燃えよドラゴン(1973年香港・アメリカ合作)

Enter The Dragon

いやはや、これは何度観てもスゴい映画だと思いますよ。

旋風のように登場して、アッという間に去ってしまったブルース・リーが
世界的な映画スターとしてブレイクすることになった大ヒット作で、初めてヒットしたカンフー映画でもあるし、
単なるカンフー映画としてだけではなく、立派なエンターテイメントだし、それに加えて本作はカメラが素晴らしい。

ぼうとうから『ダーティハリー』などで知られるラロ・シフリンのカッコ良い音楽から始まりますが、
ロケーションとしては香港という、東洋の大都市から始まるものの、映画の質感としては欧米の映画の雰囲気だ。

ブルース・リーが残念ながら他界してしまったことで本作の注目度が高まったのはありますが、
これは撮ったロバート・クローズも才気爆発といった感じで、凡百のアクション映画とは一線を画するものがある。
かの有名な映画のクライマックスにある、ハンの要塞島のアジトでリーとハンが直接対決するシーンは素晴らしい。
部屋が360°すべて鏡で覆われた部屋に逃げ込んだハンと対決するわけで、この演出は当時としては斬新なものです。
お互いにチラチラ見えていても、実体がどこにいるのかが分からない緊張感があって、これは良く考えたなぁと思う。

まぁ、ブルース・リーの“怪鳥音”と呼ばれる、「ホワァァァァ!」だったり、「アチャーーッ!!」だったりと
どこか個性的な彼の特徴だったり、対戦相手を殺めることを顔芸で表現するなど、映像技術的にも表現としても
限界があった73年当時、出来得る工夫を凝らしまくった作品という感じがして、これはホントにスゴい映画だと思う。

ハンが主催する大会に参加する競技者として、ジョン・サクソンやジム・ケリーといった
他の欧米出身俳優が出演していますが、どことなくフレッシュな感じではなく、スゴい強そうな感じではない(笑)。
ただ、それもこれも僕はブルース・リーを際立たせるためのキャスティングだったと、勝手に理解することにしています。

悪党のハンも、左手が無いのはいいとしても、少林寺拳法で対決するにも関わらず、
左手に鋭利な武器をアタッチメントで勝手に付けて、ブルース・リーらに対抗するという卑怯者だ。
このハンも結構なオッサンなので、普通に闘ったらブルース・リーに勝ち目がないのは明らかなので、ハンデかな(笑)。

それから、この映画を観ていて感じるのは、どことなく『007/ドクター・ノオ』のような匂いがあることだ。

ハンの要塞島に、いろいろな設備を持って自給自足の秘密基地を作り出しているのは、
まんまドクター・ノオの発想と同じだし、ブルース・リーが単身でハンのアジトの奥まで分け入って、
なんとかしてハンの牙城を崩そうとするあたりは、“007シリーズ”のようなスパイ映画の様相を呈している。
そう思って観ると、どことなくジョン・サクソンがショーン・コネリーに似ているように見えるから不思議だ(笑)。

アクション・シーンは“007シリーズ”のような奇想天外さは無いけれども、
前述したクライマックスの鏡張り部屋のシーンだけではなく、壁に写る影を使った演出を施したりと、
おそらく莫大な予算が投じられた作品ではなかったでしょうから、そんな中でも出来る工夫を凝らしまくっている。

そのおかげで、ただただカンフー・アクションに終始するというわけではなく、
映画全体としてソリッドでタフなアクション・シーンに仕上がっていて、良い意味での緊張感が感じられる。
この辺はロバート・クローズも単に着想点の良さだけに依存することなく、撮影現場でも工夫したのがよく分かります。
おそらくこういった創意工夫というのが、本作が永く世界的に根強く愛される理由ではないのかと思いますね。

アジトでの奇妙な晩餐会の描写も、どことなく“007シリーズ”をイメージさせる。
特に宴の会場のド真ん中で、決着がつかない謎の相撲をとり続けているのが印象深くって、
主催者であるハンが登場した瞬間に、力士たちも動きを止めるという謎の行動をとる。何故か日本文化も混ざっている。

この辺は、ひょっとすると『007は二度死ぬ』にインスパイアされたのかな。
別に香港だからと、香港の文化を忠実に再現しようとか、少林寺拳法の描写を正確にしようとか、
そんな気は全く無いようで、この映画の作り手も開き直って相撲を混ぜたりしているので、ディティールはいい加減だ。

