エターナル・サンシャイン(2004年アメリカ)

Eternal Sunshine Of The Spotless Mind

ケンカした勢いで記憶を消去してしまった恋人にショックを受け、
自身も愛する恋人との記憶を消去しようとするものの、失って初めて気づいた恋人の存在感の大きさから、
再び恋人を取り戻そうと自分の脳の中で孤軍奮闘する姿を描いたラブ・ストーリー。

まぁこの映画は残念ながら、話しに関しては、1回見ただけではその良さが分かりませんね。
そういう意味では、映画として不誠実な印象を僕は受けました。

この画面作りも僕の好みではないのですが、客観的に見ればナヨナヨとした弱っちい恋愛を、
最高に可愛らしい、実に人間的なロマンスへと昇華させたという点で、僕は感心しましたね。
チョット狙い過ぎな感じもしますし、映画としての粗はたくさんあると思う。

しかしながら、この映画で描かれたジョエルとクレメンタインのありのままの姿に象徴されていたように、
見てくれの良い、完璧な人間なんて皆無に等しいわけで、ましてや誰もが見て理想的なカップルなんて皆無。
そうであるがゆえ、映画も人によって色々な見方は当然あるし、誰も観て完璧な映画なんてないのかもしれない。
(...が、僕は敢えてそんな完璧な映画を常に求めているが...)

監督のミシェル・ゴンドリーはミュージック・ビデオ出身で01年の『ヒューマンネイチュア』で評価され、
映画監督としての道を本格的に歩み始めたようですが、まだまだ映像作家としては発展途上だと思う。
ミュージック・ビデオの仕事の斬新さは認めますが、基本的に人の動きや自然など、画面を構成する上での、
作為的意図をカメラに収めることに関しては、あまり新鮮味が感じられない。
『ヒューマンネイチュア』にしても本作にしても同様なのですが、思わずハッとするような強いシーンが無いのです。

ただ前述のように、
決して完璧ではない、どこにでもいるような男女の恋愛を最高に可愛らしく撮ったことは大きな功績だと思う。
本来的には自由に動けないはずの脳内世界で、クレメンタインへの強い想いを抑え切れず、
あの分からず屋のクレメンタインをも説得して、2人が再び結ばれようと奮闘する姿は感動的ですらある。

そんな強い意志を持って再会したはずなのに、再びケンカしてしまう弱さも人間的(笑)。
嫌な人にはとことん嫌な世界だろうけど、これでこそ人間だと思う。

随分と複雑な構成をとった映画ではありますが、基本的には2回観れば把握できるばずです。
確かにこれだけ時間軸を破綻させ、現実と脳内世界の描写を混同させれば、奇異な映画になるのは当然。
個人的にはこうやって確信犯的に映画をこねくり回す手法は好きになれないんだけど、
SF的な要素を織り交ぜ、上手くジョエルとクレメンタインの恋愛劇を成立させた結果は称えられるべきだろう。

脚本のチャーリー・カウフマンは21世紀に入ってからは、ハリウッドですっかり売れっ子脚本家だが、
いつまでこういうアイデアが沸いてくるのか不安ですね。彼のシナリオは多くの新進映像作家の手によって、
映画化されていますが、彼のシナリオの独創性に完全に負けてしまっている映像作家が多いのが可哀想。
本作はまずまず頑張っているけど、少しでも何かが違ったら、おそらく映画は崩れていただろう。
まるで、ジョエルの脳内世界で民家がモロくも崩れ落ちていったかのように・・・。

まぁこれは映画の良さが脚本の良し悪しだけでは決まらないことを示唆してると思いますね。
本から映像へ“起こす”のが一番の難解なわけで、全ての脚本が容易に映像化できるわけではありません。
そういう意味ではチャーリー・カウフマンって、映画監督泣かせな脚本家なのかもしれませんね。

ジム・キャリーが自身の得意な芸風を捨ててでも、物静かなジョエルに扮していますが、
この映画はクレメンタインを演じたケイト・ウィンスレットが抜群に素晴らしい。
デビュー直後はあまり気になりませんでしたが、最近の彼女の存在感は特筆に値するし、
例えば『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』や『リトル・チルドレン』など、観客を魅了する力を付けてきましたね。
芝居そのものにも、嫌味にならない程度の説得力が出てきたと思います。

それからやっぱり「ラクーナ病院」に勤める事務員のメアリーを演じたキルスティン・ダンストも良い。
ここにきて、ホントに良い女優さんになってきたなぁと思わせるだけの魅力を兼ね備えてきましたね。

こうして、キャストにも恵まれた作品ではありますが、
ジム・キャリーが抑えた演技をしてくれたおかげで、ジョエルというキャラクターを制御できたのは大きい。
だからこそ、ジョエルとクレメンタインの恋愛をディレクター主導の基に描けたわけど、
ミシェル・ゴンドリーも助かったでしょうね。ジム・キャリーが好き放題やったら、映画は成功しなかっただろう。

1回目観たときは、結構、僕は我慢の時間が続いた記憶がありましたが、
ある程度、ストーリーを頭に入れて整理して観ると、2回目はすんなり観れて印象は良くなりましたね。
そういう意味では、この映画の凄さは2回観て実感できるかもしれません。
(まぁ・・・ただ、2回観ないと分からないようじゃ、映画として凄いとは言えないと思うけど...)

ただ、やっぱりこういう撮り方が主流になっていくのは悲しい。
本作の場合はストーリー上、仕方ないとは思いますが、もっとシンプルな劇で観客を感動させて欲しいとは思う。
これだけ複雑な内容でなければ映画に感動できないほど、現代の観客の心は貧相になってしまったのだろうか?

映画というメディアは、まだそれだけの力を持っていると、僕は信じているのだから。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ミシェル・ゴンドリー
製作 アンソニー・ブレグマン
    スティーブ・ゴリン
原案 チャーリー・カウフマン
    ミシェル・ゴンドリー
    ピエール・ビスマス
脚本 チャーリー・カウフマン
撮影 エレン・クラス
美術 ダン・リー
衣装 メリッサ・トス
編集 ヴァルディス・オスカードゥティル
音楽 ジョン・ブライオン
出演 ジム・キャリー
    ケイト・ウィンスレット
    キルスティン・ダンスト
    マーク・ラファロ
    トム・ウィルキンソン
    イライジャ・ウッド
    ジェリー・ロバート・バーン
    トーマス・ジェイ・ライアン
    ジェーン・アダムス
    デビッド・クロス

2004年度アカデミー主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) ノミネート
2004年度アカデミーオリジナル脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞編集賞(ヴァルディス・オスカードゥティル) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度ワシントンDC映画批評家協会賞作品賞 受賞
2004年度ワシントンDC映画批評家協会賞監督賞(ミシェル・ゴンドリー) 受賞
2004年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞編集賞(ヴァルディス・オスカードゥティル) 受賞
2004年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞(ジム・キャリー) 受賞
2004年度サンディエゴ映画批評家協会賞編集賞(ヴァルディス・オスカードゥティル) 受賞
2004年度ユタ映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) 受賞
2004年度シアトル映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度カンザスシティ映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度セントラルオハイオ映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度トロント映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2004年度ロンドン映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