エリザベス(1998年イギリス)

Elizabeth

かの有名なエリザベス女王が即位するまでの波乱を描いた、
ミステリアスな歴史劇で、98年度の映画賞レースで同時期を描いた『恋におちたシェイクスピア』と争った作品。

こういう題材の映画をパキスタン出身のシェカール・カプールが撮ったというのもユニークで、
おそらくこういうミステリーを加えた脚色に賛否両論はあるだろうが、高い挑戦意識を持った映画だと思う。

98年を代表する傑作かと言われると、それは正直言って疑問だが、
映画の企画、作り手がやろうとしたことは、個人的には『恋におちたシェイクスピア』よりも本作に軍配。
美術スタッフも健闘しており、予算の大部分を美術関連にかけたこともよく分かるし、
主演のケイト・ブランシェットも含めて、時代考証にはそうとうな苦労をしたであろうことがうかがえる内容だ。

ケイト・ブランシェットは堂々たる芝居で、映画の出来はともかく、
やはり同年のアカデミー主演女優賞が『恋におちたシェイクスピア』のグウィネス・パルトロウだったことが、
未だに納得できないですね(笑)。そう思わせるほど、本作でのケイト・ブランシェットの熱演は素晴らしい。

ちなみに彼女は地元、オーストラリアのメルボルンで舞台経験が豊富ではあったのですが、
映画出演は本作が2本目で、当時は凄い新人女優が登場したものだと驚かされたものです。

前述したように、とても作り手の挑戦意識が高い映画だとは思うのですが、
部分的にはとても勿体ないと思える難点があることは否めず、要領があまり良くない作品かもしれません。

まず、最も気になったところは、今一つ映画にメリハリを付けられていないところ。
これはシェカール・カプールが、ここまで大きな企画の映画を撮ったことに経験が無いこともありますが、
撮影前にもう少し映画の全体像をイメージできていれば、映画の中身は変わっていただろうと思えるだけに残念。
特に活劇を描くことを敢えて避けたような印象があって、パーティーでの踊りに動的な感覚を見い出すのですが、
どうも躍動感あるシーンを作るには不足な感じで、映画自体にメリハリを付けるというところまでいかなかったかな。

そのメリハリがあまり付いていないせいか、やや映画が冗長に感じられるというか、
緊張感がある画面にできず、どこか冷めた視点から観てしまった感覚があったのが気になったなぁ。
個人的には、こういう映画はもっと“入り込んで”観たいと思っていて、謀略に謀略を重ねたような
ドロドロとした物語なはずなのに、映画が全体的にサラッと“流して”いるような感じで、どこか冷めている。

これが結果的に、映画の最後まで悪い意味で影響してしまっていて、
僕は本作の場合は、もっと観ていて熱くなれる内容であるべきだったと思うんですよねぇ。

それと、エリザベスの心を惑わす存在として、ロバートという恋人が登場してきて、
彼をジョセフ・ファインズが演じているのですが、96年の『魅せられて』で映画デビューしたばかりとは思えない、
堂々たる芝居ではありますが、脇役に配役した“相手”が悪かった。完全に脇役に負けてしまっている。

と言うのも、エリザベスの腹心と言うべき存在である2人で、
ウォルシンガム卿を演じたジェフリー・ラッシュ、セシル卿を演じたリチャード・アッテンボローが良過ぎた。
映画はすっかり、この2人の存在感に支配されているようで、ケイト・ブランシェットを上手く支えている。
彼ら2人が異様なほどに存在感を利かせてしまったのは、ジョセフ・ファインズにとっては酷な現実でしたね。

まぁ・・・ジョセフ・ファインズにしたら、
『恋におちたシェイクスピア』にも出演していたのですから、この年は当たり年だったのですが、
こういうコスチューム劇にはよく似合う、濃い顔ということなんでしょうが、出演作の“選球眼”が確かなんでしょうね。

しかし、監督のシェカール・カプールはもっと活躍すると思ったんだけどなぁ・・・。

07年に本作の続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』でメガホンは取っていますが、
94年の『女盗賊プーラン』で話題となって、本作で欧米資本で映画を撮るチャンスを得たわけで、
いきなり本作を監督したわけですから、もっと積極的に映画を撮っていれば、もっとビッグネームになっていたはず。

