エリン・ブロコビッチ(2000年アメリカ)
Erin Brockovich
ジュリア・ロバーツが念願のアカデミー主演女優賞を獲得したサクセス・ストーリー。
当時、ハリウッドでもノリに乗っていたスティーブン・ソダーバーグの監督作品ですが、
個人的にはサクセス・ストーリーとしては、そこまでの出来だとは思っていなかったのですけど、
何度か観ていくたびに、次第に本作の良さは分かってきたかな。まぁ、キャスティングの勝利な作品ではありますが。
一応は実話をモデルにした映画化作品とのことですが、おそらくかなり脚色はあるのだろうし、
実在のエリンが苦労して和解金を勝ち取るまでの道のりは、映画で描かれたほど単純ではなかっただろう。
物語の舞台となった、地下水が6価クロムに汚染された町であるヒンクリーの地域住民を
説得することだって簡単ではなかっただろうし、最後まで非協力的な住民や反抗的な態度、誹謗中傷や妨害など
様々なことがあっただろうし、多少なりとも映画では描くことができないダーティなこともあったのかもしれない。
それでも映画としては面白いと思う。これくらいのヴォリューム感が丁度良いというのも事実。
これ以上にシリアスで鈍重なストーリー展開になると、チョット映画としてキビしくなっていたのではないかと思う。
それはトーマス・ニューマンが書いた音楽も同様で、サクセス・ストーリーというより社会派映画のような雰囲気。
エンディングに流れるシェリル・クロウの Everyday Is A Winding Road(エヴリデイ・イズ・ア・ワインディング・ロード)は
爽快感溢れる楽曲ではありますけど、どこか軽くはない空気感が映画全体を支配することになってしまいましたね。
(ちなみにシェリル・クロウの曲は本作のために書き下ろした主題歌というわけではない)
そのせいか、観終わった後に爽やかに元気になる映画かと言われると...僕の中ではそんな感じでもなかったかな。
そう、この映画...全米史上最高の和解金を勝ち取ることに成功した弁護士事務所に勤務する、
弁護士資格のないエリン・ブロコビッチが、如何にして勝ち取るかを描いたサクセス・ストーリーという割りには、
映画の流れがどこか重たい。僕がイメージしていたほど、そこまでサクサクと映画が進んでいく感じではなかった。
それが最終的には僕の中での印象がそこまで良くならなかった原因なのですが、それでも出来が悪い映画ではない。
ヒロインのエリンがかなり感情的になってぶつかりまくる映画であっただけに、
本作のスティーブン・ソダーバーグは全体的にかなり抑えて撮ったと思います。最後にワッと湧き上がるような
感情的に煽るシーンがあるわけではないし、割りと淡々と困難も成功も描いている。ラストはとても自然体な感じだ。
これが本作の強みなのですが、これが最初に観たときは自分の中ではあまりピンと来ないアプローチだった。
最初はサクセス・ストーリーなんだから、もっと単純明快に見せて欲しいと思っていたのですが、どこか重たい運び。
この辺がスティーブン・ソダーバーグの狙いが違うところにあったということなのかもしれませんが、ヒロインの感情が
大きく揺れ動いて、終始、アルバート・フィニー演じる弁護士エドらとぶつかるものだから、敢えて抑えたのでしょうね。
このエドを演じたアルバート・フィニーはベテラン俳優ですが、ジュリア・ロバーツとの相性は意外に良かった。
時にチャーミングながらも、常にパワフルなエリンに圧倒されっぱなし。そんなエリンのぶつけてくる感情を受け止める、
懐の深さを感じさせる素晴らしい名演で、個人的には本作のアルバート・フィニーはもっと評価されて欲しかったなぁ。
まぁ、本作ではスティーブン・ソダーバーグのこれ見よがしな技巧的な側面は表には出してこないけど、
それでも映画の冒頭のエリンが何故にエドの弁護士事務所で働くことになったのかなど、一気通貫で見せる編集は
実に素晴らしく、ジュリア・ロバーツが怒りながら乗り込んだ車が走り出し、ワンカットで交差点でぶつけられるという
唐突な事故シーンで衝撃を受ける。このシークエンスはスティーブン・ソダーバーグの映画っぽい表情を見せている。
結局、この交通事故がキッカケとなってエリンは弁護士エドを紹介してもらって裁判を起こすのですが、
すぐに感情的になってしまう彼女の性格が災いして、法廷で暴言を吐いたことで印象が悪くなってしまい敗訴。
エドから多額の賠償金を受け取れると言われていたことに激怒し、エリンは“非常手段”としてエドの事務所に
自ら乗り込んで行って、エドの事務所で書類係として働く職に強引にありつきます。偶然見かけたヒンクリーの住民に
関するドミュメントに興味を持ったエリンが、早くエリンを厄介払いしたいエドに許可をもらって、ヒンクリーのことを
調べ始めたことをキッカケに、サンフランシスコに本社を持つ電力会社PG&Eという会社の工場から、猛毒物質である
6価クロムが垂れ流され、周辺住民に健康被害が及んでいることをPG&Eが隠ぺいしようとしていることに気付きます。
実在のエリンはミスコンの優勝者で、82年に故郷のカンザス州からカリフォルニア州へ移って来ていて、
バツ2で3人の子供のシングルマザーとして、なんとか生活のためにと働いていたところ、仕事の関係でPG&E社の
6価クロム垂れ流しの事実を知り、同社を相手取り訴訟を起こして、3億3300万ドルもの和解金を勝ち取りました。
エリンの思想的なものもあったかもしれませんが、エリンがこの訴訟にのめり込むキッカケは
あくまで彼女の個人的な経済事情が大きく影響していたことは事実で、これは僕は否定される行動ではないと思う。
やっぱり報酬あってこそ、献身的になれるものだと思うし、無償奉仕しろという方が無理な話し。
勿論、どれだけの成功報酬やマージンをとるのか、ということは人によって違うのでしょうけど、それが原動力だから。
