってしまわざるをえなくなったことは、大きな問題ですね。
(ちなみにこの警護側の苦悩は93年の『ザ・シークレット・サービス』で語られている)

僕は出来の悪い映画は風化しないものだと信じたいのですが、
やっぱり取り巻く環境も大きく影響するものだと思います。ですから、本作を是非、簡単に観れるように
したいんですよね。そうすればきっと...本作に対する再評価の機運も高まるはずなのです。。。

全然、古びていない、クールな政治映画として、是非とも再評価を!

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 デビッド・ミラー
製作 エドワード・ルイス
原作 ドナルド・フリード
    マーク・レーン
脚本 ダルトン・トランボ
撮影 ロバート・ステッドマン
音楽 ランディ・エデルマン
出演 バート・ランカスター
    ロバート・ライアン
    ギルバート・グリーン
    ウィル・ギア
    ジョン・アンダーソン
    エド・ローター