エスケープ・フロム・L.A.(1996年アメリカ)

Escape From L. A.

これは自分の勝手な想像を遥かに上回る「お●カ映画」でした(笑)。

いやはや、さすがはジョン・カーペンター!
主演のカート・ラッセルはプロデュースも兼任しての張り切りぶりなので、
結構、真面目にプロジェクトに参加していたのでしょうけど、ジョン・カーペンターのカラーを
全面に押し出したような、実に個性的かつ独特なSF映画で、どこか笑える映画でもあります。

やっぱり、ジョン・カーペンターの映画は少し斜に構えて観るぐらいが丁度良い(笑)。
これは真面目にサスペンスフルなSF映画を観たいと、期待して観てはいけないタイプの作品です。

と思ってたら、これは81年に製作されカルト的SF映画として
根強い人気がある『ニューヨーク1997』の続編ということで、ジョン・カーペンターのファンなら
必見の続編だったというわけですね。僕は正直言って、この事実に観終わってから知りました(笑)。

まぁ、『ニューヨーク1997』は未見でしたけど、
前作を観ていなくとも、楽しめるは楽しめるんですよ。映画のテンションに合わせるまでに、時間はかかったけど。

96年の劇場公開当時、2013年なんて先の時代がどうなってるかは
分かっていませんでしたが、少なくとも本作のように荒廃した世界ではなかった。
だからこそ言えることなんですが、主人公に与えられる携帯電話のような通信手段のデザインも、
現代のスマートフォンのことを思うと、デザイン的にももの凄くチープで、どこか笑える描写ではあります。

この辺も含めて、本作はジョン・カーペンターのカラーで埋め尽くされた映画というわけで、
主演のカート・ラッセルも全面的に本作製作に関与していて、意欲的な企画だったのでしょう。
それゆえ、ジョン・カーペンターも思いっきり、自分のやりたいことだけをやったという感じがあります。

僕は続編である本作を先に観てしまったせいもあってか、
無性に『ニューヨーク1997』の方を観たくなりました。ありがちですが、続編よりも評価高いようですので。

本作でビックリなのは、孤島化して荒廃したロサンゼルスから続く水道管の末端で、
何故かピーター・フォンダ演じるオッサンが、サーファー姿で「今から大津波が来るから、待ってんだ」と
言って、サーフボード持って波を待つなんて、呑気なことをやってるシーンを大真面目に描いたことだ。
しかも、いざ大津波が来たら、主人公も一緒になってサーフィンしちゃうのも、奇想天外だ。
(但し、90年代の映画の割りにはCGもテキトーな感じなので、視覚効果技術的にはイマイチだが・・・)

このオッサンと主人公の別れも、妙に爽快感が溢れ印象的だ。

この辺のユル〜い感覚が馴染めない人には、徹底して向かないタイプの映画でしょうね。
迫力ある圧倒的な映像技術をもってスペクタクルに描くSFバトルを期待されては、この映画の立場が無い。
合衆国大統領役のクリフ・ロバートソンも、重要な登場人物の割りには、なんか軽〜い存在感。
これら全て、ジョン・カーペンターも確信犯的に描いたところでしょう。これは理解して観なければなりません。

映画の中の設定で、ロサンゼルスに大地震が来ると言われていて、
予想通り、マグニチュード9.6の大地震が襲い、地殻変動を伴ってロサンゼルスが孤島化してしまうという
トンデモない設定なのですが、思えば、2011年の東日本大震災も同じ規模の地震だったわけで、
東日本大震災はマグニチュード9.0でしたから、未曽有の大災害だったかということが分かりますねぇ。
(おそらく本作製作当時は、マグニチュード9.6という数値はやや現実離れしているという感覚だったのだろう)

一般ウケするタイプの映画ではないので、一部のファン向けの映画というのは、
個人的には感心しないけど、こういう映画の需要はあるので、たまにはこういう映画もいいなぁと思う。

主人公が合衆国側に身柄を拘束されて、勝手に投与されたウイルスが
神経系に作用するウイルスのようで、投与から8時間強経ったら作用し始めるという
随分と器用に潜伏期間をコントロールできるウイルスで、解毒剤を投与すれば助かるという設定。

昨今、世界で流行している新型コロナウイルスの件も、2020年5月現在では、
抗ウイルス薬の候補は数点ありますが、抜本的な治療薬はありません。
劇中のウイルスは人工的に作製されたウイルスだから、潜伏期間もコントロールされ、
解毒剤を打てば大丈夫という“設定”なのでしょうけど、新型コロナウイルスも早くこうなればいいです。
(まぁ・・・映画の中に描かれる、このウイルスにも実は大きなカラクリがあって、それは最後に明らかになるけど...)

風邪の特効薬も開発されてませんから、治療薬開発に楽観視はできませんし、
ワクチン開発の話しも流行当初から出ていましたが、コロナウイルスのワクチン開発には、
ワクチン開発の一般論を簡単に当てはめることはできないかもしれません。
検査も一定レベルでの誤判定はありますし、現状の検体採取は二次感染リスクが低いとは言えません。
それでいて診断がくだっても、対症療法しかない現実に、治療でもできることが少ないのだろうと想像します。

とすれば、予防の徹底か、集団免疫の獲得という可能性を探るしかないのかもしれません。
いずれにしても、短期的に結果が出たと“思える”ことはあり、世界各国の状況は多く報道されており、
私たちは今までの経験や原則論から、何が正しいのかという決断を下していかなければなりませんが、
あくまで今の段階では、何が成功で何が間違いかなど、長期的に評価しないと誰も分からないということです。

短絡的に判断せずに、終息か、季節性のものとして共存する社会を形成するまでの間、
私たちは試行錯誤しながら進んでいかなければいけないのでしょう。そういう意味では、正しく長期戦です。

この映画でも僅かに描かれていたように、ウイルスで人々の行動や命をコントロールするということは、
容易に想像されることだったのですが、やはり私たちのこれまでの生活や政治は感染症に対する備えが
甘かったのかもしれません。イタリアや日本でも、医療費の削減が行われ、今は表面化しています。
人間社会の常ではありますが、問題が表面化してから議論が活発化するというのが、残念な流れです。

正直、インフルエンザに対しても、これまでの認識は甘かったのかもしれません。
ウイルスの危険度比較は、専門家でもなければ、そもそも異なるウイルスの単純比較はできませんので避けますが、
これまでも実に多くの人々が感染症に罹患して亡くなっているという現実を、直視していなかったのかもしれません。

映画と関係ない話しになってしまいましたが(笑)、
この映画のウイルス投与を観て、そんなことを考えてしまいました。。。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・カーペンター
製作 デブラ・ヒル
   カート・ラッセル
脚本 ジョン・カーペンター
   デブラ・ヒル
   カート・ラッセル
撮影 ゲイリー・B・キッブ
音楽 シャーリー・ウォーカー
   ジョン・カーペンター
出演 カート・ラッセル
   ステーシー・キーチ
   スティーブ・ブシェミ
   ピーター・フォンダ
   ジョージ・コラフェイス
   ブルース・キャンベル
   バレリア・ゴリノ
   パム・グリアー
   クリフ・ロバートソン