ダーティ・ファイター(1978年アメリカ)

Every Which Way But Loose

これはコンプライアンスの意識が高まった現代では、作れない映画だろう。

いわゆる“ストリート・ファイター”をテーマにした映画であり、
店の中だろうが路上だろうが、とにかく売られたケンカはかうし、周囲もそれを全く疑問に思わない。
実際にこういうことがあるのかはよく分からないけど、アメリカの肉体労働をする労働者を応援するような
部分もあって、劇場公開当時は賛否両論ではあったらしいけど、一部の層には熱烈な支持があったようだ。

まぁ・・・これは結構なトンデモ映画ではあります、内容的に。

相変わらずイーストウッドはひたすら腕っぷしが強く、当時既に50歳手前のオッサンでしたが、
動きが俊敏で性格的にやりたい放題。ケンカの“戦利品”としてゲットした、“クライド”と名づけられた
オランウータンを飼育していて、とにかく人になついている。ビールは飲むし、人にキスするし、抱きつくし、
妙に人間臭い愛らしい存在ですが、冷静に考えると、オランウータンを普通に連れ歩く光景は、なんだか異様だ。

そもそも映画の冒頭から、この映画のダラしなさは筋金入りなものでした。

主人公は堂々とトラックの運転席からゴミをポイ捨てするわ、
荒い運転で工場内に入構する際に荷台から何か落とすわ、細かなことに目を向けたらやりたい放題。
オマケにバーでナンパしようとした女性から冷たくされたからと言って、入れ歯をスープに入れる嫌がらせ。

思わず、「こりゃどうしようもないヤツだわ」と切り捨てたくなるところだが、
映画を観続けていると、「まぁ、これはあくまでコメディだから」と諦めにも近い(?)“悟り”を開く境地になった(笑)。

やたらと主人公にケンカを売ってくる中年オッサンの集まり“ブラック・ウィドー”にしても、
血気盛んなんだけど、全く相手に歯が立たないという情けなさで、最後は主人公に追われて逃げ回る。
それでも、執拗に主人公を狙うというから、なんだか支離滅裂なんだけど、このユルさを楽しむ映画なのでしょう。

それはバーでケンカになった警察官も同様で、やっぱり主人公は恨みをかうのですが、
主人公がカントリー歌手リンを追って行くのをトレースするように“ブラック・ウィドー”の連中や、
この警察官を追跡していきます。警察官は病欠と偽って、仲間と一緒に主人公をハンティングするのかという勢いで
ライフル持っていくのですが、結局は情けない展開でアッサリと打ちのめされてしまうというお約束の展開。

“ブラック・ウィドー”のリーダーも手下を散々、叱咤するものの、まるで弱っちくて話しにならない(笑)。
しかも、ルード・ゴードン演じる老婆に主人公の行き先を聞き出しに来るときも、脅す目的なのか、
相手を完全に甘く見ていたのか、整地された庭をバイクで荒らして、家の柱をバイクで破壊するものの、
激昂した老婆がライフルを持ち出して反撃を喰らって、慌てて逃げ回るという間抜けっぷり・・・。

個人的には、このリーダーくらいはもっと冷静沈着、若しくはクレイジーな男として描いた方が
『マッドマックス』っぽくなって良かったように思うのですが、この映画は敢えて間抜けな感じで描くんですね。
イメージ的には主人公の追っ手は、徹底してギャグの対象として描いているという感じですね。

しかし、映画はクライマックスで、まるで「勝つだけが全てではない」と言わんばかりの教訓を提示するという、
なんだか中途半端な部分もあって、これはこの映画の難点かなと思った。こればかりはバランスが悪い。
強いて言えば、このクライマックスに主人公が対戦する相手が、最強と称される大柄なオッサンなわけですね。

これも主人公は劣勢に転じた相手にかけられる歓声の声に惑わされたのか、
「老いぼれは引っ込め!」と言われる現実に躊躇したのか、そこに思いやってしまう甘さがある。

本作の製作にイーストウッドがどれだけ積極的に関わっていたのかは分かりませんが、
仮に本作をイーストウッドが監督していたら、このようなバランスを欠いた構造になっていたのだろうか?
「やっぱり最後は男の腕っぷしで勝負だぜ!」とか「相手を打ちのめしてこそ」というところを敢えて描いて、
それでも結局は女癖の悪さで痛い目にあう、みたいなイーストウッドの半分趣味のような感覚を優先させたかも。

