エレジー(2008年アメリカ)

Elegy

これは『エレジー』というか、ただの“エ●ジジイ”を描いた作品というわけですね。

確かにペネロペ・クルスはキレイだ。撮影当時、34歳という年齢でしたけど女学生を演じていて、
それも違和感なく演じ切ってしまうのだから、この頃のペネロペ・クルスの美貌と美ボディは観る者を圧倒する(笑)。

でもさ、失礼ながらも...この映画、ハッキリ言って、彼女だけですよ。
老いても尚、お盛んな大学教授を演じたベン・キングズレーも、上手いは上手いんだけど、少々生々し過ぎる。

彼は若く見えるので、あまり意識させないけれども、実は撮影当時65歳という年齢になっており、
日本の大学教授で言えば定年退官になる年齢であり、その年齢の大学教授がプレーボーイを気取って、
たまに部屋にやって来る元教え子の中年女性との逢瀬を楽しんでいるかと思いきや、目の前の学生である
コンスエラに夢中になっちゃって、なんとか彼女とベッドインするために画策するなんて、なんだか気持ち悪い(苦笑)。

まぁ・・・そんな老人の悲しい性(さが)を映画化したのが本作と言えば、それまでなのですが...
それにしても、ベン・キングズレーのどこか有り余る男性ホルモンが発散されているように見えて、生々しい感じだ。
男の自分から見ても、そう感じてしまうのだから、これは世の女性が観ても、相当に生々しく感じられるのではないか。

いや、これがお互いに求め合う男女というのなら、それだけ情欲が強いんだなぁって納得できるんだけど、
この映画の場合は、主人公が半ば大学教授という地位を使って、コンスエラに近づいた面があることが否定できず、
ハラスメントの現代の感覚で見ると、この主人公がやってることは結構なアウト(笑)。それも飲み込む必要があります。

特に映画の前半にあった、パーティーでコンスエラを見かけ主人公が声をかけるシーンで、
自らのナレーションでも吐露しているのですが、なんとかコンスエラを“捕える”ために完全にロックオン状態(笑)。

それが、彼も積極的という言葉を通り越して、かなり露骨にやってるものだから呆れてしまう。
まぁ、欧米の男性の積極的なアプローチだから、こうなんだろうけど...自分の娘でもおかしくないくらい
年齢差がある女性にも、年老いて尚、こんなことを恥ずかしげもなく出来るのだから、相当に肝が座っていますね。

パーティーの中心にいるわけではなく、本など色々なことを得意げに喋り倒す主人公の隣にはコンスエラ。
広くもない階段に敢えて2人並んで腰かけて、頻繁に人が往来する階段なのに場所を変えようとせず、
何度も何度も主人公がコンスエラに体を寄せて、階段を往来させる姿に爺の涙ぐましい努力を感じる一方で、
その仕草一つ一つがあまりに慣れているような感じで、ベン・キングズレーの芝居があまりに生々しく見えてしまう。

それだもの、自分に妻子がいても家庭を顧みずに裏切りまくって、家庭崩壊させるわけで
その息子からも軽蔑の目で見られ、大人になってからも誰からも見向きされなくなってしまうわけですよね。
それが彼にとってラクな生活でもあるけれども、人間ってワガママなもので、老いるとそれが寂しさに変わってくる。
そうすると、よりコンスエラへの執着も強くなるわけですね。気付けば、過去にないくらい女性に執着し始めるわけです。

プレーボーイ気取りの爺さんとは思えないくらい、遊び回るコンスエラを見て嫉妬するし、時に感情的にもなる。
その嫉妬心から主人公は越えてはならない一線を越えてしまい、コンスエラから呆れられてしまう始末。
それも冷静に思えば、「何故あんなことをしてしまったのだろう?」となるのだろうが、既に冷静さを持てずにいます。
それだけコンスエラに対する愛情が深いとも解釈できますが、これは主人公の一人暮らしからくる反動だとも思った。

やはり、人生を共に歩める存在が欲しいというのが彼の本音であろうし、それには都合良く大人の付き合いをする
元教え子の女性ではなり得ない存在なのです。だって、お互いに割り切った関係が続いていたわけですからね。

しかし、そう言ってしまうと...コンスエラの本音がどうなのかは不透明なままで映画が進んでいくのですが、
まるでコンスエラに高齢になった主人公の面倒を看てくれと言っているようなものだなぁとも思うし、なんとも理不尽。
こうなってしまうと、平和的に解決することは難しい。主人公の大学教授も理性的な判断を下せない心境だっただろう。
そういう、繊細で微妙な感情表現を求められるベン・キングズレーでしたが、確かに上手いは上手かったと思います。

ただ、僕にはどうしてもベン・キングズレーのような精力的な表情から立ち振る舞い、
その全てが自然体に演じられていて、もっと枯れた魅力のある爺様が演じていたら、どうなっていたかが気になった。

