毎日かあさん(2011年日本)

漫画家、西原 理恵子が02年から連載していた同名漫画の映画化で、
アルコール依存症と闘い続けた戦場カメラマンの夫に悩まされながらも、
子育てに奔走する毎日を暖かなタッチで綴ったホームドラマで、実際に夫婦だった過去があり、
離婚した経緯がある、小泉 今日子と永瀬 正敏が異例の共演を果たしたことで話題となった作品。

これは観る時期によって、感じ方・受け止め方が大きく変わってくる作品かもしれない。

映画の出来としては、そこまで良いものではないように思えるけれども、
今、子育てをする日々を過ごしている立場なので、どこか強く響くものがある映画でもあった。
やはり、体重を落としてまで役作りに励んだ、永瀬 正敏の気合が凄まじいものを感じる映画ですね。

まぁ・・・実生活で夫婦だった永瀬 正敏と小泉 今日子ですが、
TVドラマでの共演を経て、本作ではついに夫婦役を演じてしまうというのが、凄い役者魂!

あくまでプロフェッショナルですから、離婚した過去など関係ないのでしょうが、
公私混同しがちな私にはチョット考えられないことで、よく最後まで演じ切ったものだと感心してしまいます。
本作で演じた夫婦も、アルコール依存症との闘いから離婚を選択するわけですから、ある意味で現実味があります。
本作劇場公開当時、永瀬 正敏も小泉 今日子もお互いに褒め称えており、やはり2人とも“役者”なのでしょうね。

本作はストーリーの賛否はあれど、僕は映画の出来は悪くないと思います。
いや、むしろ落ち着いた日本映画の良さも兼ね備えた、質の高い作品であったとさえ思います。

個人的には漫画が原作の映画化であるゆえの宿命かもしれませんが、
夫婦が出会ったときのエピソードを、まるで学芸会のようなノリで撮った部分はどうしても好きになれないが、
それ以外の部分はなかなかの出来。キャスティングにも恵まれたとは言え、主演2人のコンビネーションの良さを
“引き出した”のは本作の作り手であると思うし、そのおかげで映画の出来が格段に良くなったと思う。

それくらい、本作にとってキャスティングとは、大きなものであったはずです。

事実、僕はトラウマに悩まされ、アルコール依存症と闘った父親を演じた永瀬 正敏は凄く上手いと思った。
映画の終盤で日常の何気ない光景を、無言でカメラにひたすら収めているシーンでは胸に迫るものがある。
これは本作で最も意味のあるシーンであったと言っても、僕は過言ではないように思えます。

子育てが実に大変なものでありながらも、如何に尊いことであるかを象徴しているのにも感心。
今、私自身にとって子育てが現実のものとしてあるからこそ受け止め方が、より現実感に溢れているのかもしれない。

自分の死期を悟ったときに、自分が生きた証(あかし)を残したいという気持ちであったり、
楽しかった時代の土地で最期を迎えることを懇願したり、日常の一コマを記憶と記録に残したいとする気持ちは
誰だって思うことがある感情であろうし、そんな気持ちを無邪気に接してくれる子供たちに隠しつつも、
最期の時間を共に過ごすということは、とても幸せなことであり、実は少しばかりツラい時間でもあるのかもしれない。

そんな僕の勝手な推測も混ぜながら本作を観ていると、
なんだか複雑な想いに浸るし、親となった自分と、親になる前の自分とでは本作の受け止め方は違うのだろう、
そしてそういった映画というのは、他にもいっぱいあるのだろうなぁと思わず考え込んでしまった。

本作は西原 理恵子の実話をモデルにしているそうですが、
戦場カメラマンであった夫と死別後、彼女は有名になり、今は某クリニック会社のオーナーとの交際で有名ですが、
彼女なりに充実した人生を送っているようで、やはり女性は強いですね(笑)。男なら、こうはいかないかもしれません。

本作はあくまで母親の目線から描いた作品となっていますが、
いざ親になったら余計に実感することなのですが、やっぱり“母親”とは特別な存在なんですね。

本作でも子供たちが寝る前に絵本を読んでくれとせがみ、グラスに作った水割り片手に
絵本をベッドで読み聞かせるなんてエピソードがありましたが、お腹を痛めて産み、出産の瞬間を共有し、
毎日・毎夜一緒に過ごして育ていくと、それこそタイトル通り“毎日かあさん”で、父親という視点から見ても、
やはり子供にとって母親とは特別な存在なのだろうなぁと実感させられて、羨ましくさえ思います(笑)。
(まぁ・・・でも、母は母でいろいろな意味で大変なわけですけどね・・・)

原作となった西原 理恵子の漫画は2017年に15年もの長期に及んだ連載が終了となりました。
おそらく連載当初は子育て真っ最中で、連載終了の頃になると子供たちは大人になっていたことでしょう。

おそらくは漫画を執筆しながらも、彼女自身、子育てに追われながら忙しない日々だったことでしょう。
そんな中で、いろいろなことがありながらも連載を継続できたわけで、幾多の苦労もあったことでしょう。
そうなだけに、映画化までもが実現して、アニメ化にまでなったことは、ひょっとすると彼女の想像を超えた
大成功のシナリオだったのかもしれません。これは亡き元夫からのプレゼントなのかもしれません。

そういう意味では、今、西原 理恵子は某クリニック会社のオーナーとの交際が報じられていますが、
子育てを立派に終え、一人の女性として恋愛をしている姿は、女性の強さを象徴した姿なのかもしれません。

おそらく西原 理恵子本人は映画では語り切れないほどの苦労を重ねてきたのでしょう。
漫画家として成功を収めるまでの道のりも、決して緩かったわけではなく、様々な紆余曲折があったのでしょう。
そうなだけに、本作が過剰に美化されることなく、映画になったということ自体に大きな価値があったのでしょうね。

あまり細かな部分は行き届いた映画とまでは言えませんが、
作り手も実に丁寧に映画を撮ろうとする意図はあったようで、粗雑な仕上がりにはなっていない。
おそらく家庭を持つ前に本作を観ていたときと、今では感じ方が大きく異なっているとは思いますが、
やはり元夫が“死”という永遠の別れを予期して、必死に誰もいない家の中をカメラで写真を撮りまくる姿には、
胸にこみ上げるような、力強いパワーがありましたねぇ。これは最近の日本映画としては珍しい力強さだと思います。

亡くなった元の旦那さんは、本作を観て、どう思うのでしょうか・・・?

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 鈴木 聖太郎
原作 西原 理恵子
脚本 真辺 克彦
撮影 斉藤 幸一
美術 丸尾 知行
編集 宮島 竜治
音楽 周防 義和
照明 豊見山 明長
録音 白取 貢
出演 小泉 今日子
   永瀬 正敏
   矢部 光祐
   小西 舞優
   正司 照枝
   古田 新太
   大森 南朋
   田畑 智子
   光石 研
   鈴木 砂羽
   柴田 理恵
   北斗 晶