何故か本作は続編が製作されてますので、半ばイーストウッドはソンドラ・ロックと
共演したかったがために企画に乗っていたのかもしれませんが、結構ノリノリで出演していたのかもしれません。

ただ、今の時代、こういう映画は共感を得にくいでしょうし、色々な観点から敬遠されそうな内容だ。
こういう題材をコメディにすること自体どうなのかと言われてしまいそうで、なんだか肩身が狭いかも。
正直言って、こういう映画を受け入れていたというのは、如何におおらかな時代だったんだと実感する。
別に“おおらか”という言葉は過去を肯定して、現在を否定する意図だけではないのですがねぇ・・・。

監督のジェームズ・ファーゴは76年の『ダーティハリー3』で監督デビューしましたが、
おそらくそのつながりで起用されたのではないかと思います。但し、本作以降はイーストウッドと一緒に
仕事をしていないことから、ひょっとすると本作自体が製作側が期待していた仕上がりではなかったのかもしれません。

それにしても、この映画は“クライド”と名づけられたオランウータンの演技に驚かされる。
冗談抜きに、この演技は映画史に残るほどのインパクトがあると思いますね。ここまでのは観たことがありません。
まぁ、知能指数も高いのだろうなと思わせられますけど、教えたにしても凄い人間臭い仕草でビックリだ。
(“クライド”のイタズラで自動車のジャッキを勝手に降ろすというのは、かなり怖いけど・・・)

言ってしまえば、これはイーストウッドが演じるトラック野郎≠フようなもの。
欧米でも物流業界で働くドライバーは、肉体派な男性が就く職業というイメージがあること自体、
少々意外だったせいか、こういうトラック野郎≠フようなストーリーが成立することが、僕の中では新鮮でしたね。

オマケにこの主人公も、ありえないほどに迷惑な男だ。ジェフリー・ルイス演じる自動車整備工も、
自分の母親の面倒を看なければならないのに、この迷惑男とオランウータンに部屋を貸すなんて考えられない(笑)。

しかも、バーに行けば、他人に落花生は勝手に食べて相手を激怒させてケンカになるし、
突然飲んでいる客を後ろからどついたりして怒らせて大ゲンカになるし、この主人公も社会不適応者みたい。
バーで一目惚れしたカントリー歌手は追い回すし、これを現実世界でやったら、それは大変なことになりますね。

こういったキャラクターであっても、イーストウッドは自分の持ち味を押し切ってしまう力がある。
映画の中身的には男性本意。イーストウッドの映画は、正直言って、そういう内容が多いことは否定できない。
オマケに自分の恋人であるソンドラ・ロックを必ずセットでキャスティングさせていたのですから、
当時のイーストウッドは結構な公私混同というか、ハリウッドでも確固たる地位を築いていた証拠でしょう。

正直、本作のカントリー歌手のリン役なんて、別にソンドラ・ロックじゃなくても務まりそうな役ですからね。
吹き替えなのかもしれませんが、彼女の歌声も印象的に残るかと言えば、なんとも微妙なところですね。。。

どうしても、本作はオランウータンの“クライド”の演技がインパクトが大きく、
人間の出演者たちは可哀想な気もしますが、映画の中身がそれなりだっただけに何とも言い難いですが、
ここまでコミカルなイーストウッドの出演作というのも当時としては珍しく、ファンなら必見の作品でしょう。

それにしても、あのオランウータンを個人で飼育するとなったら、エサ代だけで破産しそうですな・・・(苦笑)。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジェームズ・ファーゴ
製作 ロバート・デイリー
脚本 ジェレミー・ジョー・クロンズバーグ
撮影 レックスフォード・メッツ
音楽 スナッフ・ギャレット
出演 クリント・イーストウッド
   ソンドラ・ロック
   ジェフリー・ルイス
   ルース・ゴードン
   ビバリー・ダンジェロ
   ウォルター・バーンズ
   ロイ・ジェンソン
   ジョージ・チャンドラー