アルカトラズからの脱出(1979年アメリカ)

Escape From Alcatraz

これは良く出来た作品ではありますが、少し勿体ない部分もありますね。

と言うのも、やはりこれは脱獄をテーマにした映画なのですから、
もうチョット、脱獄のエピソードを執拗に描いて欲しかったし、脱獄自体にもっと強い緊張感を持たせないと、
映画がまるで盛り上がらないですね。これはドン・シーゲルの志向の問題だから仕方ないけど、
もっともっとエキサイティングなサスペンス映画になるはずだったのに、それを放棄したようで勿体ない。

誰一人として、脱獄に成功したことがないことで有名なサンフランシスコ近郊に位置する、
アルカトラズ島にある連邦刑務所に収監されたフランク・モリスが1962年に成功した、
有名な脱獄事件をモデルにした作品ではあるのですが、おそらく脚色もかなりあるでしょう。

この映画で描かれるフランクは一体、何の罪で服役してきたのか、
どんな過去を持つのか、映画の中では詳細は一切、語られません。
これは敢えてフィクション的に本作を描きたかった意図があったのでしょう。
ドン・シーゲルは感傷に溺れることなく、あくまで冷徹にエンターテイメントに徹しています。

一見すると、これはノンフィクションの映画化であり、
ドン・シーゲルはリアル志向で撮ったかのように思えますが、僕はむしろドン・シーゲルは本作を敢えて、
創作的に描いており、決してリアル志向だけで撮ったわけではないと思いますね。

この辺のドン・シーゲルの徹底ぶりは、たいしたものだと思いますね。
本作の後は、80年代は2本の映画を発表して91年に他界してしまいますが、
絶好調だった70年代を締めくくる作品としては、十分に彼らしい作品で見応えたっぷりでしたね。

暗がりでのブルース・サーティースのカメラもまた絶妙で、
暗闇に浮かび上がる脱獄囚たちのシルエットを実に巧妙に映せていますね。

但し、前述したように...敢えて苦言を呈するのであれば、
脱獄にかける時間があまりに短過ぎ、映画の盛り上げどころを放棄したかのようで残念でした。
と言うのも、現実にそうだったのかもしれませんが、フランクたちの行動が何もかも上手くいき過ぎですね。
だからこそスリルも生まれないし、緊張感も無く、映画が最後の最後まで盛り上がらなかったですね。

過剰な脚色を避けたかったのかもしれませんが、
であれば、もっと時間をかけて執拗かつ入念に描くべきだったと思うんですよね。
そういう意味で、話しの前段に少し時間をかけ過ぎなんです、この映画。

しかしながら、不気味な人形と言い、それぞれのアイテムはなかなか面白く、
月1回の散髪や、週2回のシャワーで拾い集めた髪の毛を収集するなど、涙ぐましい努力が良い(笑)。

何故か突如として、オノで指を切り落とすという、
ショック描写を見せた、映画の中盤のシーンでは思わずドン・シーゲルがヒステリーを起こしたのかと、
心配になるほどでしたが、これも伏線になっていて、フランクが脱獄への感情を高ぶらせる過程を
表現するには十分な表現となっていて、この辺の配分はドン・シーゲルならではかもしれません。
(そういえばドン・シーゲルはいつも、一つはさり気なくショッキングなシーン演出をしている)

それと、アルカトラズ刑務所の厳しい処遇に触れていているのも良いですね。
ゲイを匂わせる大柄な男に絡まれて、フランクがケンカに巻き込まれてしまっても、
フランクも一緒になって、隔離部屋に押し込められ劣悪な扱いを受けるという理不尽さ。

囚人のささやかな楽しみも機械的に奪い取り、精神的な破滅を誘発します。
(まぁ刑に服しているわけだから、楽しみなんかなくて、当たり前と言われればそれまでだが・・・)

同じ頃にアラン・パーカーが『ミッドナイト・エクスプレス』を撮っていますが、
同じ刑務所を舞台にした映画とは言え、まるで方向性の異なるというのが興味深くって、
本作にはまるで絶望的な環境である刑務所の生活に、フランクが精神的に異常をきたすという、
ある意味で牢獄ものの定石である要素がないというのも、実に興味深いですね。

おそらくそういったシリアスで社会派なテーマには、
ドン・シーゲル自身がまるで映画の題材として興味がないのでしょうけれども、
同じ刑務所を描いた映画のアプローチとして、こういったアプローチも面白いですね。

でも、やっぱりもっと“脱出”にクローズアップして欲しかったなぁ。
用意周到に準備してる過程なんかもキチッと描いて、脱出の緊張感ももっと強く描いて欲しかった。
そうすれば、本作はもっと高く評価されただろうし、傑作として称えられたかもしれません。

余段ではありますが...
当初、フランクと一緒に脱獄しようとしていた隣の囚人はどうなったのだろうか?

映画の中では、当然、フランクと共に脱獄の準備をして
牢獄の壁を破壊してまで、やはり脱獄しようと決意するのですが、結局、乗り遅れてしまいます。
実は実在のフランク・モリスの脱獄事件でも、同じく未遂の囚人がいたらしいのですが、
牢獄の壁をブチ壊してしまっているだけに、看守が点検しに来たら、すぐにバレてしまうだろうに・・・。

まぁ・・・何はともあれ、傑作とまでは言えないにしろ、なかなか面白い秀作です。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ドン・シーゲル
製作 ドン・シーゲル
原作 J・キャンベル・ブルース
脚本 リチャード・タッグル
撮影 ブルース・サーティース
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 クリント・イーストウッド
    パトリック・マクグーハン
    ロバーツ・ブロッサム
    ジャック・チボー
    フレッド・ウォード
    ポール・ベンジャミン
    ラリー・ハンキン
    ブルース・M・フィッシャー
    フランク・ロンジオ
    ダニー・グローバー