エリン・ブロコビッチ(2000年アメリカ)

Erin Brockovich

まぁ何度か観て、少し評価し直しました。

と言うのも、実は僕、この映画に大きな期待を寄せていたせいか、
僕の中での勝手な先入観を生まれてしまったことにより、明るく健全で爽快なサクセス・ストーリーだと
思い込んでいたのですが、予想外なほどにヘヴィな空気が根底に流れる作品になっており、
POPに作られたイメージに不釣合いに感じ、最初に観た時は思ったより楽しめませんでした。

まぁそれが複数回観てみると、変な先入観が払拭されてか(?)、
そこそこ良く出来た映画に感じられて、社会派なテーマを内包した作品として捉えれば、
十分に楽しめる要素のある作品だと思いますね。上映時間の長ささえ、なんとかすれば、もっと良かったかも。

全米公開も日本での劇場公開も4月〜5月という、
配給会社からも映画賞レースに絡むことは全く期待されていなかった作品であったにも関わらず、
当時、ギリギリでハリウッドのトップ女優としての輝きが感じられた、ジュリア・ロバーツが初めてオスカーを
獲得した作品として大きく話題となりましたが、確かに彼女はその価値ある大熱演と言っていいですね。

あと、彼女が演じたヒロインのエリンを雇う弁護士、エドを演じたアルバート・フィニーも
久しぶりにメジャーな映画に重要な役で出演となりましたが、貫禄と茶目っ気ある素晴らしい存在感。

映画の売り込みと合っていなかったように感じられたとは言え、
それは僕の勝手な先入観が問題なだけなので、スティーブン・ソダーバーグの演出自体は
ひじょうに堅実で、さすがに本作を撮った頃はノリに乗っていただけありますね。
やはり映画の出来としても、僕は『トラフィック』より本作の方がずっと良いのではないかと思いますけどね。。。

本作はノンフィクションの映画化として話題となり、
破産寸前の3児のシングルマザーが、交通事故に遭い、裁判で敗訴した結果、
担当弁護士のエドに詰め寄り、生活のためにと働き始めた弁護士事務所で偶然知った、
カリフォルニア地域の配電公社であるPG&E社の汚水漏出問題に目を付け、
被害者地域へのインタビューを続けるうちに、電力会社への不信感を募らせ、
訴えを募ったところ、数百人に及ぶ被害者が立ち上がり、アメリカを揺るがす大訴訟に発展します。

これは93年に実際に起こった訴訟がモデルになっており、
当然、エリン・ブロコビッチも実在の人物で、本作にも映画の序盤でレストランのウェートレスとしてカメオ出演。

弁護士を資格を持っているわけでもなく、法学の勉強をしてきたわけでもない女性ですが、
何より強い使命感を持ち、自ら考え、自ら行動し、仕事に対する責任感は人一倍強く、
多くの被害者たちは彼女と直接、話すことにより、心を動かされて訴訟へと動き出します。

結果、訴訟国家と言われるアメリカの中でも、
調停にて過去最高額となる3億3300万ドルもの賠償額を獲得し、大きな話題となりました。

ポイントはPG&E社が田舎町ヒンクリーに圧縮工場を持っており、
実は工場内で人体に有害な6価クロムを使用しており、この6価クロムを含んだ汚水を
工場敷地外に垂れ流しにしており、この事実を隠蔽するため、PG&E社は工場周辺に暮らす人々の
医療費を全額工面し、更に土地や家を買い上げるという、不可解な行動に出ていました。

エリンは地道に一つ一つのデータや通達文書を拾い集め、
PG&E社が会社ぐるみで6価クロム漏出の事実を隠蔽しようとしていた証拠を固めていきます。
そんな彼女の姿を、時に感情的に、時に感傷的に描きながらも、決して彼女を美化するわけでなく、
彼女のありのままの姿を描いたことに、本作の成功の要因があったと思いますね。

但し、恋人ジョージとの関係はもっと上手く描いて欲しかったかな。
結局、本来的にはPOPな映画にして良い意味でのリズムを生むべき題材だったにも関わらず、
最後の最後までドンヨリした空気を生み出してしまったのは、エリンが抱える私生活の問題ですね。
僕はできることなら、多少のフィクションになってしまったとしても、ジョージをもっと理解あるキャラとして、
エリンを最初から最後まで陰で支える存在として、一貫して描き通して欲しかったですね。

と言うのも、やはりこういう強い女性を描いた社会派映画としてなら、
83年のメリル・ストリープ主演の『シルクウッド』の二番煎じになってしまうからなんですよね。

おそらく本作を撮るにあたって、スティーブン・ソダーバーグも
おそらく『シルクウッド』を参考にしたのではないかと思われ、その代表例が居眠り運転しそうだからと、
仕事帰りのエリンが家で待つジョージに携帯電話で電話をかけるシーンが正にそれを象徴していて、
このシーン自体は実に印象的なのですが、どうしても『シルクウッド』のラストと被るんですよね。
このスティーブン・ソダーバーグの決断が、ホントに正しかったかと言われると、僕は疑問なんですよね。
(それは『シルクウッド』の先駆性、メッセージ性の強さに勝るのは、そうとうに難しいことだからです・・・)

実在のPG&E社は後に電気料金高騰のあおりを受け、00年頃に急速に経営悪化し、
ロサンゼルス、サンフランシスコなどを対象に大規模な輪番停電を敢行した挙句、
経営破綻を迎えるという、日本でも大々的に報道されるほどの、トピックスになってしまいました。

行き過ぎた利潤追求主義など、倫理的に批難を浴びる中で、
コンプライアンス違反を重ねるということは、やはり社会経済からの退場を命ぜられるという、
典型的な悪いモデルケースとなってしまいましたね。我々も、まだまだ学ばなければならないことがありますね。

(上映時間131分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 ダニー・デビート
    マイケル・シャンバーグ
    ステーシー・シェア
脚本 スザンナ・グラント
撮影 エドワード・ラックマン
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ジュリア・ロバーツ
    アルバート・フィニー
    アーロン・エッカート
    マーグ・ヘルゲンバーガー
    ピーター・コヨーテ

2000年度アカデミー作品賞 ノミネート
2000年度アカデミー主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度アカデミー助演男優賞(アルバート・フィニー) ノミネート
2000年度アカデミー監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) ノミネート
2000年度アカデミーオリジナル脚本賞(スザンナ・グラント) ノミネート
2000年度全米俳優組合賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度全米俳優組合賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度全米映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(スザンナ・グラント) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度フロリダ映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
2000年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞
2000年度ロンドン映画批評家協会賞助演男優賞(アルバート・フィニー) 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