監督は03年に『死ぬまでにしたい10のこと』で高く評価された女流監督イザベル・コイシェで、
僕の勝手な先入観で恐縮なんだけど、女性監督がこういう内容の映画をストレートに描いたことに驚かされた。
正直言って、映画の出来自体はまだまだかなぁと感じてしまったのだけれども、この映画のコンセプトそのもの、
そして主演のベン・キングズレーの描き方など、こういう切り口で女性監督が高齢者の性愛を描くことにビックリした。

おかげで、映画の終盤はやや悲壮感あるストーリー展開に傾いていくのですが、
その終盤の展開があまり頭に入ってこないほど、大学教授の憐れにすら見える姿が強烈なんですよね・・・。
そのせいか、ヤケにアッサリと映画が終わってしまうように見えて、ラストに訴求するものが感じられないのが残念。

ペネロペ・クルスに対抗するかのように、パトリシア・クラークソンが主人公の愛人として出演してますが、
彼女も“大人同士の都合のいい関係”と割り切っているかのかと思いきや、主人公が別な女性を部屋に連れ込んでる
証拠を見つけた途端に、もの凄い剣幕で怒り始めて主人公を叱責し、悲しい表情を浮かべる様子が印象的ですね。
結局、彼女は彼女で割り切った関係と思いつつも、依存していたことは否定できず、本音では割り切れていないわけ。

どうも、彼女も学生時代からの愛人であるような、微妙なニュアンスで描かれているのですが、
欲望に忠実に生きる男に、本気で恋してしまったところもあるようで、なんともこの男は罪深いなぁと実感。

まぁ、全くモテない人生を歩んできたから、この大学教授のような感覚は理解できないんだけれども、
これだけ欲望に忠実に生きることができてしまう人生というのも、なんともツラいものがあるのかもしれない。
そこには加齢との闘いもあるだろうし、それなりに“努力”しなければ、こんな生活を続けていくことはできない。
しかも、何かを間違えて問題となってしまえば、自らの職を失ってしまい、多くの人間関係を失ってしまうかもしれない。

そんな自分自身の危うさに気付きつつも、こういう本能的な人生を止められないというのは、ある種の病いに近い。

加えて言うなら、医師となった息子との関係を観ていれば分かりますけど、
主人公も自分がこれまでの人生で、自分を通したことで大切な人の信頼を裏切ってしまい、傷つけたことに自覚がある。
それでも彼は自分の生き方を止められない。そんな中で出会ってしまった、自分の子どもよりも若く美しい女性。
そうなれば当然、理性的な行動をとれなくなるし、何とか若い娘(こ)に付いて行こうとして、年甲斐もなく必死になる。

今どき、「オンナの身体は芸術品だ」なんて言ってしまうことを口説き文句にしている時点で気持ち悪いが(笑)、
それでも、いざ結ばれてしまうと、もう後戻りができない関係になってしまう。しかも、以前は女性側から彼に執着して、
途中から飽きてしまった主人公が、どう関係を終わらせるかばかり考えていたものが、老いるとその逆になってしまう。

本作はそんな悲哀を描いた、というのがコンセプトではあるのですが、これはかなりのレアケース。
作り手もこの主人公に共感性を見い出そうとか、コンスエラとのラストに感動してもらおうとか、そんな気持ちは
さらさら無いのかもしれませんが、まぁ・・・この2人の関係を見て共感するというのは、ほぼ無いことだろう(苦笑)。

中には、高齢者と若者の恋愛というのは成立することもあるだろうけど、その関係を維持することは容易ではない。
それは主人公が懸念していた通り、「いつかは若い奴に目移りするかもしれない」という心配が絶えないからだ。
この辺の感覚的な部分は上手く描けていたとは思うけれども、やはり題材的には少々無理がある映画と感じた。

まぁ、職業柄、若い子たちに囲まれる職業であることを考えれば、一定割合で不純な動機から教職に就く人が
誕生してしまうことは不可避なのかもしれない。人間誰しも欲はあるし、時に誘惑にかられることもあり得る。
しかし、例えどんな状況であっても、行動に移さないのがこういった職業のモラルと言っていいだろう。
(だからこそ、本来は採用試験のときに、そういう不適格者を排除できる仕組みにして欲しいのだけど・・・)

ちなみに、さり気なく主人公の生き方がしっかりと遺伝しているかのようなニュアンスに触れているのが面白い。
「オレは親父とは違うんだ!」と言い張る息子ですが、あんな調子では父親のようになるのは時間の問題だろう(笑)。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 イザベル・コイシェ
製作 トム・ローゼンバーグ
   ケイリー・ルチェッシ
   アンドレ・ラマル
原作 フィリップ・ロス
脚本 ニコラス・メイヤー
撮影 ジャン=クロード・ラリュー
編集 エイミー・ダドルストン
出演 ペネロペ・クルス
   ベン・キングズレー
   デニス・ホッパー
   パトリシア・クラークソン
   ピーター・サースガード
   デボラ・ハリー
   ソニア・ベネット
   ミシェル・ハリソン
   チェラー・ホースダル