少なくとも本作を観る限り、面白い姿勢をとれる映像作家なだけに、
もっともっと数多くの監督作品を観たいと思うディレクターで、創作ペースが遅いのが残念でなりません。

かつて、高校時代に世界史で習ったときの記憶では、
イギリスとフランスの仲が悪いことの発端として、12世紀の百年戦争にあったと記憶してますが、
本作でもさり気なく、そういったニュアンスがあって、フランスから求婚してきた皇族に女装の趣味があり、
それを知ったエリザベスが激怒し、更にヴァージン・クイーンとして生きる道へと突き動かされる皮肉が印象的だ。

いや、もっとも、彼に女装の趣味がなくとも、
エリザベスは彼の求婚に応じず、当時、敵対してはならないとされていた、
スペインの皇族の求婚ですら拒否するぐらい、エリザベスの恋心は強く、独立独歩で生きる女性だったとは
思うのですが、それにしてもイギリスから見たフランス人像というのが、垣間見れてなんだか興味深いですね。
(ちなみに当時から、どこの国であっても、女装や男色の趣味は珍しいことではなかったはず)

そんなこんなで、最後にエリザベスが声高らかに宣言するかのように、
「夫は取らぬ!」と言い放つシーンは、おそらく本作を代表する名シーンと言っていいだろう。

40年という長期間に渡って、イングランドを統治したエリザベスは
伝説的な歴史上の人物となっていますが、彼女は周囲によって作られた女王であったわけで、
彼女の精神的な強さ、芯の強さが培われた過程を上手く描けていると思いますね。

意外にありそうで無かった、若き日のエリザベスを描いた作品であり、
これだけ大胆な解釈を交えた作品というのは、ある意味でセンセーショナルな存在だと思う。
企画の段階でシェカール・カプールにとっては、勇気の必要な企画だったのでしょうが、
そんなプレッシャーを上手く良い方向に転化させた作品と言っていいと思いますね。

しかし、ケイト・ブランシェットの出世作として価値だけではなく、
映画の出来としても及第点は軽く超えた出来と言ってもいいと思います。
欲を言えば、もう少し活劇性を高めて欲しかったが、愛憎劇としての側面を強調したかったのでしょう。

これだけヴィジョンを持って、映画を撮れていたのですから、
もっと積極的に映画を撮っていれば、活躍していただろうと思えるだけに、
シェカール・カプールが寡作な映像作家になってしまったことが、重ね重ね残念でなりません。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 シェカール・カプール
製作 アリソン・オーウェン
    エリック・フェルナー
    ティム・ビーヴァン
脚本 マイケル・ハースト
撮影 レミ・アデファラシン
美術 ジョン・マイヤー
    ピーター・ハウイット
衣装 アレクサンドラ・バーン
音楽 デビッド・ハーシュフェルダー
出演 ケイト・ブランシェット
    ジョセフ・ファインズ
    ジェフリー・ラッシュ
    クリストファー・エクルストン
    リチャード・アッテンボロー
    ファニー・アルダン
    キャシー・バーク
    エリック・カントナ
    ジェームズ・フレイン
    ヴァンサン・カッセル
    ジョン・ギールグッド
    ダニエル・クレイグ
    エミリー・モーティマー

1998年度アカデミー作品賞 ノミネート
1998年度アカミデー主演女優賞(ケイト・ブランシェット) ノミネート
1998年度アカデミー撮影賞(レミ・アデファラシン) ノミネート
1998年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(デビッド・ハーシュフェルダー) ノミネート
1998年度アカデミー美術賞(ジョン・マイヤー、ピーター・ハウイット) ノミネート
1998年度アカデミー衣装デザイン賞(アレクサンドラ・バーン) ノミネート
1998年度アカデミーメイクアップ賞 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ジェフリー・ラッシュ) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(デビッド・ハーシュフェルダー) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(レミ・アデファラシン) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘアー賞 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(ケイト・ブランシェット) 受賞