報酬がキッカケだったとしても、自分の足で稼いで信頼を得て、汗をかいて人間関係を作るのだから立派なことです。
エリン自身、何度も仕事を辞めるように言われたり、おそらく彼女自身クジけそうなときもあったと思うのですが、
彼女は「初めて人から尊敬されていることを感じるの。みんな私の話しを聞いてくれるわ」と言い、頑なに続けます。
報酬がキッカケで始めたとは言え、こういう自己実現があって更に彼女が突き進んでいく原動力となっていきます。
個人的にはバイク好きな彼氏の存在が、少々映画に暗い影を落としてしまったというか、
どことなく重たい空気が支配するようになってしまった気がするのですが、それでも前に突き進むエリンの姿は
確かに自分本位なところもあるけれども、感情を表に出す彼女の姿には人間らしさというものを強く感じるものです。
これまで割りとクールに映画を撮ってきたスティーブン・ソダーバーグとしては、こういうキャラを描くのも意外でしたね。
実在のエリンもレストランのウェートレス役でカメオ出演しているのですが、精神的に強くタフな女性なんだけど、
ジュリア・ロバーツも胸をやたらと強調した役作りが話題となってましたけど、どことなくケバく演じているように見える。
この辺はエリン本人がどう思っていたのかは分かりませんが、実際にこれくらいトゲトゲしい女性だったのでしょうか?
前述したように僕は人間らしさを感じるキャラクターだなぁとは思ったけど、どうしても肯定的に観れない人もいるだろう。
もう少しマイルドに描くこともできたと思うのですが、本人がここまで協力している企画なので悪くは思ってないのかな。
この映画を観ていて驚愕だったのは、どこまで事実なのかは分かりませんが...
PG&E社がヒンクリーの地域住民には、クロムを使っているのは事実だが、漏出したのは3価クロムであって
むしろ3価クロムは体に良いのだと言い放って、地域住民を騙していたということですね。それでいて病院に通わせ、
地域住民の健康被害の程度を把握しつつ、それでも地域住民たちには事実を伝えようとしていなかったということ。
まぁ、3価クロムは毒性が低く、6価クロムの代用として使われることが増えた物質のようですけど、
人体に必要なミネラルであるとは言え、それは食物からの摂取の話しであって、漏出していいということではないし、
仮に地下水に染み出て、水道水として摂取する地域住民に「むしろ体に良いんですよ」なんてメチャクチャな説明だ。
これだけの問題を起こしておいて、これだけ無責任で不誠実な対応をしていたのに、
事業を継続できたこと自体が“時代”なのかもしれませんが、現代なら世論が“退場”を後押しするでしょうね。
このPG&E社はカリフォルニア州にガスや電気を供給する大手企業ですが、本作で描かれた有害物質の漏出、
その後も本作が劇場公開された2000年に大停電を発生させ、このときは日本でも大きなニュースになっていたし、
最近でも2019年に大規模な山火事の原因となった送電施設の不備が発覚するなど、問題続きの企業のようだ。
既に事実上の経営破綻している企業ですが、インフラに関わる企業ですからホントに潰れてしまったら困るわけで、
こういう危機に瀕すると国が動きます。それでも、尚、問題を起こしているので何か根本的な問題がありそうですね。
違うかもしれませんが、ひょっとするとスティーブン・ソダーバーグは本作を撮るにあたって
83年の『シルクウッド』を参考にしたのかもしれませんね。エリンが居眠りしそうだと夜間の運転中に電話するシーン、
意味ありげな笑顔や声かけでエリンに近づいてきて、エリンが不審に思うシーンなど、どことなく『シルクウッド』っぽい。
確かに正義のために闘う女性を描いた作品ですので、参考にしていてもおかしくはないですけどね。
(上映時間131分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 ダニー・デビート
マイケル・シャンバーグ
ステーシー・シェア
脚本 スザンナ・グラント
撮影 エドワード・ラックマン
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ジュリア・ロバーツ
アルバート・フィニー
アーロン・エッカート
マーグ・ヘルゲンバーガー
ピーター・コヨーテ
チェリー・ジョーンズ
ヴィエンヌ・コックス
2000年度アカデミー作品賞 ノミネート
2000年度アカデミー主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度アカデミー助演男優賞(アルバート・フィニー) ノミネート
2000年度アカデミー監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) ノミネート
2000年度アカデミーオリジナル脚本賞(スザンナ・グラント) ノミネート
2000年度全米俳優組合賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度全米俳優組合賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度全米映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(スザンナ・グラント) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度フロリダ映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ロンドン映画批評家協会賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