勝利への脱出(1980年アメリカ)

Escape To Victory

これは、なんかスゴい映画だ(笑)。

名匠ジュン・ヒューストンが、第二次世界大戦下、ドイツ軍の捕虜になった
連合軍側の捕虜たちがドイツ軍のプロパガンダ部の企画により、ドイツ軍精鋭のサッカー選手たちと
フランスのパリで歴史的なサッカーの試合を行うことになる姿を、ダイナミックに描いたスポーツ・ドラマ。

もっとも、今でこそアメリカはサッカーのプロリーグができて、
国の代表チームも強くなりましたが、80年代当時はアメリカではサッカー熱が高くなく、
本作に主演したスタローンにしても、お世辞にもサッカーが上手いとは言えなかったそうで、
当初の構想ではスタローンはフォワードとして出演する予定だったのですが、
さすがにプレーの技量の低さがバレるせいか、アメフト経験者としてゴールキーパーにするということになったらしい。

ペレはじめ、当時のサッカー界のスターも多数出演していて、
映画終盤にある、コロシアムでの試合のシーンはなかなかの臨場感でなかなか良い。

ペレ自身は予想外だったのですが...試合の前半で負傷して、
終盤の終わりが近くなる頃までベンチで休んでいるという設定だったのですが、
やはり映画の中でもオーラが凄く、よくこんなに多くのサッカー界からの協力を得られたものだと感心させられます。

スタローンも、まだ『ロッキー』のイメージが強かったと思うのですが、
まるで63年の『大脱走』のスティーブ・マックイーンばりに、捕虜からの脱走をリードするかのように、
カムフラージュのためにサッカーに興じる姿を楽しそうに演じていて、これはこれで彼のイメージに合っている。

そんな彼が所属するサッカー・チームを率いるのはイングランド出身のマイケル・ケイン。
彼は彼で正直、既に若くはなかったのですが、一緒になってトレーニング・シーンから試合のシーンまで、
汗をかく大熱演で今になって思えば、これはこれでキャスティング面でスゴい映画ですねぇ〜。

これらをまとめたのが名匠ジョン・ヒューストンなのですが、
彼の創作活動の目線は既にアメリカからヨーロッパへ移っていたので、あまり違和感は無かったのでしょうけど、
おそらく当時のハリウッド資本の映画では、サッカーを題材にした映画が希少であっただけに、
これだけキャリアの長いディレクターが、撮る映画としてかなり意外なことだったのではないかと思います。

試合のシーンでは、ドイツ側が圧倒的に有利な条件を作られて、
中立的な立場であるはずのスイス人レフェリーもドイツ側に買収されているかのようなニュアンスで描かれ、
連合軍チームは不利な環境での試合を強いられますが、試合の途中から劣勢から反撃する
不屈の精神を見せる連合軍チームの闘志に感化され、大勢の観客も連合軍チームを応援し始めるという、
ベタなストーリー展開ではありますが、映画終盤の盛り上げ方が素晴らしく、実にアツい映画だ。

この盛り上げ方については、ジョン・ヒューストンがとてて上手く、
おそらく描きたいことがいっぱいあったとは思うのですが、実に判断良く映画をシェイプアップさせ、
良いヴォリューム感に映画がまとまり、この辺はジョン・ヒューストンの経験値の高さを感じさせますね。

映画の大きな焦点であったはずの捕虜からの脱走というエピソードが、
映画の途中でまるでどうでもよくなったかのように、すっかりサッカーに熱中してしまうあたりも良い。
その士気を高めるのがスタローンではなく、マイケル・ケインであるというのも妙に面白い。

とは言え、少しずつどこか物足りない映画でもある。
上手い映画で、見応えのある映画なのは事実。しかし、ドラマとして訴求するものが弱い。

ペレが指導したというサッカーの試合シーンにしてもそうなのですが、
もう少し主人公たちにのしかかる困難というものを描いて、その困難を克服する爽快さがあっても良かったですね。
それと併せて、やはり捕虜状態から解放されるというのも、大きなテーマであるはずですので、
スタローンが簡単にパリへ下準備しに行けてしまうなど、一つ一つのエピソードにもっと明確な困難と、
大ピンチがあって、それらを克服していった方が、映画に良い意味での緊張感が生まれたと思うんですよね。

ドイツ軍少佐を演じたマックス・フォン・シドーは、彼にとっては虎の巻のようなキャラクターですが、
映画のクライマックスで5万人の観客が大量に流れ込んでくるのを観ると、彼の処遇は悲惨なものでしょう。

どうやら、この映画のモデルになったことが現実に起きたようで、
1942年にウクライナで行われた捕虜になった連合軍兵士の混成チームと、ドイツ軍の空軍兵士で構成された、
サッカーチームが2試合対戦して、両試合ともにドイツ軍が敗れたということに基づいていて、
ドイツ軍チームの選手たちは、後に強制収容になり処刑されてしまうという悲劇になっているようだ。

ドイツ側のプロパガンダのために、サッカーの親善試合をやるということ自体、
そのコンセプトがイマイチ分からないのですが、ヨーロッパではそれだけサッカーという競技が
彼らのアイデンティティーにインプットされているということで、彼らにとってサッカーは特別なものだということですね。

それからパリに暮らすレジスタンスの女性レニーの存在も中途半端。
何をキッカケに主人公に恋愛感情を抱いたのかも、どんな過去があるのかもハッキリ描かれず、
それでいて映画のクライマックスで群衆の中でお互いに探し合うのだから、今一つ説得力がない。

ペレが伝説的なサッカー・プレーヤーであることは認識した上で観てますが、
この映画はペレを観ようと思ってチョイスすべきではないと思いますね。どちらかと言えば演出面での
アドバイザーとしての位置づけであったようで、ペレ自身の出演シーンは凄く少ないです。

試合のシーンになると、主演のスタローンも活躍するシーンが少なくなり、
別に試合の中で“スーパーセーブ”連発というほどでもないので、目立たなくなってしまいます。

そういう意味では、ジョン・ヒューストンのポイントの絞り方も凄くって、
映画の終盤の試合シーンは、ほぼ完全にサッカー好きのためにあるような内容と言っていいですね。
しかも、ペレではなく、欧州の名プレーヤーの方が見せ場が多く、彼の方が目立っているように思います。

そういう意味でも、これはなんだかスゴい映画ですね。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・ヒューストン
製作 フレディ・フィールズ
原案 ジェフ・マグワイア
   ジョルジェ・ミリチェヴィク
   ヤボ・ヤブロンスキー
脚本 エヴァン・ジョーンズ
   ヤボ・ヤブロンスキー
撮影 ジェリー・フィッシャー
音楽 ビル・コンティ
出演 シルベスター・スタローン
   マイケル・ケイン
   マックス・フォン・シドー
   ペレ
   カロル・ローレ
   ダニエル・マッセイ
   ティム・ピゴット=スミス
   ジュリアン・カリー