こういうところにこだわりたい人には、本作のいい加減なところは許容できないかもしれません。

TVシリーズ『グリーン・ホーネット』で人気を博し始めていたブルース・リーを主演に据えるということで、
それまでハリウッドでアジア系の役者がメインになることは皆無でしたが、本作の企画は大きなチャレンジでした。
結果として映画は大成功で、ブルース・リーの急逝もあって伝説的な名画になりましたが、それでもアジア系の役者が
ハリウッド・スターとして歩むには、まだまだ時間が必要でした。やはり70年代は、まだまだ厚い壁があったんですね。

実際、当時はブルース・リーはアメリカで武術を教えていて、
スティーブ・マックイーンやジェームズ・コバーンが弟子だったらしく、交友があったというから驚きだ。
本作を観ていて思うのですが、闘う時にも一礼したりと、それまでの欧米の格闘技の感覚と全く異なるもので、
当時の欧米の方々にとっては、新鮮なものに映ったのかもしれませんね。本作のヒットでブームになったようですし。

せっかくラロ・シフリンのカッコ良い音楽がキマっているので、香港の市街地でもアクションが観たかったなぁ。
映画の序盤に、回想シーンで主人公の妹が悪党に追い回されるアクション・シーンがあるにはありますが、
映画のアクション・シーンの大半は、ハンの要塞島でのシーンなので、他のシチュエーションでも観たかったですね。

結局、“007シリーズ”のような雰囲気を感じさせながらも、本作は主人公の復讐劇なので
要塞島へ行くまでに一つのピンチがあって、最後にハンのアジトに乗り込んで決闘になる展開としても良かったと思う。

妹がハンの部下である悪党どもに追い回された挙句、自殺に追い込まれるという話しを聞き、
ハンへの復讐を誓うに加えて、タイミング良く国際情報部員からハンのアジトの内偵を頼まれるという展開ですが、
この国際情報部員がどこか間抜けなところがあって、「連絡をくれば、すぐに応援を出す」と豪語していたにも関わらず、
実際はそうでもなかった・・・という間抜けさが、僕には作り手が何を狙って、このエピソードを挟んだのか謎でした。

個人的な意見ですが、ロバート・クローズの演出は悪くないので、もっと素直に撮って良かったと思うんだけどなぁ。

“007シリーズ”の二番煎じという見方はあるかもしれませんが、
それをカンフー・アクションでやり切ったことに価値はあったと思うし、実は本作の端役としてジャッキー・チェンが
出演していたことでも有名な作品であり、後にワールド・ワイドな活躍をするジャッキーからすると、
本作でハリウッドのプロダクションの仕事を間近で見れたことは、彼の世界進出の志向に影響を与えたかもしれません。

そう思って観ると、本作だけでアジア・スターを生み出すことにはつながらなかったかもしれないが、
それでもハリウッド進出を果たしたジャッキーの原点とも言える作品であったと言っても、過言ではないと思う。

まぁ、本作で一気にブルース・リーのアクションがハリウッド・ナイズされてしまいましたので、
コアなブルース・リーのファンにとっては賛否が分かれるところではありますが、僕は必要なステップだったと思います。
おそらくブルース・リーも、彼らのアクションがハリウッドの一つのフォーマットとすべく、本作出演を決意したのでしょう。

繰り返しになりますが、これはブルース・リーのアクションや顔芸だけではなく、
アクション演出、撮影技法としても実に素晴らしい作品で、僕はとても価値ある一作だと思います。
そういう意味では、監督のロバート・クローズももっと評価されていい仕事ぶりだったと思うんですよねぇ。

ところで主人公がハンのアジトに潜入して、ハンへ近づこうとするシーンで、
予め捕らえていたコブラを、指令センターみたいなところに放つシーンがあるのですが、
確かにパニックになるのは分かるけど、いくらなんでも慌て過ぎでしょう(笑)。ガラス突き破る方が怖いし(笑)。

それを難なく扱う主人公でしたが、どうやら撮影時にブルース・リーはこのコブラに噛まれたようです(苦笑)。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロバート・クローズ
製作 フレッド・ワイントローブ
   ポール・ヘラー
   レイモンド・チョウ
   ブルース・リー
脚本 マイケル・オーリン
撮影 ギルバート・ハッブス
音楽 ラロ・シフリン
出演 ブルース・リー
   ジョン・サクソン
   ジム・ケリー
   アーナ・カプリ
   アンジェラ・マイオン