エネミー・オブ・アメリカ(1998年アメリカ)

Enemy Of The State

いやぁ、これは如何にもハリウッドですね(笑)。
まだ勢いがあった頃のジェリー・ブラッカイマーのプロダクションで作った作品で、
NSAという政府組織が成立を目指す、監視法案プログラムを巡る殺人事件の真相を知ってしまった、
やり手弁護士が見舞われる悪夢のような逃走劇を描いたサスペンス・アクションだ。

トニー・スコットらしい開き直りっぷりと、エンターテイメントに徹する精神が素晴らしいですね。
まぁパーフェクトな映画とまでは言いませんけど、これは十分に優秀なエンターテイメントだと思います。

それにしても、ホントに細部は一切考えてないけど、
「これで押し通そう!」とする作り手の気概が、観客をも圧倒する感じですね。

たかだか一人の政府組織の官僚が指示した殺人事件を隠蔽するためとは言え、
まだ法案が通過していないシステムを使いこなして、次から次へとハイテク機器のオンパレード。
一人の弁護士の行方を追跡するがために、家の隅から隅まで盗聴・盗撮機器を設置し、
人工衛星を使ってまでも、ニューヨークの市街地を大追跡。そのためにどれだけの労力が費やされたことか・・・。

おそらく密かに隠蔽したい事実であるにも関わらず、
逃げ惑う青年を追跡するために、ニューヨークの人混みの中で堂々と追跡し、
交通量の多い道路という人目に目立つ場所で、堂々と大追跡し、倒れ込む青年のポケットをガサ入れ(笑)。
全く隠密行動する気ゼロなNSAがあまりにお粗末なのですが、どんなにお粗末な悪党であっても、
どんな手を使ってでも保身に走る悪の親玉を演じたジョン・ボイトが傑出した存在感で映画を引っ張ります。

たかだかディスク1枚を奪うだけとは言え、関係者はアッサリ殺してしまうし、
果敢にも搬送されるターゲットを追って、堂々と救急車を追跡したり、ヘリを出して徒歩で逃げるターゲットを
追跡したりと、とにかくありとあらゆる手を尽くすクセに、まるでターゲットを捉える能力に欠けてる(苦笑)。
(これだけ派手に追跡活動しておきながらも、「警察やFBIが動くと、都合が悪い」と考えてるそうです。。。)

本作公開当時はウィル・スミスの主演作といったら、
ほとんどが日本でも大ヒットになっていた時代ですから、映画の出来も不問に近かったのですが、
そんな中でも本作は、安心のトニー・スコットのブランドのためか、実に安心して観ていられる。

映画の中盤でブリルという情報屋をめぐる描写が錯綜して、
ジーン・ハックマンとガブリエル・バーンが登場してくるのですが、ガブリエル・バーンがあまりに時間が短い、
まるでチョイ役のような扱いの悪さ、思わず驚いてしまったのですが、ジーン・ハックマンの方は
パソコンなども使いこなす元NSAの老人という役柄で、大活躍の内容ですから安定感があります。
(あからさまな合成写真で、黒人の親子と一緒に写っている写真には失笑したが・・・)

まぁ今回、彼が演じたブリルは74年にジーン・ハックマンが出演した『カンバセーション…盗聴…』で
彼自身が演じた主人公がそのまま年をとったような役柄であって、古くからの映画ファンであれば、
思わず「オッ!」と喜んでしまうようなキャラクター設定であることは強調しておきたい部分ですね。

2時間を超える上映時間ではあるのですが、
トニー・スコットの映画らしく、編集も実に鮮やかで、映画のテンポが良く、飽きさせるヒマがありません。

どんなに手抜かりのある悪党連中とは言え、
これだけプライバシーを侵害して、生活に入り込んで追跡してくるので、
さすがに本作の主人公ほど追い詰められると、僕ならもう降参してしまいますね。
無力な一般市民にできる反撃など、限られた選択肢となってしまい、そのほとんどが無力なものです。

この映画のクライマックスがあまりに力技という意見が多かったように記憶しているのですが、
確かにイタリアン・マフィアのレストランでのクライマックスはかなり強引なものです。
しかし、僕には本作の作り手がこうするしか無かったと思うんですよね。シナリオ上であっても。

そういう意味で、強いて言えば、本作はこうするしか無かったという状況に
自ら追い込んでしまった点で、最大に弱点を抱えてしまったものと思います。
よく「悪は強ければ強いほど、倒し甲斐がある」とは言ったものですが、あまりに強過ぎるのも考えものです。
反撃する者があまりに無力だと同様ですし、ある程度、納得性のあるラストを作るためには
オチを上手く付ける余地を残しておかなければならないわけ、その点で本作は決定的に上手くなかったですね。

まぁただ、その辺も含めて、如何に観客を楽しませるかというテーマに於いて、
トニー・スコットは映像作家として矢継ぎ早に“追われる者のスリル”に執着したという点に、
彼の潔さが象徴されていて、僕はそれはそれで賢い選択をしたと言っていいと思いますけどねぇ。

サスペンス映画の巨匠であるアルフレッド・ヒッチコックが示唆した、
“巻き込まれ型サスペンス”の定石でもあるアプローチを採用しており、やはりこういう要領の良さは、
トニー・スコットって秀でたものがあるということを如実に証明した作品と言えるでしょうね。
(近年は兄貴リドリー・スコットの方が、映画監督としての評価が高いような気がしますが・・・)

ところで僕は今までNSAという組織のことはほとんど知らなかったのですが、
本作で描かれたことに近い監視システムというのは、もう何十年も前から研究されているそうで、
今もコンピューター・ルームと言って、情報の中枢となるエリアは実在しているそうです。

今も、テレビ番組とかで街角カメラみたいな形で映像が流れたりしますが、
確かにプライバシーもへったくれも無い世の中になってしまった感はとても強いですね。

本作で描かれた監視システムはテロを防ぐなど、過激派の動向を知る上で運用しようとする、
言わば国家安全保障のツールとして利用しようとするものでしたが、これを一般市民とどう区分けするのかが
大きな議論となり、主人公の妻も猛反対しておりましたが、皮肉にも本作の2年後に「9・11」がありました。

まぁそれで防げたか否かはともかく、
おそらく今後もこういったシステムは大きなテーマとして取り組みは継続するのでしょうね。。。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 トニー・スコット
製作 ジェリー・ブラッカイマー
脚本 デビッド・マルコーニ
撮影 ダン・ミンデル
音楽 トレバー・ラビン
    ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 ウィル・スミス
    ジーン・ハックマン
    ジョン・ボイト
    リサ・ボネ
    レジーナ・キング
    バリー・ペッパー
    ガブリエル・バーン
    スコット・カーン
    ジェーソン・リー
    スチュワート・ウィルソン
    ローレン・ディーン
    トム・サイズモア
    ジャック・ブラック
    フィリップ・ベイカー・ホール
    ジェーソン・ロバーズ